2度のオスカー受賞を果たしたハリウッドを代表する俳優ジョディ・フォスターのフランス映画初主演作『プライベート・ケース』が7月24日(金)より全国公開。このたび、レベッカ・ズロトヴスキ監督のインタビューが到着した。

本作の監督を務めたレベッカ・ズロトヴスキは、『美しき棘』(2010)『プラネタリウム』(2016)など若い女性の心理や欲望、アイデンティティの揺れ、女性同士の関係性、死と喪失をめぐる考察などを、カラフルでファッショナブルな世界観の中で描き出し、“フランス映画界のソフィア・コッポラ”とも称される。女優を魅力的に撮ることでも定評のある俊英が、本作ではハリウッドを代表するジョディ・フォスターを起用し、自分らしく自然に年を重ねてきたジョディの厚みある大人の魅力を引き出した。
「レベッカ監督の知性と、揺るぎないビジョンがあったからこそ、出演の決断ができた」とジョディ・フォスターが語る通り、彼女への映画への向き合い方には、一切の妥協を許さない真摯な情熱と確固たる信念が満ち溢れている。
今回のインタビューでは、本作のアイディアやテーマ、そして映画をもっと楽しむための楽曲選定の裏側や、オマージュについてなど、本作の製作過程についてたっぷりと語った。
レベッカ・ズロトヴスキ監督 インタビュー

――本作のアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか。もともと精神分析や催眠術といったものにご興味があったのですか?
長年の友人であり、作家で、本作の共同脚本家としてクレジットされているアンヌ・ベレストが脚本を持ち込んでくれたのです。40ページほどの短いものでしたが、物語の大枠は本作と同じで、ジョディ・フォスター演じる精神分析医であるリリアン・シュタイナーの、自殺した女性患者をめぐって話が展開するものでした。
早い段階で、この精神分析医の人物像がはっきりと見えてきました。彼女は患者の死に強い責任を感じ、その罪悪感から自殺という結論に疑問を抱き始める。こうして、リリアンの個人的なクライシス(重大な局面)と、真相解明が交差するものとなったのです。
本作には精神分析と催眠術が出てきますが、わたし自身は決して、詳しかったわけではありません。精神分析は効果があると思うのですが、催眠術は正直あまり信じてはいません。
――本作には、コメディからスリラーまでさまざまなジャンルがミックスされていて、シネフィル的な引用を感じます。
全部自分が好きなものを入れました(笑)。観客の方に楽しんでもらえるといいのですが。

――以前、「映画について語る映画が好きだ」とおっしゃっていましたが、本作にも様々なオマージュが取り入れられているのですか?
自分がシネフィルなのは隠しようがないですね。本作では40年代のハリウッド・コメディを念頭に置きました。とくにジョージ・キューカーの作品。またスリラーという点ではアルフレッド・ヒッチコックの映画。わたしが好きな映画というのは、映画を通して何かを表現する可能性について探究していると感じさせるものです。
例えば、自分にとってはデヴィッド・リンチやフェデリコ・フェリーニの映画こそが、精神分析医の代わりのようなもので、ファンタズムや悪夢について、さまざまな可能性の扉を開いてくれて、それが映画によってなされることがとても面白いですね。だから控えめながらそれを自分の作品で実践してみたいと思うのです。いろいろな扉を開いて、「いやこれじゃない、あれでもない」と探していくようなこと。それが自分にとっての映画という印象があります。

――初長編の『美しき棘』(10)のときに、すでにジョディ・フォスターの起用を考えていたそうですね。ハリウッド映画のなかで、彼女を特別な存在として見ていましたか。
はい、映画好きな身として彼女の作品はたくさん観てきましたし、女性としてもロールモデルのように見ていました。
もちろん後追いですが、とくに彼女が思春期のときに演じたいくつかの映画には、とても感銘を受けました。たとえば『フォクシー・レディ』(1980)、『ホテル・ニューハンプシャー』(1984)などです。彼女がハリウッドで築いたのは、とても芯の強い女性像で、それは男性の視点だけで作られたものではない。彼女は少なからず“バダス(いかした女性)”を演じてきました。それで自分のなかでは飛び抜けた存在というイメージができたのです。思春期のフランス人の自分にとって、彼女はハリウッドのなかでとても大事な存在でした。
――出会いの印象はどのようなものでしたか?
