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ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ヘミングウェイほかハードボイルド小説が原作の珠玉のノワール映画を一挙上映する「ハードボイルド・ノワール映画祭」が7月25日(土)より新宿K’s cinemaにて開催されることが決定した。あわせてメインビジュアル、映画評論家の吉田広明からの推薦メッセージが解禁された。

ハードボイルド小説とは第一次世界大戦後のアメリカで誕生した、内面描写を排し外面描写に徹した乾いた文学スタイルを指す。今回の特集では、そのハードボイルド作家の原作・原案によるノワール映画15本を一挙上映する。

ダシール・ハメット原作の『ガラスの鍵』や『市街』、レイモンド・チャンドラーがオリジナル脚本を手掛けた『青い戦慄』、フィルム・ノワールの爛熟を体現した頂点的名作『キッスで殺せ!』などがスクリーンに蘇る。

さらには、日本初公開となるミッキー・スピレイン原作のB級感あふれる『裁くのは俺だ』や、人種差別が悲劇を招くウィリアム・マッギヴァーンの『拳銃の報酬』、ジェームズ・M・ケイン原作の愛憎劇『ミルドレッド・ピアース』など、バラエティに富んだ名作が集結する。

開催初日の7月25日(土)には『キッスで殺せ!』上映後に、映画評論家の吉田広明と上島春彦による開催記念トークイベントも開催。緊迫した闇の世界と人間の業を映し出す、映画ファン注目の特集となる。

吉田広明(映画評論家)推薦メッセージ

ハードボイルド・ノワールの世界

ハードボイルドとは、一義的には第一次世界大戦後アメリカで起こった文学スタイルを指す。内面描写を排し、簡潔な外面描写に徹する乾いた文学。ヘミングウェイをその起点とし、彼は短編『殺し屋』(27)においてそのスタイルを確立したとされる(その映画化がシオドマク『殺人者』)。こうした文体傾向を犯罪小説の分野で創始したのがダシール・ハメットで、彼はパルプマガジンで乾いた文体の犯罪小説を書いていたが、第二長編『マルタの鷹』(29)がベストセラーとなり、高い評価を得ることで、彼に続いて陸続とハードボイルド小説が書かれることになる。中でもレイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドが代表格。『マルタの鷹』では、文体もさりながら、事件の渦中にあって常に冷徹に振る舞うタフガイ探偵の在り様もまたハードボイルドと解され、ハードボイルドと言えばタフガイ私立探偵という図式ができあがる。かくして簡潔な文体で書かれ、タフガイ探偵が主人公の犯罪小説がおおむねハードボイルドと称されることになり、そのさまざまなヴァリアントがアメリカの犯罪小説を席巻する。暴力とセックスを強調したミッキー・スピレイン(『裁くのは俺だ』、『キッスで殺せ!』)、身を持ち崩した、あるいは道を踏み外した警察官を描くウィリアム・マッギヴァーン(『復讐は俺に任せろ』、『悪徳警官』、『拳銃の報酬』)、W・R・バーネット、ホレス・マッコイ等々。その波は大西洋を渡り、イギリス(『エヴァの匂い』のハドリー・チェイス。彼の第一作『ミス・ブランディッシの蘭』は内容的にスキャンダルを引き起こしたが、文体はジョージ・オーウェルにも認められた)、フランス(『男の争い』のオーギュスト・ル・ブルトン、『穴』のジョゼ・ジョヴァンニ。彼らを一般にはハードボイルドと分類しないかもしれない。ただ、ジュールス・ダッシン、ジャック・ベッケルによるそれぞれの映画化作品の印象はまさにハードボイルド)にも波及する。

ハードボイルド小説は盛んに映画化された。その中にはノワールに分類されるものも多いが、実のところそれをノワールと言えるかは疑わしい。ハードボイルドも犯罪を描いたものである以上暗い世界であるからノワールだというのであればいささか杜撰な話である。それもノワールという呼称がジャンルというよりある種の傾向を指し、拡大解釈を許すものであるがゆえかもしれないが。それでも例えばヘミングウェイの同じ作品の映画化でありながら、ホークス『脱出』のハンフリー・ボガートと『破局』のジョン・ガーフィールドが住む世界が違うのは明らかだろう。後者のガーフィールドは、いかんともしがたい形で事態に巻き込まれ、深く(身体的にも情動的にも)傷を負う。その苦さこそがノワールなのだ。事態を傍観的に見て、何事にも動じないタフガイは、ハードボイルドではあってもノワールではない。しかしこれもハードボイルドを文体だけでなく、登場人物の性格にも流用するから起こる混乱であって、ハードボイルドを文体(語り)の簡潔のみに限定するならば、ハードボイルドと苦い世界を描くノワールの両立はありうるだろう。そう考えれば、ハードボイルド(簡素な語り)とノワール(陰鬱な世界観)の両立を最も実現している作家はジェームズ・M・ケインということになる(『ミルドレッド・ピアース』)。ハードボイルド小説の傑作の一つ『郵便配達は二度ベルを鳴らす』映画版が、フィルム・ノワールの傑作でもある所以である。

上映作品(原作者別・全15作品)

【ダシール・ハメット原作】

『ガラスの鍵』The Glass key(1942年/82分/モノクロ)
監督:スチュアート・ヘイスラー 出演:アラン・ラッド、ヴェロニカ・レイク
上院議員の息子の殺害事件の真相解明にギャングの右腕が乗り出す。

『市街』City Streets(1931年/83分/モノクロ)
監督:ルーベン・マムーリアン 出演:ゲーリー・クーパー、シルヴィア・シドニー
恋人に横恋慕するボスとの対決を描く、視覚的演出が見事な作品。

