ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタによる、日本最大規模で、東京では初めてとなる美術館での個展「総合開館30周年記念 ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ」が8月28日(木)から東京都写真美術館で開催。その本展の関連上映として、ペドロ・コスタが自らの視点で自由に選び構成した11本の映画を上映する「ペドロ・コスタ カルト・ブランシュ」も同時に開催。このたび上映作品が決定した。

本上映のためにポルトガルから上映素材を取り寄せ、新たに日本語字幕を作成し上映する、ペドロ・コスタが制作助手を務めた『ポルトガルの別れ』(ジョアン・ボテリョ監督)、ゴダールの重要作『パート2』、ペドロ・コスタの師となるアントニオ・レイス監督『トラス・オス・モンテス』など上映機会が少ないレア作品を筆頭に、ペドロ・コスタが多大なる影響を受けてきたロベール・ブレッソン、ジャック・ターナー、フリッツ・ラングなどの名匠たちの選りすぐりの名作も上映する。上映作品は以下のとおり。
また、本展のために来日するペドロ・コスタを、映画館ユーロスペースに招いて、展覧会でも大きくフィーチャーされている映画『ホース・マネー』を上映し、アートと映画、その境界と真髄に触れる特別上映会も8月31日(日)に行われることが決定した。
総合開館30周年記念
ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ 関連上映プログラム
◆ペドロ・コスタ カルト・ブランシュ 8月28日(木)– 9月7日(日)
ペドロ・コスタが自らの視点で自由に選び構成した11本の映画を上映。
※8月31日(日) 13:00からの上映終了後 ペドロ・コスタ監督によるアフタートークあり
上映作品
◉『トラス・オス・モンテス』
Trás-os-Montes
1976年/ポルトガル/ポルトガル語/カラー/DCP/111分
監督 アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ
出演 トラス・オス・モンテスの住民
ポルトガル北東部の山岳地帯、トラス・オス・モンテス。マノエル・ド・オリヴェイラ監督の『春の劇』のロケ地であるこの村は、ポルトガル建国以前の、ローマ時代から続く古き文化を色濃く残すエリアである。男たちは都会への出稼ぎで不在で、女たちが家を守り、子どもたちは無邪気に自然と戯れている。村人たちの質素な日常を捉えているが、ドキュメンタリーではなく、この村に何世紀もの間に積み重なったさまざまな時代の歴史を、時空を超えた詩的な視点でとらえている点が特徴である。アントニオ・レイス監督は詩人や民俗学者でもあり、国立映画学校ではペドロ・コスタ監督を指導した。

◉『ポルトガルの別れ』
Um Adeus Português
1986年/ポルトガル/ポルトガル語/カラー/DCP/83分
監督 ジョアン・ボテリョ
出演 マリア・カブラル、イザベル・デ・カストロ、フェルナンド・ヘイトール
1980年代半ば、老夫婦は次男と、植民地戦争で亡くなった長男の未亡人を訪ねるため、リスボンへ旅立つ。街の時間はゆっくりと流れ、まるで住民全員が一種の無気力に陥っているかのようだ。この現代と時を隔てるように、植民地戦争下のアフリカの深い森の中を、兵士たちが臆病にさまよう。再会は辛い過去と向き合うことになるが、蓄積した澱を少しずつ解いてもゆく。幾つもの不在によって構成された本作は、新たな未来を待ち望むポルトガル社会をも体現している。ロケ地はほぼポルトガルだが、一部のシーンはアフリカでも撮影された。ペドロ・コスタ監督は、本作の制作助手を務めた。尚、本作のデジタル化はシネマテッカ・ポルトゲーザが行った。(協力:シネマテッカ・ポルトゲーザ)

◉『田舎司祭の日記』
Journal d'un curé de campagne
1950年/フランス/フランス語/モノクロ/DCP/115分
監督 ロベール・ブレッソン
出演 クロード・レデュ、ジャン・リビエール、アルマン・ギベール
カトリック系作家のジョルジュ・ベルナノスの同名小説の映画化。北フランスの田舎の村を最初の教区先として任命された若い司祭の、苦難の日々を描く。司祭は体調不良を抱えながらも、村人たちの悩みを聞き、布教と善行に励んでいた。しかし、司祭の純粋な信仰心は、世俗にまみれた村人たちには受け入れがたく、両者の間には次第に溝が生まれ、司祭は徐々に孤立し始め、神への信仰に苦悩する。そんなある日、司祭が倒れてしまい……。キャストにプロではない俳優を起用し、音楽やカメラの動きをそぎ落として撮影するロベール・ブレッソン監督独自の演出スタイル、“シネマトグラフ”を確立した初期の傑作。

