台湾を代表する映画監督・侯孝賢(ホウ・シャオシェン)とともに、『恋恋風塵』『悲情城市』など不朽の名作を創り上げてきた女流作家・脚本家の朱天文(チュー・ティエンウェン)によるエッセイ集「侯孝賢と私の台湾ニューシネマ」が4月1日に竹書房より刊行される。発売に先立ち、本書に収録されている全79点の写真から貴重な3点が解禁された。

『恋恋風塵』『悲情城市』の脚本家が綴る、台湾映画が最も輝いていた日々
『恋恋風塵』や『悲情城市』を世に送り出したホウ監督の陰で、何十年にもわたり彼の創造を支えてきた一人の女性の存在があることは、どのくらいの人が知っているだろうか?
1983年の『風櫃(フンクイ)の少年』から2015年カンヌ国際映画祭監督賞受賞作『黒衣の刺客』まで、全作品の脚本を担当し彼のすべてを知り尽くした女性、それが本書の著者チュー・ティエンウェンだ。学生時代から気鋭の作家として活動していた彼女は26歳の時にホウ監督と運命の出会いを果たし、映画の世界に引き込まれた。その後、ホウ監督作品の脚本家として才能を発揮していく。

小説家・エッセイストとしても名高い彼女は、脚本執筆のかたわら生身のホウ監督の姿をとらえた優れたエッセイを数多く発表してきた。本書はそんなエッセイの中から特に、80年代台湾で起こった奇跡の映画ムーブメント“台湾ニューシネマ”の輝かしい時代を、回顧ではなく当事者の目線から描いた作品を中心に編んだものだ。
題材はホウ監督を中心に、彼の友であり良きライバルでもあったエドワード・ヤンから、世界的に知られる録音技師の杜篤之(ドゥ・ドゥージ)まで多岐にわたり、小津安二郎生誕百年記念作『珈琲時光』の製作後に行われたチューとホウ監督の対談も収められている。

チューが所蔵する貴重な写真がふんだんに収録されているのも、本書の見所のひとつ。カバー写真はホウ監督とチューがレトロな喫茶店で『冬冬(トントン)の夏休み』の脚本を練っている一コマで、エドワード・ヤン撮影によるもの。ほかにも『童年往事 時の流れ』撮影中のホウ監督の姿や、『悲情城市』の宣伝で来日した際の記者会見、黒澤明監督とホウ監督のツーショット、さらに『台北ストーリー』(エドワード・ヤン監督、ホウ・シャオシェン主演)の劇中で着る衣装を洋服店でセレクト中のヤンとホウのスナップなど、誰も見たことがないような写真が多数収録されている。

当時の息遣いを感じさせる文章と写真が満載の「侯孝賢と私の台湾ニューシネマ」は4月1日発売。手に取れば、ホウ・シャオシェンの映画を見たくなること間違いなしだ。
「侯孝賢と私の台湾ニューシネマ」朱天文 著/ 樋口裕子 小坂史子 編・訳
4月1日発売 定価2,750円(税込)竹書房
著者:朱天文(チュー・ティエンウェン)プロフィール
台湾の作家・脚本家。1956年、高雄鳳山生まれ。16歳で初めて小説を発表し、淡江大学英文科在学中に三三書坊を創立して小説やエッセイを出版。26歳のときに侯孝賢と運命の出会いをしたことで映画の世界に。『風櫃の少年』(83年)『童年往事 時の流れ』(85年)、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した『悲情城市』(89年)からカンヌ国際映画祭監督賞を受賞した『黒衣の刺客』(2015年)まで、侯孝賢監督のほとんどの作品の脚本を務めている。2020年、台湾では有名な文学一家である自身の家族をテーマにしたドキュメンタリー『願未央』で映画監督デビュー。これまで日本で翻訳された小説に『世紀末の華やぎ』(紀伊國屋書店)『荒人手記』(国書刊行会)などがある。