現在開催中の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」の開催5日目となる3月19日(火)の夜、時代劇をテーマとするオールナイト上映が実施され、時代劇には「一家言ある」という脚本家の會川昇、そして体調不良のためリモート参加となった虚淵玄という二人の人気脚本家を迎えてトークショーが行われた。MCを務めたプログラムディレクターの数土直志が「『ストレンヂア』が好きすぎて、これを軸に企画を立てた、僕の趣味!」という肝入りの企画で、チケットは完売し、深夜にもかかわらず熱気を帯びたイベントとなった。
『ストレンヂア』からスタートし、會川の助言のもと組み上がっていったという今回のプログラム。シネ・ウインドに来るのは「『UN-GO』というアニメで坂口安吾ゆかりの新潟で上映イベントやらせていただいて以来」と語る會川。「(時代劇に)ジャンルとして執着がある」と語る會川は、日本映画における時代劇、TVドラマで時代劇が多く放送されていた時代から、作り手が世代交代していくにつれハードルが高くなっていく様子や、アニメ会社の中での企画の通り方などのエピソードを交えて話した。
“時代劇”という認識は、どのようなものだろうか。會川は「『るろうに剣心』はまだ時代劇だと思っていらっしゃるかもしれないけど、例えば『犬夜叉』であるとか『鬼滅の刃』を時代劇と認識されている方は非常に少ないかもしれない。SFファンが『あれもSF』『これもSF』っていうのと一緒で、時代劇好きな人間は『戦争前までは時代劇でいいから!』って」とユーモラスに話すと場内からも笑いが。「『はいからさんが通る』はどうですか?」(数土)「時代劇!」(會川)「ゴールデンカムイとかどうですか?」(虚淵)「ゴールデンカムイは僕はもう完全に時代劇だと思いますね!土方歳三とか出てくるし!」(會川)と、時代劇は幅広く認識されていると話した。
時代劇アニメの思い出の作品を聞かれた虚淵は『カムイの剣』をあげた。「当時としてはものすごいスタイリッシュな映像で、子供心に強烈な印象がありまして、“天海和尚ってこんなだったんだー”って日本史観を歪めるくらいのインパクトがある(笑)。そこから刀と忍者とスタイリッシュアクションへの憧憬が生まれました。そこからわずか2年で『妖刀伝』がきているのも驚きでしたし。他のアニメにない妙な画面の暗さというかシリアスさというか」と話すと、會川は「それができるのが時代劇の魅力でもありますよね。暗いところで戦っていても許されるみたいな」と同意。「その世界観ならではの…こう言っちゃ悪いけど人命の軽さ。日常がありながら戦争映画と同じくらい人が死にうる世界観の中でのドラマツルギーというのがフックする部分だったと思いますね」と虚淵が回想すると、會川が「じゃあ今の虚淵さんの今の割と人命が軽い感じの作風は…」とつぶやき場内も爆笑。「学園ものとかより、戦争とか極限状態の方は僕は話が作りやすいなって思いますね」と吐露すると會川も同意。
會川は「元々子どもの頃に普通見ていたと言うほど時代劇を見ていたという家ではなかったけれど、NHKで大河ドラマや当時は金曜時代劇という枠もありましたので、TVにあるコンテンツの一つとして受容していた。その中でも僕たちの世代は人形劇で『新八犬伝』や『真田十勇士』が3、4年放送された時期があるわけです。よく昭和47、8年になると時代劇は衰退していたって基本的には言われるんですけど、当時子どもだった僕たちの認識からすると、ほぼ毎日『新八犬伝』見て歌を歌って、学校でも話題にしていたから、全然時代劇は衰退してなかった。仮面ライダーやマジンガーZと同じレベルで面白いコンテンツだと受け取っていた。でもその世代ってちょっと特殊なのかもしれない。この4年間くらいに放送していた時期に小学生から中学生ぐらいだった人たちだけがそう思っているのかもしれませんね」と、時代劇との距離感について語った。
その後SF小説を読むようになったという會川。SFも百花繚乱の世代を迎え、時代劇とSF、そしてバトルものが書かれるようになる。「そういうのにハマっていく中で『時代物って古いジャンルじゃなくて、こんなふうにクロスオーバーすることで、実は一番面白いジャンルになるんじゃないの』と思い始めた」と語る一方で、「1つ成功作があると追随する作品があって1つのジャンルになる。例えばロボットアニメがそうですし、今でいえばなろう系のファンタジーがそうですよね。でも時代劇はなぜかそういう波が一度もない気がするんです、アニメに関して」と會川は語る。
