世界的ドキュメンタリー監督、ワン・ビンの最新作『青春 -苦-』『青春 -帰-』が本日4月26日(土)より全国順次公開。このたび、監督から日本の観客への動画メッセージと日本独占インタビューが到着した。
『鉄西区』『死霊魂』などで世界で最も称賛されるドキュメンタリー作家の一人であるワン・ビン(王兵)の最新作である『青春 -苦-』『青春 -帰-』。日本での公開に合わせ、監督からの日本の観客に向けた動画メッセージと独占インタビューが到着した。

『青春 -苦-』『青春 -帰-』は、昨年2024年に公開された『青春』第1部(『青春-春-』)に続く、3部作の2部と3部。1部の215分と合わせると、2部226分、3部152分の合計593分で、ワン・ビン監督が世界中を驚かせたデビュー作『鉄西区』(1999-2003/3部作で合計545分)を凌駕する一大巨編だ。
監督自身がいうように “『青春』3部作は『鉄西区』のように、それぞれ独立しているので、2部からでも3部からでも、どれか1作品だけでも見られるが、3部を全て見ることで「一つの場所、一つの時代」が浮かび上がる作品になっている”ので、1部は2023年5月のカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、2部は2024年8月のロカルノ国際映画祭、3部は同年9月のヴェネツィア国際映画祭と別々の映画祭でプレミアされ、また世界でも1〜3部を同時期に上映する機会はなかった。
しかし日本では、2部・3部の公開に合わせ、一部劇場では1部も再上映。1~3部を同時期に見られるのは世界で日本だけとなる。
映画は、中国の「子供服の都」と言われる町・織里の縫製工場で働く出稼ぎの若者たちの日々と労働を記録し、歴史上最も金が重要な時代の青春を描き、一つの時代の運命を描き出す巨大な作品。今回、日本の観客に向けた動画メッセージを寄せるとともに、3部作それぞれの違いや自身が題材に選ぶ被写体のことなどを語った。
日本の観客への動画メッセージ テキスト
日本の観客の皆さん、こんにちは。
『青春』第2部「苦」 第3部「帰」を映画館に観にきてくれてありがとうございます。
僕のドキュメンタリーは長いので観るのは大変だと思います。
それでも、たくさんの日本の皆さんにこの映画を観てほしいと心から思っています。
決して手軽ではないこのドキュメンタリーを観にきてくれた皆さんに感謝します。
ワン・ビン監督 日本独占インタビュー
——『青春』は最終的に3部作になりましたが、3部作の構想はどの段階で持っていたのですか。
最初の段階から3部作の構想があったわけではありません。以前から上海近辺で映画を撮りたい、若者を撮りたいと思い、「上海の若者(Shanghai Youth)」という企画を考えていました。『三姉妹 雲南の子』を作っている時に、雲南から織里に出稼ぎに行く若者たちに同行して撮影し、織里に着いてから、ここなら比較的自由に映画を撮れると思ったんです。ただ、その時はまだ3部作にしようとは考えていませんでした。3部作にしようと決めたのは、撮影が終わり、編集を始めた段階です。
——撮影が始まった頃に、監督が「この企画は2年以上かかる、『鉄西区』のようなパースペクティブで語れる映画を作りたい」と言っていたと聞きました。
『青春』と『鉄西区』は、時間の長さと3部作の形式は共通していますが、大きな違いがあります。『鉄西区』は、社会的な大きな出来事によって駆動され、登場人物の運命もそれに従って進展します。『青春』は完全に一人一人の生活に回帰し、日常生活を通じて物語を立ち上げる方法をとっています。こうした撮影手法はドキュメンタリーにとって非常に難しいものです。撮り始めたころから、これは長い時間をかけないと作れない映画だと気づいていました。最終的に撮影には5年を費やし、その後の編集には3年の時間がかかっています。
——各部にはそれぞれの個性がありますが、その違いを監督自身はどう捉えていますか。
第1部の「春」を撮ったのは2014年8月から2015年6月までで、織里に来たばかりだったので、織里の産業の仕組みや労働者の生活を十分に理解しきれていませんでした。ですので、最初の1年間は、彼ら個人の日常生活や恋愛模様に焦点を当てて撮影しました。2部の「苦」は主に2015年8月から2016年の撮影です。織里のことがだいぶ分かってきたので、出稼ぎ労働者たちがどうやって生き延びているか、社会の中でどんな境遇に置かれているのかにもカメラを向け、1部から方向性を転換しました。3部は2016年から2019年の撮影素材がメインです。織里の出稼ぎ労働者たちの多くは長江の上・中流域からやってきた農民です。いろいろな地域の労働者の故郷に行って撮影しましたが、全体に10時間以内に収めようという方針だったので、最終的に雲南省と安徽省安慶の人々の物語だけを残しました。彼らがどこからやってきたのか、彼らの故郷はどんな場所なのかを描いています。
——監督の映画は社会の中で裕福とはいえない人たち、権力を持っていない人たち、教育をあまり受けられなかった人たちに関心を持って題材に選ぶことが多いように思います。なぜそうした被写体に選ぶのですか。
そうした人たちは、現代人の生活や社会の中で無視された存在でありながら、絶対多数を占めている人たちです。メディアも社会も彼らを無視していますが、私はインディペンデントなドキュメンタリー監督として、日常生活でどこにでも見かける彼らのような人々の物語を撮りたいと思っています。彼らはある意味で社会を代表する存在です。一つの社会の文化の傾向は、文章で書かれるものですが、彼らの生活は書かれてこなかったのです。
——カメラがあるのがわかっていながら、被写体が自然でいられる。カメラを持っている監督自身も感動したり、心が震える瞬間がある。それは、カメラが決して傍観者ではないということですか。
確かに私は傍観者の立場で撮ることはしません。私たちのカメラは彼らの生活に介入していると言えるからです。ただ、インタビューのように言語を用いた介入ではなく、直接記録するということにおいて介入しているのです。カメラを持って撮影するとき、撮影するものを選ぶとき、作者である私の見方が強く反映されています。私は作者として直接的に彼らの生活に介入しているわけではありませんが、映像の選択や、カメラによって記録するという行為自体によって、彼らの生活に反応しているのです。大事なことは、カメラが存在していることが彼らの生活の一部になり、作為のないそのままの彼らであることです。
青春 苦
青春 帰
2025年4月26日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
『青春 苦』(第2部)
監督:ワン・ビン|中国語題:青春 苦 |英語題:YOUTH (HARD TIMES)|2024 年|フランス=ルクセンブルク=オランダ|226 分(3時間46分)*休憩あり
字幕:磯尚太郎|配給:ムヴィオラ
『青春 帰』(第3部)
監督:ワン・ビン|中国語題:青春 帰|英語題:YOUTH (HOMECOMING)|2024 年|フランス=ルクセンブルク=オランダ|152 分(2時間32分)
字幕:磯尚太郎|配給:ムヴィオラ
© 2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films –WANG bing
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