A24注目の新星シャーロット・ウェルズ監督の初長編作品『aftersun/アフターサン』(5月26日公開)のスペシャルトークイベント付き試写会が5月19日(金)に東京・神楽座にて行われ、映画ライターのよしひろまさみちと、映画・音楽パーソナリティの奥浜レイラが登壇した。
本作は11歳のソフィが父親とふたりきりで過ごした夏休みを、その20年後、父親と同じ年齢になった彼女の視点で綴る物語。2022年カンヌ国際映画祭・批評家週間での上映を皮切りに評判を呼び、話題作を次々と手がけるスタジオA24が北米配給権を獲得。昨年末には複数の海外メディアが「ベストムービー」に挙げ、毎年映画ファンが注目するオバマ元大統領のお気に入り映画にも選出されるなど、本年度を代表する1本となった。監督・脚本は、瑞々しい感性で長編デビューを飾ったスコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
この日のスペシャルトークイベント付き試写会にゲストとして登壇したのは、共に本作へ絶賛コメントを寄せている映画ライターのよしひろまさみちと、映画・音楽パーソナリティの奥浜レイラ。
鑑賞後に抱いた想いについてよしひろは、自身が現在51歳であることに触れ、「両親が51歳だったときを覚えていて、こんなめんどくさい息子がいてこの人たちは働いていたんだということを思い、たまらなくなりました」と、かつての父と同じ31歳になった娘ソフィが思い出を回顧する本作のような体験をしたそうだ。さらに、幼いころの両親との熱海旅行を思い出したという。「多感な小学生だと外に出たい、ホテルの中だとアクティビティが少なすぎてつまらなかったんです。2、3日目になるとプールサイドでカレーを食べることしかできなくて。でもあの旅行はやってくれて良かったんだ、うちも思い出をちゃんと作ってくれていたんだな、と思いました」と、自身の両親との記憶にハッと気づかされたと語っていた。
続いて奥浜が鑑賞後に感じたことを訊かれると、「親が若い時に生まれているのですが、長女だったので未熟な親を目にするんですよ。その時は点と点が線になっていなかったけど、私が当時の親の年齢になってみて、これは相当大変だっただろうなあと感じました」と当時の両親に想いを馳せたようだ。このことに対して、よしひろは「この映画ってそれでいいんじゃないですかね。自分事に置き換えたときに答えが見えてくる映画だなと思います」と語り、マスコミ向けの試写の際に同業者の知人達がそれぞれ全く異なる視点で本作について話をしていたというエピソードを明かした。「どこを拾うかでストーリーラインが変わってくる、観客が自分事として捉えるために作られた映画なんだなと思いますね」と作品を振り返った。
本作で鮮烈なデビューを果たしたソフィ役のフランキー・コリオについては、ゲストのふたりが「見事でしたよね」と口を揃えて称賛。さらに監督が子役のフランキーには脚本ではなく、その日のシーンのみが書かれた紙を渡していたことに言及。よしひろは「全て台本を渡してしまうと頭でっかちに考えてしまうんですよね。子どもだと考えたことしか出てこなくなってしまうから」とし、日本映画界を代表する是枝裕和監督の演出法になぞらえて、これは“是枝方式”だったと振り返った。
そして、クランクインの2週間前から父娘役のふたりだけで過ごす時間をたっぷり作ることで非常に仲の良い間柄になったという撮影裏話から、話題はポール・メスカル演じる父・カラムの話に。劇中、あまりお金が潤沢にあって旅行に出かけたわけではないことが伺える描写に相反して、絨毯やビデオカメラ等の高価なものは買っていたことに対し、奥浜は「残るものにはお金をかけているんですよね」と指摘。これによしひろは「娘があとあと自分のことを思い出してくれるように、という工夫なのかもしれませんね」とふたりでのかけがえのない時間を過ごす父の心情を考察した。
また、本作の魅力のひとつである90年代の楽曲について言及。そのひとつであるクイーン&デヴィッド・ボウイの「アンダー・プレッシャー」が使用されたシーンについて奥浜は「“夜の片隅にいる人々”という歌詞でドバーって…!」と涙を流し感動した様子。さらに監督自身が父の影響によって初めて歌えるようになった曲であるというR.E.Mの「Losing My Religion」については、娘・ソフィがカラオケで歌うシーンに使われており、「胸が痛かった…」とそれぞれのシーンと楽曲のケミストリーに感服していた。
さらに、劇中に「テンダー」を提供したブラーが今月18日にアルバムリリースを発表。曇天の中、独りプールで泳ぐ様子が映し出されたジャケットデザインに対して、『aftersun/アフターサン』を彷彿とさせるデザインで、まるでカラムの心を表現しているようだと盛り上がりを見せた。本作の楽しみ方について奥浜は「音楽から紐解くのもアリですし、どういうカメラワークなのか、なぜここにビデオテープのシーンが入るのかといったことを考えることで読み解いていく作品かなと思います」と作品のとらえ方が人それぞれであることを強調。
よしひろも「皆さん各々違う感想をお持ちだと思うのですが、全然それでOKだと思います。それを持ち帰って自分の思い出と照らし合わせたときにまた新たな発見が出てくるはずなんです」と伝えたうえで、作品に答えを求めたがる昨今の傾向に触れながら、「別に白でも黒でもいいんですよ!“わかりやすさ至上主義”に走りすぎると人間は感性を失ってしまう。この映画は感性を研ぎ澄ませて観てもらう映画だと思うので、未見の方を誘ってまたぜひ観に行ってくれると嬉しいなと思います」と本作の、敢えて答えを明示しない“余白”について語り、イベントを締めくくった。
『aftersun/アフターサン』は5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開。
aftersun/アフターサン
2023年5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開
STORY
11歳の夏、思春期のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす31歳の父親・カラム(ポール・メスカル)とトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、ふたりは親密な時間をともにする。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィは、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく……。
監督・脚本:シャーロット・ウェルズ(初長編監督作品)
出演:ポール・メスカル(ドラマ「ノーマル・ピープル」『ロスト・ドーター』)、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール
プロデューサー:バリー・ジェンキンス(『ムーンライト』)ほか
原題:aftersun/2022年/イギリス・アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/101分/映倫:G
字幕翻訳:松浦美奈
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
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