© 1950 STUDIOCANAL
◉『星を持つ男』
Stars in My Crown
1950年/アメリカ/英語/モノクロ/Bru-ray/89分
監督 ジャック・ターナー
出演 ジョエル・マクリー、エレン・ドリュー、ディーン・ストックウェル
1947年にジョー・デヴィッド・ブラウンが発表した『Stars in My Crown』という小説を元に製作された映画。1865年の南北戦争終結後から間もない頃、とある西部の小さな町に牧師グレイが布教と教会建設のためにやってくる。やがて、エリエットと結婚し、彼女の甥で身寄りのない少年ジョンを引き取る。映画の冒頭でこそ、荒くれ者たちをいさめるために二丁の拳銃を取り出すが、グレイの本当の武器は聖書である。腸チフスの流行や、雲母の鉱脈をめぐる住民間の土地争いなど、問題が次々と生じるが、グレイと妻は篤い信仰心と熱意で、町を復興させるために奮闘する。

◉『太陽』
СОЛНЦЕ
2005年/ロシア・イタリア・フランス・スイス/日本語/カラー/DCP/110分
監督 アレクサンドル・ソクーロフ
出演 イッセー尾形、桃井かおり、佐野史郎
ロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフ監督が、ヒトラー、レーニンに続き、“20世紀の権力者”を題材にして製作したシリーズの一作。1945年の敗戦までは、長らく現人神として崇められていた昭和天皇が、マッカーサーとの会見を経て、“人間宣言”を決断するまでの数日間の心の葛藤を、静謐な映像で描き出す。日本人が触れることはタブーな題材に正面から向き合った作品だが、社会派ドラマではなく、人間としての天皇の姿に焦点をあてている。日本での公開は危ぶまれたが2006年8月に封切られた。公開時、昭和天皇をイッセー尾形が演じることも含め、話題を呼んだ。

◉『H story』
2001年/日本/日本語/ カラー/35mm/111分
監督 諏訪敦彦
出演 ベアトリス・ダル、町田康、馬野裕朗
諏訪敦彦監督が、アラン・レネ監督の1959年の『ヒロシマ・モナムール』(原作はマルグリット・デュラス、日本公開時邦題『二十四時間の情事』)のリメイクを試みた作品。本番とメイキングが、1台のカメラで同時に撮影されている。主演のベアトリス・ダルは、デュラスのテクストを一言一句再現することが受け入れられず、撮影は中断。偶然現れた作家の町田康が、彼女を広島の町へ連れ出す。こうして、意図されたものとは異なる、新たな『二十四時間の情事』が生まれた。広島で生まれた監督が、敗戦から約50年後のヒロシマの町の記憶を、フィクションとドキュメンタリーを交差させながら捉え直す実験作。

©Dentsu/IMAGICA/WOWOW/TokyoTheatres
◉『真人間』
You and Me
1938年/アメリカ/英語/カラー/Blu-ray/94分
監督 フリッツ・ラング
出演 シルヴィア・シドニー、ジョージ・ラフト
ノーマン・クラスナの原案にもとづき、フリッツ・ラングが監督した、渡米後の3作目の映画である。ニューヨークのとある百貨店を仕切るモーリス氏は、大勢の前科者をスタッフとして雇っていた。ジョーもそのひとりである。彼は同じ場所で働くヘレンに求婚し、ふたりは他の人には内緒で結婚する。しかし、ヘレンが抱えていたある秘密をジョーが知ってしまい、自暴自棄になったジョーは昔の悪い仲間たちと共に、百貨店に強盗に入ることに。しかし、そこで彼らを待ち構えていた人物とは……。ヘレンによる「いかに犯罪が割にあわないか」のシーンは必見。

◉『山羊座のもとに』
Under Capricorn
1949年/イギリス/英語/カラー/DCP/117分
監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 イングリッド・バーグマン、ジョセフ・コットン
原作は、ジョン・コルトンとマーガレット・リンデンの戯曲に基づいたヘレン・シンプソンの同名小説。1830年代のオーストラリアのシドニーが舞台で、男女4人の複雑な関係を描く。ある日、イギリス総督の甥チャールズは、一攫千金を狙って、流刑地として知られるシドニーを訪れる。そこで出会った、犯罪者あがりの有力者サム・フラスキーの妻は、かつて、チャールズの恋人だったヘンリエッタであることが判明する。しかし彼女はアルコール依存症になっていた。チャールズはヘンリエッタを救おうとするが、当然、サムは面白くない。そこに、サムのことが好きな家政婦のミリーがからみ、事態は思わぬ方向へ……。

