誘拐された娘を救うため、たった一人で巨大な犯罪組織に挑んだ母親の闘いを描く衝撃作『母の聖戦』が1月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー。本作の主人公シエロのモデルとなった実在の人物ミリアム・ロドリゲスの壮絶な半生とは?
現代のヨーロッパを代表する名匠ダルデンヌ兄弟、『4ヶ月、3週と2日』でカンヌ映画祭パルムドールに輝いたクリスティアン・ムンジウ、『或る終焉』で知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコがプロデューサーとして参加し、テオドラ・アナ・ミハイ監督の劇映画デビューとなった本作は、年間約6万件(推定)の誘拐事件が発生するメキシコを舞台に、巨大化した「誘拐ビジネス」の闇に迫った衝撃作。犯罪組織に誘拐された娘を奪還するため、命がけの闘争に身を投じた女性の実話をベースに、ごく平凡なシングルマザーの主人公がたどる想像を絶する運命を映し出す。
本作の主人公シエロのモデルとなったのが、娘を誘拐されたのちに殺害された実在の女性、ミリアム・ロドリゲス。復讐の為たった一人で麻薬カルテルに挑んだ彼女は、犯人たち10人を監獄へと追いつめることに成功した。
2012年、当時20歳だった娘のカレンを誘拐されたミリアムは、犯人から脅しの電話を繰り返し受け、要求された高額の身代金を銀行でローンを組み工面し支払う。ところが娘は解放されず、解放を約束された墓地で暗くなるまで待っていたという。
そこでミリアムは娘を誘拐した犯罪組織「ロス・セタス」のリーダー格の男に会い、娘を解放して欲しいと直接懇願。しかし男は「組織は誘拐に関与していない。2 千万ドルを払えば娘を見つける手助けをする」と言い張る。ミリアムは男に追加の金を支払ったが一週間後には男と音信不通となり、代わりに誘拐犯を名乗る他の男たちから「もう少しだけ金が必要だ」と追加で金を要求する電話がかかってくるように…。家族は一縷の望みをかけて要求された金を払い続けたが、ついに娘は戻ってこないまま、誘拐から2年後の2014年に大量の死体の中から娘のカレンの遺骨が見つかった。
犯人たちへの復讐を決意したミリアムは、髪を短く切って赤く染め、世論調査員や医療従事者、選挙管理人のふりをして犯人たちの名前や住所を調べ、犯人たちの祖母やいとこに近づき情報を集めていった。犯人のなかには故郷に戻って敬虔なクリスチャンとして過ごしている男もいたが、ミリアムは男の祖母に近づき男が通っているという教会を聞き出し、ミサに参加していた犯人の男を見つけ出して警察に引き渡した。教会のなかで男を捕らえたとき、男は慈悲を乞うたが、「娘を殺したとき、お前の慈悲心はどこにあった?」とミリアムは言い返したという。
また別の犯人は、ミリアムがリーダー格の男に会った際に無線から漏れ聞こえた名前から男の SNS を見つけ出し、一年にわたり彼の SNS を監視し続け交友関係を紐解いていき、ついに男が路上で花売りをしていると情報を掴んだミリアムは銃を持ってすぐに現場へと向かい、逃亡する男を追いかけて捕らえ、警察へと引き渡すまでの約 1 時間のあいだ「動いたら撃つ」と言って犯人の背中に銃を押し付け続けていたという。
そうしてミリアムは、娘の誘拐殺人事件に関わった犯人のうち、生存しているほぼ全員となる 10 人もの犯人を逮捕へと追いつめた。正義を求めるミリアムの鬼気迫る行動は、組織の報復を恐れて見て見ぬふりをしてきた街の人々に大きな衝撃を与え、多発する犯罪に苦しむ市民を熱狂させ被害者たちを勇気づけた。
しかし面目をつぶされた組織の方もそのまま黙ってはおらず、最後の犯人を捕まえた数週間後の2017年の母の日に、ミリアムは報復のために自宅前で十数発もの銃撃を受け殺された。ミリアムが立ち上げた行方不明者の家族を支援する団体は息子が引き継ぎ、今も活動が続けられている。
本作の監督テオドラ・アナ・ミハイは、生前にミリアムと話した際に聞いた「毎朝、起きるたびに、この拳銃で自殺するか、人を撃ちたいと思う」という言葉に衝撃を受け、なぜ彼女がそんな過激な感情を持つようになったのかを知りたいと思い、彼女の物語を撮ることを決めたといい、「彼女とその他多くの犠牲になった方々へのリスペクトから、この映画がポジティブな変化をもたらすことを願っている」と本作に込めた想いを語っている。
今回解禁された特別予告では、娘を誘拐されたシエロが娘を取り返すために奔走する様子が、母親・シエロの視点から描かれている。身代金を支払ったが娘は解放されず、警察や友人に話しても相手にされずに「ひどい目に遭っても誰も助けてくれない」と憤る。テレビで若い女性の遺体が発見されたというニュースを見て不安に駆られ、手段を選んでいる暇はないと、軍と協力しながら娘を探し始めるが、最初は被害者だったシエロ自身が、いつの間にか悪意に満ちた暴力の渦の中に巻き込まれることに…。どんなに凄惨な光景を目にしても、決して諦めないシエロは「娘のためなら何だってやる」と一人闘い続ける―。
想像を絶する人生を歩んだ母親の実話を基に生み出された『母の聖戦』は1月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー。
母の聖戦
2023年1月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
STORY
メキシコ北部の町で暮らすシングルマザー、シエロのひとり娘である十代の少女ラウラが犯罪組織に誘拐された。冷酷な脅迫者の要求に従い、20万ペソの身代金を支払っても、ラウラは帰ってこない。警察に相談しても相手にしてもらえないシエロは、自力で娘を取り戻すことを胸に誓い、犯罪組織の調査に乗り出す。そのさなか、軍のパトロール部隊を率いるラマルケ中尉と協力関係を結び、組織に関する情報を提供したシエロは、誘拐ビジネスの闇の血生臭い実態を目の当たりにしていく。人生観が一変するほどのおぞましい経験に打ち震えながらも、行方知れずの最愛の娘を捜し続けるシエロは、いかなる真実をたぐり寄せるのか……。
監督:テオドラ・アナ・ミハイ 製作:ハンス・エヴァラエル 共同製作:ダルデンヌ兄弟、クリスティアン・ムンジウ、ミシェル・フランコ
出演:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アジェレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス
2021 年/ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作/135 分/カラー/スペイン語/5.1ch デジタル/ビスタサイズ
字幕翻訳:渡部美貴 映倫 G 配給:ハーク 配給協力:FLICKK 宣伝:ポイント・セット
©MENUETTO FILM, ONE FOR THE ROAD,LES FILMS DU FLEUVE, MOBRA FILMS&TEOREMA
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