最初はZOOMミーティングでした。わたしはすごく緊張して、家族に「ぜったい静かにしてて!掃除機をかけないで」などと言ってナーバスになっていました(笑)。しかも最初はZOOMがうまく繋がらなかった(笑)。でもそのあと繋がって、長いこと話をしました。それですぐに扉が開けたのです。そのあと対面したのは、すでにプロダクションが動き始めたときでした。
――ジョディのお母様がヨーロッパ映画が好きで、それで彼女自身も詳しくなったと聞きました。
その通りです。西海岸の俳優として、ジョディはたぶんあの世代でもっとも文化的に教養があり、シネフィルだったのではないかと思います。フランスでは、その知的な雰囲気ゆえに彼女のことをニューヨーカーだと思っている人がいるほどです。
――彼女は監督として映画も制作していますが、一緒に仕事をしてどんなところがユニークでしたか?
とてもやりやすかったのは、まさにジョディ自身、監督の経験があったからだと思います。映画に詳しいというだけでなく、演出のことを知り尽くしているし、スターとしてではなく対等の立場で連帯感を持つことができました。彼女となら、キャラクターについてだけではなく、そのシーン全体の演出についても話し合える。彼女は時が経つにつれ、俳優としての演技よりも演出に興味を持つようになったと言っていました。とても集中力があって、ひとつのアイディアを発展させていく様子に魅せられます。
しばしばアメリカの俳優はキャラクターについてとても深掘りするものですが、彼女はわたし自身よりも前にキャラクターについてよく理解していて、そんな体験は初めてでした。最初に会ったとき、すでにわたしよりもうまくこの映画について説明してくれて、恐れ入ったものです。ジョディは俳優であり、監督であり、プロデューサーである。長年のそうした経験から培われた才覚だと思います。
――ただ本作の役柄は、あまり有能ではない精神科医で、ダメな母親でダメな祖母でもありますね。
その通りです(笑)。
――いわばヒーローとは対極にあるジョディ・フォスターを演出したかったのでしょうか?
そうですね。考えていたのは、いわばクライシス(重大な局面)にある主人公。しかも60代のキャリアのある女性が突然クライシスに陥る、それだけで興味深いと思いました。仕事との関係のなかで、自分の脆さに気づく。わたし自身、そんな経験をしたことがありますが、そういうことを描いた作品はあまりないような気がするのです。とくにそれをきっかけに人生のいろいろな要素について、再び疑問を持つ。恋愛関係や親子関係、セクシュアルな関係、親子関係、自身の欲望についてなど。それが彼女に変化をもたらす。最初はダメな精神科医が、最後は少しいい精神科医になるのです。
――個人的な印象を言えば、そういう元夫との関係性がとてもおおらかで、フランス映画らしいと思いました(笑)。
そう言ってもらえて嬉しいです。まさにその軽さを狙ったので。ジョディとダニエル・オートゥイユ演じるカップル像は、この映画で誇りに思っているところです。ふたりはとても美しい。喜びに満ちていて、彼らを映すのはとても楽しかったです。
――その元夫役、ダニエル・オートゥイユのキャスティングについて教えてください。
じつは彼にたどり着くまでにとても時間が掛かりました。最初はジョディと同世代で釣り合いの取れる男性を探していたからです。でもまったく見つからなかった。そして理解したのは、ジョディはこれまでいつもスクリーンでひとりだったので、相手役を想像するのが難しいということでした。ダニエルはジョディより13歳年上ですが、彼女と並んだとき、何かとてもしっくりくるものがありました。実際ふたりはすごくウマが合っていましたね。
――冒頭で使われるトーキング・ヘッズの曲「サイコ・キラー」についてお訊きしたいのですが、題名といい、アップテンポなノリといい、あまりに絶妙な選曲で、いきなり映画に引き摺り込まれました。以前から彼らのファンだったのですか?
