リン=マニュエル・ミランダの傑作ブロードウェイ・ミュージカルをジョン・M・チュウ監督が映画化した『イン・ザ・ハイツ』が7月30日(金)全国ロードショー。 この公開を記念して、 映画・音楽ジャーナリストの宇野維正によるスペシャルトークショーが実施され、本作を「本年度ベスト」と絶賛する宇野が原作者や作品背景について熱を込めて解説した。
トニー賞4冠(作品賞、楽曲賞、振付賞、編曲賞)とグラミー賞ミュージカルアルバム賞を受賞した傑作ミュージカルを映画化した『イン・ザ・ハイツ』。FOX NEWS、バラエティ紙、タイム誌など全米の名だたるマスコミがこぞって「今年最も観たい映画」に挙げ、はやくもアカデミー賞最有力とのレビューが出るなど高い評価を受けた話題作だ。
メガホンを取ったのは、キャストがほぼ全員アジア人という異例のキャスティングながら全米3週連続第1位を記録し大ヒットとなった『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ。傑作舞台に、映画ならではのスケールとカラフルな映像美そして今日の世界の社会情勢を反映した大胆なアレンジを加え、新たなミュージカルの名作映画を誕生させた。
若者たちの夢と、逆境に立ち向かう街の人々の絆を乗せた歌と圧巻のスケールのダンス。ニューヨークの片隅の街から今の世界に響き渡る歌と熱い夢が魂を揺さぶる、感動のミュージカルだ。
7月20日(火) に実施された特別トークショーに登壇した宇野は「この作品2回見ているんですけど、何回見ても今年1番だなってくらいに感動してしまった」と語る。そしてまず観客に向けて原作者について紹介した。
「かき氷屋さんの人が劇中で度々出てきますが、なぜか分かりましたか? あれが原作者のリン=マニュエル・ミランダさんなんです。彼はまだ41才なんですけど、ご存知の方も多いと思いますが『ハミルトン』っていうミュージカルでですね、世界中でセンセーションを巻き起こした人なんです。我々の同時代を生きているクリエイターの中で歴史に名を残す5本の指に入ると思います。ケンドリック・ラマーなどと共に、50年後も100年後も語り継がれるであろう人物。そういうクリエイターの当時25歳で作った作品なんです!」
続けて宇野はリン=マニュエル・ミランダが原作ミュージカルでウスナビを演じていたことを紹介。そして最近観たというリーアム・ニーソン主演の映画『ファイナル・プラン」の話題に。理由は『ファイナル・プラン』に本作の主演を演じたアンソニー・ラモスがキャスティングされているからだ。
「あの映画で悪い警察が出てくるんですけど、その1人をアンソニー・ラモスが演じているんです。どういうことかというと、リーアム・ニーソンが出てる映画の5番目くらいに悪い役、そういう役しかヒスパニック系の人ってハリウッドでは基本的に役をもらえないんです。この映画の偉大なところはハリウッド映画なのにも関わらずスター俳優が主役じゃないところ。2012、3年に映画化の話が立ち上がった時、シャキーラやジェニファー・ロペスの名前が上がったそうです。こういう作品の映画化はスターを出そうと普通なるんですけど、今回は監督がアジア系でキャストを固めた『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ。だから単純に当てればいいんじゃなくて、ハリウッドでこれまで真ん中にいなかった人に光をあてる。それをインディーではなくハリウッドの娯楽作品でやる。とても意義があることだと思います」
本作では物語の転換点で停電が起こる。真夏に停電で、エアコンや扇風機も使えない。暑さで大変な状況になる。これは現実にNYで起きた出来事がモチーフになっているという。
「これは2003年の8月にNYというかカナダの方も含めた東海岸で大きな停電があったんです。29時間停電が続き、当時、日本でもニュースのトップニュースになったんですけど、当時NYに暮らしていた人は語り草にしています。なぜかというと最初はみんなパニックになったんだけど、10時間15時間たってくると、みんなでロウソクをつけあって、真っ暗な中に一緒にいるコミュニティの一体感があったそう。9.11の2年後に起きたこの出来事で、自分の住んでいるコミュニティに対する信頼を確認したんだと思います」
続けて話題はNYの地価の話題に。
「映画で家賃がどんどん高くなっていって、例えば美容院は橋を渡った先に行かなくてはならなくなった。これはミュージカルの初演の2005年と比べても実際にNYの地価はとんでもないことになっているんです。いまマンハッタンで過ごすことが難しくなっている。特に移民の人たちにとっては。ただこれは東京でも上海、ソウルでも世界中で起こっていること。都市の中心に普通の人は住めなくなってきている。こうしたことが進行している中で、本作は地元で生きることを歌い上げた作品。いまコロナでレストランやカフェが大変なことになってますけど、コロナ以前からこういう話はあった。いま行ったら映画に映っているような状況じゃないかもしれない。けど願望やファンタジーも含めて、やはり地元愛を歌っているんですね。ワシントンハイツで撮影しているし、そこに大義があるんです」
最後に、これから本作を筆頭にミュージカル映画の波がやってくることを予告した。
「(本作が)日本で当たったらいいなと思うんですよね。よかった人はぜひ人に勧めてください! そして今年はミュージカルの年になると思います。それこそプエルトリコ系の人たちをちゃんと映画で描いたパイオニア的作品の『ウエスト・サイド・ストーリー』が12月に控えています。スピルバーグがリメイクした作品ですね。また、なんとリンが監督デビューします。これもNYを舞台にした『tick,tick…BOOM!』がNetflixで年内に配信。アカデミー賞はこれらの戦いになるかもしれません!」
イン・ザ・ハイツ
2021年7月30日(金) 全国ロードショー
【STORY】
ニューヨーク、“ワシントン・ハイツ”は、道端に置かれたラジカセ、アパートの窓、カーラジオなどからいつも音楽が流れる、実際にある賑やかな移民の街。その街で育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーはつまずきながらも自分の夢に踏み出そうとしていた。ある時、街の住人たちに住む場所を追われる危機が訪れる。これまでも幾度と様々な困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がるが―。突如起こった大停電の夜、街の住人達そしてウスナビたちの運命が大きく動き出す。
■監督:ジョン・M・チュウ(『クレイジー・リッチ!』)
■製作:リン=マニュエル・ミランダ(『モアナと伝説の海』作曲/歌、ミュージカル「ハミルトン」)
■出演:アンソニー・ラモス(『アリー スター誕生』)、コーリー・ホーキンズ(『キングコング:髑髏島の巨神』)、レスリー・グレース(シンガーソングライター/歌手)、メリッサ・バレラ(『カルメン』)、オルガ・メレディス(ミュージカル版「イン・ザ・ハイツ」)、ジミー・スミッツ(『スター・ウォーズ』シリーズ)
■全米公開:2021年6月11日
■原題:In the Heights
■配給:ワーナー・ブラザース映画
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