名匠ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主演に迎えた『PERFECT DAYS』が絶賛公開中。写真家ドナータ・ヴェンダースによる個展「KOMOREBI DREAMS」のクロージングイベントが1月20日(土)に行われ、ダンサーの田中泯、音楽の三宅純が登壇した。またドナータ・ヴェンダース、ヴィム・ヴェンダースがオンライン登壇した。ドナータ・ヴェンダースが撮影した「KOMOREBI DREAMS」は映画『PERFECT DAYS』本編内で平山の夢として一部登場する。
『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など、数々の傑作を世に送り出し続けてきた名匠ヴィム・ヴェンダース。本作は彼が長年リスペクトしてやまない役所広司を主演に迎え、東京・渋谷の公共トイレ清掃員・平山の日々を描いた作品。
このたび開催されたイベントに登壇したのは『PERFECT DAYS』に出演したダンサーの田中泯、音楽の三宅純。そしてドナータ・ヴェンダースとヴィム・ヴェンダースがリモート登壇。映画『PERFECT DAYS』でも用いられた映像作品シリーズの成り立ち、そして同じく『PERFECT DAYS』をきっかけに生まれたヴィム・ヴェンダース監督の短編映画『Some Body Comes into the Light』について語った。
映画『PERFECT DAYS』の撮影日数は16日だが、実際には最終日、17日目にヴィム・ヴェンダースは田中泯の踊りを2時間強にわたり撮影していた。監督自らの希望だったが、いざ編集作業に入ると「あの映像がどこにも入らない。(田中泯の踊りが)強すぎる…」と、田中泯の踊りの圧倒的存在感に感動しながらも、頭を抱えていたという。
その後、昨年5月のカンヌ国際映画祭の際にヴィム・ヴェンダースは高崎卓馬に「あの17日目の映像を、短編映画にしたい。音楽は三宅純さんにお願いしたい。どうだろう?」と伝えた。高崎は「この映像は、映画『PERFECT DAYS』本編とは違う形で、本作にとって一番大切なものを表現していると思う」という。
田中泯はこれについて、「まだ、『PERFECT DAYS』の役柄から離れていない最後の日に撮ったもので、僕にとっては『PERFECT DAYS』とは切っても切り離せない状態でできた作品です。ただ、(これは)2時間ほど踊っていた中の8分間なので、瞬間瞬間に対しての僕の責任はあるけれど、前後関係はわかりません。完全に、ヴィムの編集の力で作品にしてください、と伝えました。そのとき、その環境での踊りと、(今上映された)この作品とは、無縁ではないけれど“田中泯が踊った踊り”というよりも“ヴィムが編集して作ったもの”として観ていただくのがいちばん良いと思います。踊りと編集との間にはそのように、踊った人の表現の時間軸というものは全くありません」と述べ、さらに撮影時にヴィムと交わしたやり取りについては、「こういう環境で日が当たって、木漏れ日があるということを言われただけで、特に何も指示はなかったです」と、その時の踊りがその環境から発せられたものだったことを明かした。
三宅純は実は『PERFECT DAYS』へ、音楽の担当を申し出たことがあるという。「普段はあまり言わないのですが『この映画の音楽をやりたいです』と伝えていたんです。そのまま機会がなかったのですが、カンヌ国際映画祭で役所さんが受賞されたあとに、高崎さんとヴィムから『音楽をやってみないか』というお話がありました。できればオリジナルをつくれたらいいなとは思いつつ、『こんなのもありますよ』と僕のソロアルバムの中からほかの曲をいくつかプレゼンしたところ、(泯さんの)映像をもとに自然発生的に選曲してくださったものになりました。(曲を作ったときに)いろいろと渦巻いていた意図とは全く違うところで曲が選ばれ、それを映像のトーンに合わせて、リミックスする形になりました。もともとは2005年パリに拠点を移してすぐ、最初に依頼された、当時のワールドカップのコンピレーションアルバムのものですが、それは未知の敵にたいする恐れとか、もしくはその未知の敵を威勢の対象につくったもので、聴き返して泯さんの踊りにあててみると、朗読と歌をうたっているところの声が若すぎるなと思って、全部録りなおしました。もう20年近く経過しているので…結果的に、木漏れ日のトーンに合ったかなと思っています」と語る。