◉『パート2』
Numéro deux
1975年/フランス/フランス語/カラー/Blu-ray/87分
監督 ジャン=リュック・ゴダール
出演 サンドリ―ヌ・バティステラ、ピエール・ル―ドレイ、ジャン=リュック・ゴダール
ジャン=リュック・ゴダールがグルノーブルに移り、アンヌ=マリー・ミエヴィルと創立した共同制作会社ソニマージュ社の、第2作。ふたつのパートに分かれており、前半では、ゴダール自身が映画を作るために必要なファイナンスについて議論し、後半では、フランスの地方都市にある公営集合団地に住むとある一家の、労働や家事、夫婦の性生活が映し出される。当時はまだ新しいメディアであったビデオを用い、フィルムとビデオをミックスさせて、ふたつの画面を同時に映し出すなど、テーマを多面的に表現するために特殊な手法で作られた実験作である。

◉『シチリア!』
Sicilia!
1998年/イタリア・フランス・スイス/イタリア語/モノクロ/35mm/66分
監督 ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
出演 ジャンニ・ブスカリーノ、ヴィットーリオ・ヴィニェッリ、アンジェロ・ヌガラ
シチリア出身の作家であるエリオ・ヴィットリ―ニの代表作『シチリアでの会話』を、ストローブ=ユイレが映像化した作品。ベートーベンの「弦楽四重奏曲第15番 作品132」をバックに、小説の一部分を序曲と6つの楽章に再構成して作られている。ミラノに住む主人公のシルヴェストロが、15年ぶりに、故郷シチリアのシラクサに住む母を訪ねる。その帰途上、彼は港ではオレンジ売り、列車では憲兵と出会い、会話する。実家では母から父や祖父の思い出を聞く。ファシズム批判の原作を、映像美と詩のようなセリフ回しで描いた抒情詩。

◉『あなたの微笑みはどこに隠れたの?』
Danièle Huillet, Jean-Marie Straub cinéastes: Où gît votre sourire enfoui?
Onde jaz o teu sorriso?
2001年/ポルトガル・フランス/フランス語/カラー/35mm/104分
監督 ペドロ・コスタ
出演 ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレが、北フランスのル・フレノワ国立現代アート・スタジオで行った『シチリア!』の編集作業のワークショップを、6週間にわたって撮影したペドロ・コスタのドキュメンタリー。「現代の映画シリーズ:映画作家ストローブ=ユイレ」の製作後に残されたぼうだいな映像素材を元に、長編映画として作られた。映画創作のプロセスのみならず、ストローブ=ユイレ夫婦のときには滑稽にさえみえる膨大な議論や感情のやりとりを通して、ふたりの物語や映画への愛が浮き彫りとなる。

総合開館30周年記念
ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ 開催記念
◆ペドロ・コスタ監督作品『ホース・マネー』特別上映会
8月31日(日)15:20〜 ユーロスペースにて
※上映後、ペドロ・コスタ監督トークあり
『ホース・マネー』
『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』に続き、リスボンのスラム、フォンタイーニャス地区にいた人々と創り上げ、主人公も『コロッサル・ユース』のヴェントゥーラ。ヴェントゥーラ自身のカーボ・ヴェルデからの移民の体験をもとに、ポルトガルのカーネーション革命やアフリカ諸国の植民地支配からの独立などの近代史を背景に展開する。そのポルトガルに暮らすアフリカからの移民の苦難の歴史と記憶を、ひとりの男の人生の終焉とともに虚実入り混じった斬新な手法で描いている。移民たちの記憶とオーバーラップするかのように19世紀末から20世紀初期にかけてニューヨークの貧困地域を撮影した写真家、ジェイコブ・リースの写真も映し出される。
・出演:ヴェントゥーラ、ヴィタリナ・ヴァレラ、ティト・フルタド、アントニオ・サントス
・ポルトガル/2014年/ポルトガル語・クレオール語/DCP/104分
・配給:シネマトリックス

ペドロ・コスタ カルト・ブランシュ
2025年8月28日(木)– 9月7日(日)
会場|東京都写真美術館1階ホール 定員|190名
料金|一般1,800円、シニア(60歳以上)1,500円、学生および高校生以下 1,000円
※「ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ」チケットのご提示で1,000円(展覧会チケット1枚につき1回の割引)
※全て日本語字幕付き
※上映スケジュールなど詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/movie-5259.html
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