いいえ、世代的にわたしはちょっと後なので。このアイディアをくれたのは編集を手がけたジェラルディーヌ・マンジュノなんです。最初はもっと重重しい、バーナード・ハーマン的な音楽を考えていたのですが、彼女が「もう少し現代的でポップな、滑稽な感じのものがいいのではないか」と、この曲を教えてくれたのです。わたしも聴いてみてぴったりだと思いました。しかも、「ケスクセ」と、フランス語も歌詞に入っているので、完璧でした(笑)。
――本作には、前作『Les enfants des autres(原題/日本未公開)』(2022)に引き続き、カメオ出演で故フレデリック・ワイズマン(1930―2026)が出演しています。ワイズマン監督はあなたにとって、どのような存在でしたか?
彼のパリにある家はわたしの近所で、それで友だちになりました。彼は常にマージナルな立場にある人々を見つめ続けた、偉大な映画監督でありヒューマニストです。その眼差しはとても貴重でした。とくに『法と秩序』(1969)『福祉』(1975)といった作品が印象に残っています。実は、彼には次作でも医者を演じてもらう予定でした。彼をカメラに収めるのは大きな喜びでした。
まとめ(注目ポイント)
- 『プライベート・ケース』7月24日公開 ジョディ・フォスター初のフランス映画主演作が7月24日より全国公開。
- レベッカ・ズロトヴスキ監督インタビュー解禁 作品の着想やジョディ・フォスター起用の理由、映画的オマージュ、音楽選びの裏側などを詳しく語る。
- ジョディ・フォスターへの敬意 監督はジョディを長年のロールモデルと語り、監督経験を持つ俳優としての知性と創造性を絶賛。
- 40年代コメディやヒッチコックへのオマージュ ジョージ・キューカーやアルフレッド・ヒッチコックらへの敬意を込め、多彩な映画的引用を盛り込んだ一作。
プライベート・ケース
2026年7月24日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
STORY
パリで精神分析医として成功を収めているアメリカ人医師のリリアンは、長年診てきた患者ポーラの突然の死の知らせを受ける。診察を通してそんな兆候は一切なく、違和感を覚えたリリアンはその死が単なる事故ではなく、殺人ではないかと疑い始める。しかし患者の“プライベートな領域”に関する守秘義務の関係上、警察を頼ることはできない。自ら真相を突き止めるしかないと決意したリリアンは、ポーラの死について調べ始める。一方で、ポーラの死をきっかけにリリアンは、状況に関係なく涙があふれ出る異変に悩まされるようになる。やむなく眼科医の元夫ガブリエルの元を訪ねるが、涙の原因はわからないものの、事件の捜査を手伝ってもらうことに。元夫を相棒に従えたリリアンは、ますます大胆に探偵まがいの捜査に乗り出し、やがて危険な真実へと足を踏み込んでいく。
監督:レベッカ・ズロトヴスキ
脚本:アンヌ・ベレスト、レベッカ・ズロトヴスキ
出演:ジョディ・フォスター、ダニエル・オートゥイユ、ヴィルジニー・エフィラ、マチュー・アマルリック、ヴァンサン・ラコスト、ルアナ・バイラミ、ノーム・モルゲンステルン
2025年/フランス/1時間47分/カラー/シネマスコープ/フランス語・英語/原題:Vie privée/日本語字幕:星加久実
レーティング:PG12
©LES FILMS VELVET -BUENOS HAIR -FRANCE 3 CINEMA
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム




