名匠トラン・アン・ユンが描く、愛と⼈⽣を味わう感動の物語『ポトフ 美食家と料理人』が12月15日(⾦)より全国順次公開。公開に先立ち、現在開催中の第36回東京国際映画祭にて本作が公式上映され、10⽉23⽇(⽉)のレッドカーペットと10⽉24⽇(⽕)に開催されたQ&Aに、トラン・アン・ユン監督、俳優のブノワ・マジメル、さらに監督夫⼈であり本作でアートディレクションと⾐装を担当したトラン・ヌー・イェン・ケーが登壇した。
本作は『⻘いパパイヤの⾹り』(93)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール、『シクロ』(95)でヴェネチア国際映画祭⾦獅⼦賞を受賞し、繊細な映像美で⾼く評価されてきたトラン・アン・ユン監督の最新作。前作から7年ぶりとなる本作では料理への情熱で強く結ばれた美⾷家と料理⼈の愛と⼈⽣を味わう感動の物語を描く。新たなるグルメ映画の⾦字塔として、カンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞し、第96回アカデミー賞国際⻑編映画賞フランス代表に選出された。
10⽉24⽇(⽕)に開催されたQ&Aでは、ゲストの三名が登場すると、会場から大きな拍手が。その様子に笑顔を見せたトラン・アン・ユン監督は「皆さん来てくださってありがとうございます。ここの映画館の上映環境は本当にすばらしいですからね。皆さんはここで観られてラッキーですよ」とあいさつ。そして主演のブノワ・マジメルが「この作品を皆さんに紹介できること、信じられないくらい嬉しいんです。われわれも楽しんでつくった映画なので、気に入ってくださったらいいなと思っています」と続けると、トラン・ヌー・イェン・ケーも「わたしたちが以前来たのは(2017年の)『エタニティ 永遠の花たちへ』の時。その時もわたしは衣装とアートディレクションを担当しました。(劇中の19世紀末フランスという)時代は同じなんですが、今回はまったく違ったやり方だったんです。皆さんに気に入っていただけたら」とそれぞれにあいさつした。
前日のオープニングセレモニーでは、東京ミッドタウン日比谷のステップ広場から日比谷仲通りにかけて敷かれた165mのレッドカーペットを歩いた三名。トラン監督が「観客との距離もすごく近くて、とてもすばらしかった」と振り返ると、ブノワも「本当に近い距離で歓迎してくれ、交流することができたというのは本当にすばらしいこと。しかもレッドカーペットがとても長かったんで、楽しかったですね」とコメント。そしてトラン・ヌー・イェン・ケーも「昨日もみんなで話し合っていたんですが、わたしのキャリアの中でももっともすばらしいレッドカーペット。ラグジュアリーな感じがしましたね」としみじみと付け加えた。
本作で料理を題材にしたのはなぜなのか。その理由についてトラン監督は「実は原作(“The Life and Passion of Dodin Bouffant, Gourmet”(英題))に出会ったのが最初でした。登場人物が食べ物、料理について語るシーンがすばらしかったので、それを映画にできないかなと思ったのがきっかけだったんですが、そんな中で、原作を離れて僕自身が入れたかったのが、長く続いているカップルの関係。うまくいっている夫婦関係を描くのって難しいんですよ。それはちょっとした挑戦でした」と振り返った。
劇中でブノワが演じるのは“食”を追求し、芸術にまで高めた美食家のドダン。この役を演じるにあたり、「僕自身は実生活でも料理を作るタイプ。好きな女性であったり、友人たちなど、誰かのために料理をつくるというのは、一種の愛の告白だと思う。とはいえ、僕自身はドダンのようなアーティストというわけではないので、料理をする動作に心をこめようと思いました。そうすると直感的に、とても自然な形でシーンを演じることができたんです」と述懐。「しかもまわりを囲むのは、本当に才能あふれるスタッフばかりだったので、自分としては意外にシンプルに演じることができました。皆さんがご覧になった冒頭の料理のシーン、本当にすばらしかったですよね。トラン監督が振付師のように振り付けをしてくれて、すばらしいリズム感が生み出されたわけです。これはみんなでつくりあげた共同作業だったわけです」と振り返った。
そしてここからは観客からの質問を受け付けることに。「料理のシーンに音楽を使わなかったのはなぜ?」という質問には、「皆さんが料理をする時には、(下ごしらえや調理など)たくさんのしぐさがありますよね。そこで奏でられる料理の音というのは、とても豊かなサウンドだと思うんです。でもそこに音楽をつけるとそういう音を排除することになってしまう。だから編集の時に、そうした料理の音を聞いていると、それがまるで伴奏であるかのような音楽であることに気付いたので、そこでの音楽は排除することにしました。それにしても愛の物語なのに、音楽がない映画ってレアですよね」と笑ったトラン監督。