『影なき男』The Thin Man(1934年/90分/モノクロ)
監督:ウィリアム・S・ヴァン・ダイク 出演:ウィリアム・パウエル、マーナ・ロイ
クリスマス休暇中に富豪の発明家失踪事件に巻き込まれる夫婦を描いた、ミステリー・コメディの大ヒット作。

【レイモンド・チャンドラー原作】

『ブロンドの殺人者』Murder My Sweet(1944年/95分/モノクロ)
監督:エドワード・ドミトリク 出演:ディック・パウエル、クレア・トレヴァー
ハードボイルドの代名詞とも言える探偵フィリップ・マーロウ。チャンドラーのマーロウものとしては初の映画化作品。

『湖中の女』The Lady in the Lake(1946年/103分/モノクロ)
監督:ロバート・モンゴメリー 出演:ロバート・モンゴメリー、オードリー・トッター
出版社社長の失踪した妻を捜索するマーロウの行程を描く。全編を探偵の視点で描いた実験的な作品。

『青い戦慄』The Blue Dahlia(1946年/99分/モノクロ)
監督:ジョージ・マーシャル 出演:アラン・ラッド、ヴェロニカ・レイク
チャンドラーのオリジナル脚本。妻を殺害された復員軍人を巡る、悪人ばかりが登場するペシミスティックな世界。

【ミッキー・スピレイン原作】

『キッスで殺せ!』Kiss Me Deadly(1955年/106分/モノクロ)
監督:ロバート・オルドリッチ 出演:ラルフ・ミーカー、ギャビー・ロジャース
探偵作家ミッキー・スピレインの原作をA・I・ベゼリデスが脚色、「ヴェラクルス」のコンビ、ロバート・オルドリッチが監督。フィルム・ノワール末期の頂点とされる異形の名作。

『裁くのは俺だ』I, the Jury(1953年/87分/モノクロ)※日本初公開
監督:ハリー・エセックス 出演:ビフ・エリオット、プレストン・フォスター
戦友の復讐を誓った探偵の周囲で死体が積み上がる、暴力とセックスが売りの B 級感あふれる作品。

【アーネスト・ヘミングウェイ原作】

『殺人者』The Killers(1946年/103分/モノクロ)
監督:ロバート・シオドマク 出演:バート・ランカスター、エヴァ・ガードナー
殺し屋に狙われ、逃げずに殺された男の過去をフラッシュバックで描く、フィルム・ノワールの世界観を凝縮した一編。

『破局』The Breaking Point(1950年/97分/モノクロ)
監督:マイケル・カーティス 出演:ジョン・ガーフィールド、パトリシア・ニール
ハワード・ホークス『脱出』と同じ原作の映画化。ギャングに脅され不法出航を強いられる男を描き、ノワールの神髄である苦い後味が特徴。

【ウィリアム・マッギヴァーン原作】

『悪徳警官』Rogue Cop(1954年/92分/モノクロ)
監督:ロイ・ローランド 出演:ロバート・テイラー、ジャネット・リー
ギャングと通じた悪徳刑事が、実直な警官である弟を殺され復讐に立ち上がる。

『拳銃の報酬』Odds Against Tomorrow(1959年/96分/モノクロ)
監督:ロバート・ワイズ 出演:ハリー・ベラフォンテ、ロバート・ライアン
元警官、前科者、黒人歌手による銀行強盗計画と、その破滅を描くジャズ映画の傑作。音楽はモダン・ジャズ・カルテットのジョン・ルイス。ジャン=ピエール・メルヴィル偏愛の傑作ノワール。

『地獄の埠頭』Hell on Frisco Bay(1956年/98分/カラー)
監督:フランク・タトル 出演:アラン・ラッド、エドワード・G・ロビンソン
殺人の冤罪で五年の刑期を食らった元刑事が、自分を陥れた黒幕を探る。妻に密告される卑小なエゴイストのボスを大御所エドワード・G・ロビンソンが演じる。上映作品中唯一のカラー作品。

【ジェームズ・M・ケイン原作】

『ミルドレッド・ピアース』Mildred Pierce(1945年/111分/モノクロ)
監督:マイケル・カーティス 出演:ジョーン・クロフォード、アン・ブライス
レストランチェーンを築いた女性の成功と、彼女の金を浪費する娘によってノワールへと変貌していく愛憎劇。

【ジェームズ・ハドリー・チェイス原作】

『エヴァの匂い』Eve(1962年/109分/モノクロ)
監督:ジョゼフ・ロージー、出演:ジャンヌ・モロー、スタンリー・ベイカー
得体の知れない奔放な悪女エヴァに翻弄される新進作家を描く、陰湿な心理戦が特徴の作品。

まとめ(注目ポイント)

  • 「ハードボイルド・ノワール映画祭」開催決定『ハードボイルド・ノワール映画祭』を7月25日~8月21日、新宿K's cinemaで開催。全15作品を上映。
  • ハードボイルド文学の名作を映画で特集ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ヘミングウェイらの原作・原案作品を一挙上映。
  • 日本初公開作品もラインアップミッキー・スピレイン原作『裁くのは俺だ』をはじめ、多彩なノワール作品を上映。
  • 開催記念トークイベント実施初日7月25日の『キッスで殺せ!』上映後、吉田広明と上島春彦によるトークイベントを開催。
上映情報

ハードボイルド・ノワール映画祭
2026年7月25日(土)〜8月21日(金)、新宿K’s cinema にて開催

配給:アダンソニア
宣伝・配給協力:ブライトホース・フィルム

協力:ブロードウェイ、仙元浩平
デザイン:千葉健太郎
字幕:上條葉月(『裁くのは俺だ』)

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