1つに『獣兵衛忍風帖』の存在、時代劇に思い入れのある虫プロ、マッドハウスを日本のアニメの時代劇のモデルとしてきた時代が長く、ゆえにそれを超える作品に着手してこなかったことがあるのではと分析。また、虚淵は「(時代劇は)生半可な気持ちで作れないって気持ちもある。武侠は『俺中国人じゃないし!』みたいな無責任な気分で作れる部分がある。そこのある種の甘えというか、外様だからこそめちゃくちゃやったところで怒られないだろうっていう思いがある。それに対して変な責任感を感じちゃうんでしょうね」と無意識に構えてしまうとクリエイターの心情を語った。
しかしながら「1997年からしばらく映画興行成績1位だった時代劇があるわけですよ。『もののけ姫』なんだけど」と會川が言うと場内からも「あー…」と声が上がる。「『もののけ姫』の後にもう一回だけ記録を更新したことがあって、その記録は未だ破られてないわけですよ。『鬼滅の刃』って言うんですけど」と、「時代劇アニメにポテンシャルがないと構えちゃうのは作り手の勝手な思い込みであって、お客さんは求め続けてくれてるのかなという期待はちょっとあるんですよ」と語った。
ここで虚淵と共にオリジナル時代劇アニメ『REVENGER』の脚本を手がけたニトロプラスの大樹連司も登場。ほぼ初めての時代劇に挑む気持ちとして虚淵は「出来上がっているジャンルスタイルだったので、オリジナリティを出すよりは、昔憧れていたドラマの空気感を出すにはこうですかね?という提案を積み重ねた」と語る。
また、同時代にアニメ化や映画化の大ヒットコンテンツとしては『刀剣乱舞』があるが、虚淵は「刀剣乱舞は継続的にお客さんに愛されていこうというスタンスが共有されているので、キャラを使い切るのはNG。死んで退場するにしてもゲストキャラ。それぞれの刀のキャラクターの物語は長い流れとして継続していかなくてはいけないという縛りの中で作られているコンテンツ。それに対して『REVENGER』は、人の命が燃え尽きていくというドラマツルギーのなかで時代劇をやろうというコンセプトだったのである意味真逆だと思いますね」と語った。
時代劇と自身の関係性について「『るろうに剣心』くらい」と語る大樹は「『刀萌え』というのは日本の中学2年生のDNAに刻まれているというか、時代劇そのものではないけれど常に“刀を振るう主人公”はいると思うんです。RPGでも西洋ファンタジーでも必ず村正とか村雨とかは出てくるわけで。それはエクスカリバーと同じくらい強いんで。コンテンツとして受け入れていたのかもしれませんね」と、また違った角度からの分析を披露した。
「自由にやらせてもらった」と語る一方で、今の時代に時代劇を生み出す難しさについても明かす。虚淵は「ポリコレとの絶望的な相性の悪さ。今後ますます厳しくなるかもしれない。背景世界的に女性を活躍させようがない中、どう工夫していけば良いのか。世界観があるが故の、女性キャラの動かしづらさというか、現代的な我々の倫理観・価値観を持ち込んだ途端に世界観を破綻させてしまう難しさがある」と吐露。
「パラレルワールド的に、作者の都合に合わせて女性が活躍している江戸時代みたいに書き換えてしまうやり方もあるわけですよね?」と會川が尋ねると「我々の価値観からずれているが故のディストピアというところに時代劇の魅力の根っこがあるのではないかと僕は思っていて」(虚淵)「なるほど、そうするともう時代劇ですらなくなってしまうってことですね」(會川)と葛藤を語った。
虚淵は「『鬼滅の刃』『ゴールデンカムイ』は僕の時代劇観からは出てこない。開けっぴろげな祝祭感というかお祭り騒ぎ感というか、ドラマツルギーというか。暗い景色のディストピアから脱却した作品というのは、いくらでも可能性があるというのはヒット作が証明しているところ」と語り、會川も同意。安易に追従すると自分達が思う時代劇ではなくなっていく可能性があると語る。ヒットと自身のクリエイティブ信念と。“時代劇アニメーション”は再び岐路に立っていることを再認識させるトークショーとなった。
「第2回新潟国際アニメーション映画祭」は3月20日(水)まで開催中。
第2回新潟国際アニメーション映画祭
2024年3月15日(金)~20日(水)開催
英語表記:Niigata International Animation Film Festival
主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
公式サイト https://niaff.net
この記事が気に入ったらフォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow WEEKEND CINEMA