そしてブノワのファンであるという女性からは、「昨日、銀座の街を歩いている様子を、Instagramにあげていましたが、どこかに行かれたんですか?」という質問も。それに対して「皆さんに告白することがあるんです」と切り出したブノワは、「僕は日本の洗練された料理に恋をしているんです。実は何年も前に、映画の撮影のために3カ月ほど日本に滞在したことがあったんです。その時に、日本にはミシュランの星付きレストランがたくさんあるということを知り、たっぷりと堪能させていただきました。そしてInstagramで見ていただいた写真では、ここにも行きたい、あそこにも行きたい、と夢見心地なところを象徴した写真となっているんです」と説明。
そして「もう少し告白していいですか?」と付け加えたブノワは、「実はこの役のオファーをいただいた時に、監督にある提案をしたんです。グルメで、美食家という人物を演じる場合、俳優は頑丈で、かっぷくのいい体形であることを要求されがちだけど、時にはほっそりとした料理家がいてもいいんじゃないかとね。実際、この撮影に入る前は自分はもうちょっとほっそりしていたんですよ。でもこの映画の準備のために、僕の友人たちのために料理をつくっていくうちに、体重が10キロ増えてしまった。僕の提案は“有言不実行”になってしまった。(衣装を担当した)トラン・ヌー・イェン・ケーさんが準備してくれた衣装を何度も作り直すことになってしまい、本当に申し訳なかった」と語り、会場を沸かせた。
その流れで、トラン・ヌー・イェン・ケーは衣装・アートディレクションのこだわりについて「(準備期間が)実は25日間しかなかったんです。現代映画だって25日で準備するのは大変なのに、コスチュームプレイですからね。信じられない挑戦でした」と明かし、会場を驚かせるも、「わたしに求められていたことは、できるだけシンプルに、的確に提出するということ。結果としてできあがったものは、とても豊かなものになったなと思います」と自負してみせた。また衣装についても「20年後、30年後に見ても古めかしいと思われないように。モダンさを感じさせるようにと心がけていました」とそのコンセプトについて語った。
そんな大盛り上がりのQ&Aだったが、残念ながらここで時間切れ。最後にトラン監督が「この映画は愛する喜び、食べる喜びが満載の映画です。ですから日本の観客の皆さんに、そうした喜びを再確認していただければ」と観客に向けてメッセージを送ると、会場からは万雷の拍手がわき起こった。
『ポトフ 美食家と料理人』は12⽉15⽇(⾦)Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
ポトフ 美食家と料理人
2023年12⽉15⽇(⾦)Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
STORY
「⾷」を追求し芸術にまで⾼めた美⾷家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理⼈ウージェニー。⼆⼈が⽣み出した極上の料理は⼈々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太⼦から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない⼤量の料理にうんざりする。「⾷」の真髄を⽰すべく、最もシンプルな料理「ポトフ」で皇太⼦をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは⼈⽣初の挑戦として、すべて⾃分の⼿で作る渾⾝の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが──。
監督:トラン・アン・ユン 脚本・脚⾊︓トラン・アン・ユン
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
料理監修:ピエール・ガニェール
配給:ギャガ
原題:La passion de Dodin Bouffant/2023/136 分/フランス/ビスタ/5.1ch デジタル/字幕翻訳:古⽥由紀⼦
©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA
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