名匠ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主演に迎えた『PERFECT DAYS』が12月22日(金)より全国公開。本作を特集した雑誌「SWITCH」の発売を記念して、11月21日(火)にトークイベントが実施され、共同脚本・プロデュースを務めた高崎卓馬と、「SWITCH」編集長の新井敏記が登壇。本作が生まれた背景や撮影秘話などクリエイティブの視点から舞台裏をたっぷり語った。
『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など、数々の傑作を世に送り出し続けてきた名匠ヴィム・ヴェンダース。本作は彼が長年リスペクトしてやまない役所広司を主演に迎え、東京・渋谷の公共トイレ清掃員の日々を描いた作品。1988年にヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』が30週にもわたるロングラン上映で大ヒットを記録した記念すべき映画館、TOHOシネマズ シャンテをメイン館として全国公開される。
今回のトークイベントは代官山 蔦屋書店で実施。まず、映画制作のきっかけを聞かれた高崎は、「共同脚本・プロデュースとクレジットされていますが、最初からそうと決まっていたわけじゃなくて、みんなでゴールを決めずにやってきたらいつのまにかそうなっていました。スタートは、柳井康治さんのTHE TOKYO TOILETというプロジェクトです。この新しいトイレたちの価値や、意味をみんなが考えるきっかけをどうつくれるか、という問いに僕が巻き込まれた形で(笑)はじまりました。いろんなアイデアを話し合いました。ひとつひとつのトイレに渋谷系の音楽をつくって、とか。柳井さんとの会話も何かゴールが決まっていたわけじゃなくて、ふたりがこれだ!と思うまで話し続けるという不思議な時間で。でもそのうち僕が映像の人間でもあり、映像をつくろう、となって」とプロジェクト当初を振り返る。
誰もが驚いたヴィム・ヴェンダース監督の起用の動機と経緯について、高崎は「(たとえば)スピルバーグやタランティーノが東京のトイレを題材にした映画を作ったら、ワクワクしますよね。荒唐無稽ですけど、そういうニュースにひとが触れたときに『おっ』と思ったり、ちょっとそのおかげでテンションがあがったり、そういうものがいいと話をしていました。そのなかでヴェンダース監督の名前を出したら、お互いがヴェンダースのファンだということでもりあがって。学生時代に自主映画をつくりはじめたのはヴェンダース作品との出会いがきっかけで、そのおかげで今もこういう仕事をしている。自分にとってルーツのような存在だったんです。それでふたりで手紙を書きました。断られても、『自分はヴェンダースに断られたことがある』って言えるっていいなってそのくらいの気持ちで。中身は何も決まっていませんでした。清掃員を主人公にしたい。役所広司さんにやってもらいたい。そのくらいで」と明かす。
なぜ、監督が受けてくれたのか?という問いに高崎は「まず彼が、日本、東京が大好きっていうのはベースにありますね。約11年間、自分のホームタウンと言っている東京に来ていなかった。 いつか、チャンスがあれば行きたいってずっと思っていたようなんです。そして、バジェットの大きな作品はどうしても口を出す人が多いというストレスがある。とはいえバジェットが小さい作品だと物理的な制約にいつも悩む。それを交互に行き来しているから映画を作り続けていられるかもしれないというヴェンダースのかつてのコメントを思い出して、今回は、自由とバジェットのあるあなたがずっと願っていた環境になるかもしれないという話と、ドキュメントとフィクションを行き来してきたひとにしかできないものを作りたいと言うことを伝えました。スケジュールとか物理的な理由で断るかもしれないけれども、彼にとっても良いオファーだったのかなと思います」と、受けてもらえるのではという確信めいたものがあったということを明かした。
そんなスタートを切った本作も、2022年の5月に「TTTプロジェクト」として発足した当企画の記者会見では、まだ短編映画のイメージしかなかった。「彼(ヴェンダース監督)の作品で、撮り始めたら映画になったという作品はたくさんあった」というが、本作も監督が来日し、シナハン、ロケハンを重ね、トイレ清掃員の平山という男のイメージを少しずつ作り上げていく過程で、監督から「短編にするにはもったいない。映画にしよう」という話が出たという。「心の底から嬉しかった。でもそんな顔はできないので冷静を装っていたら、『俺は映画を作ったことがあるから心配するな』と言われました(笑)。柳井さんにすぐメールしましたね。夢の電車に乗り合わせた気持ちです」と、当時を振り返り、素直な気持ちで喜びを語った。
最後に、高崎にとってヴィム・ヴェンダースという監督とはどういう存在か、と聞かれると「監督として、10のうち10です。目の前にあるものを映画にする時に、どういう方法でやることが良いのか、というところから考えるので、常に新しいものを作ることができる人。好奇心が非常に強いので永遠に映像を作っていられる。そういう意味でもめちゃくちゃ尊敬していますし、大好きです」と尊敬の念を込めて監督への想いを語り、トークイベントを締めくくった。
『PERFECT DAYS』は12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。
登壇者
高崎卓馬(共同脚本・プロデュース)
1969年福岡県生まれ福岡県立修猷館高校、早稲田大学法学部卒業。
株式会社電通グループグロースオフィサー/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター2度のクリエイター・オブ・ザ・イヤーなど国内外の広告賞、受賞多数。映画『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース監督)では企画・脚本・プロデュースを担当。著書に小泉今日子の親衛隊の少年たちの青春を描いた小説『オートリバース』、広告スキルをまとめた『表現の技術』、絵本『まっくろ』などがある。J-WAVEで毎週金曜深夜『BITS &BOBS TOKYO』MCを担当。
新井敏記(『SWITCH』編集長)
1954年生まれ。編集者、株式会社スイッチ・パブリッシング代表取締役。
1985年にカルチャー誌『SWITCH』、2004年に旅の雑誌『Coyote』、2013年に文芸誌『MONKEY』を創刊。
2015年第7回伊丹十三賞を受賞。主な著書に『SWITCH STORIES 彼らがいた場所』『モンタナ急行の乗客』(新潮社)『儚 市川染五郎』(講談社)がある。
PERFECT DAYS
2023年12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
STORY
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124分/G
原題:『PERFECT DAYS』
邦題:『PERFECT DAYS』
© 2023 MASTER MIND Ltd.
公式サイト perfectdays-movie.jp
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