そしてパリからリモートでドナータ&ヴィムが登場。ヴィムとそろってリモート参戦を予定していたドナータは急遽予定変更により移動中のタクシーからの参加となった。
ドナータは「このような素敵な展示が実現し本当にありがたく思っています。普段スチールのフォトグラファーとして活動しているのですが、このようにヴィムの映画の本編にかかわる形でコラボレーションできたのは初めてで、今回日本のみなさんとだからこそ実現が出来たと思います」と展示の実現と、映画への参加についての特別な思いを改めて語った。
撮影中に印象深かったことについては、「撮影の16日の間で晴れていた日がたった4日しかなかったことで、その間にできるだけの木漏れ日を探さなくてはならないということは大変でした。木漏れ日というもの自体はいつでもどこにでもありますが、探し出そうとしないと見つからないという、すごく特別な存在ではあるので、今回この木漏れ日を探し出す、という行為を毎日繰り返していくなかで、いろいろなものが見えてきて、私の人生が変わっていったと感じています」とコメント。
ヴィム・ヴェンダースは「僕にとって、ドナータのこの“KOMOREBI DREAMS”はクリスマスプレゼントのように思っています。12月に(高崎)卓馬と一緒に脚本を書き始めて、その際にも平山の夢のことは書いていましたが、本編の撮影の時には完全に抜けてしまっていました。でもドナータが知らないところで準備や撮影を進めてくれていて、映画本編の編集をいざ始めようと思ったときにこの“KOMOREBI DREAMS”の映像を初めて見た。ドナータからとてもたくさんのプレゼントを受け取っているような気持ちになりました。私と(高崎)卓馬は夢の開発者で、ドナータとサンドラ(アシスタントで参加していた)は夢をどんどん作り上げる工場のようでした」と、本映像が『PERFECT DAYS』にも欠かすことのできない存在であることを感じさせるコメントを述べた。
『PERFECT DAYS』は絶賛公開中。
ドナータ・ヴェンダースより、KOMOREBI DREAMSに寄せて
PERFECT DAYSの撮影に入る前に Komorebi と言う言葉をはじめて聞き、その意味を知ったとき、なぜか自分自身の内側の深いところが動くような気がしました。私は気づいたのです。これは地下深くを流れる水のような映像になる。主人公の心の中で動いていく無意識の流れ、太陽と風と木によって生まれる光と影への気づき。平山のKomorebi dreams を撮ることがこの映画で私がなすべきことだと、それ以来光に対する意識が変わりました。Komorebiを探して街中を歩き回りました。
今ならわかります、これは私たちへの贈り物。ふと現れたり消えたりする天の恵みなのだと。そう思いながら komorebiを見ては撮影をしました。柔らかく動く光のダンスは気まぐれで無秩序で、しかし尊いものです。日光が木の葉の間(そして今では他のさまざまな物質も)の通り道を抜けて私たちの生活と存在の中に入ってくる様はいつも神的で美しく、楽しげで、驚きに満ちています。
それに気づくか否かは、私たちに変ねられています。ほんの少しの合間、自分だけのためにあるもののように感じるかもしれない。かすかに見える、遠い場所からの短い挨拶のように。Komorebiは私に深い心地よさと希望を与えてくれます。そして私を人生への喜びと愛で満たしてくれるのです。
PERFECT DAYS
2023年12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
STORY
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124分/G
原題:『PERFECT DAYS』
邦題:『PERFECT DAYS』
© 2023 MASTER MIND Ltd.
公式サイト perfectdays-movie.jp
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