『父を探して』で第88回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされたアレ・アブレウ監督の最新作『ペルリンプスと秘密の森』が12月1日(金)より公開されるのに先立ち、11月14日(火)に先行上映が都内の劇場で行われ、来日を果たしたアレ・アブレウ監督がアニメーション映画『音楽』の岩井澤健治監督とともに登壇。アニメーション、創作への向き合い方、そしてそれぞれの音楽へこだわりなどを語りあう一夜限りのスペシャルな対談が実現した。
本作はアニメーションの新潮流“イベロアメリカ”の最も重要な作家のひとりとされるアレ・アブレウ監督による最新作。敵対していた太陽の王国と月の王国の二人の秘密エージェントは、巨人によってその存在を脅かされる魔法の森を守るという共通する目的のために協力することにする。しかし平和をもたらすという謎の生物「ペルリンプス」を探すうちに、物語は思いがけない結末にたどり着く。そこに隠された現代への問いかけとは?
今回開催された先行上映イベントに登壇したのは、それぞれ手がけた作品(『ペルリンプスと秘密の森』と『音楽』)が着想から完成まで7年半かかったという共通点を持つアレ・アブレウ監督と岩井澤建治監督。アブレウ監督は、岩井澤監督の『音楽』について「良い意味での“軽さ”“軽快な感覚”というものを、画面の中にも感じることができました。もちろん製作にあたって大変な苦労をされているのは分かっているのですが、子供が遊んでいるかのような軽やかさを感じることができました」と絶賛する。
そして、岩井澤監督も『ペルリンプスと秘密の森』をすでに「3回鑑賞済み」であることを告白し、「本当に軽快、ポップで楽しい気持ちになれる音楽から始まっていて。でもテーマとしては決して楽しいだけじゃない、シリアスというか、すごく今の世界情勢とリンクしている作品で、でも決してそれを重く描かない、軽やかに描いているというのが本当に素晴らしいなと思いました」と賛辞を送り、「個人的に気になったのが“影があって、そこに光を入れる”という作り方。日本のアニメーションだと“光があって、そこに少し影を入れる”作品が多いと思うのですが、ペルリンプスはその見せ方がすごく新鮮だなと思いました」とクリエイターならではの視点で本作の鑑賞ポイントも指摘した。
アブレウ監督は本作の着想の瞬間について「最初に浮かんだイメージというのが、子供が水浸しの森で、動物の扮装をしていて、顔のお化粧もぐちゃぐちゃになっている。そういうイメージからスタートしています。その子供がどこへ行こうとしてるのか、その意味を探る、というところから本作はスタートし、子供時代を象徴する場所としての森がどんどん沈み込んでいってしまう、ということに行きつきました」と説明。
続けて「子供時代も(この映画のように)色彩に溢れていて、抽象的で、そういった子供時代は常に永遠に私たちのどこかに必ずある、と思いました。この映画は子供の遊び、ゲームのように見ていただきたいと思っています。この森の中にたくさんのいろいろなものがあって、それを一つ一つ、パズルのように集める。そういうところをみなさまにも見ていただきたい、感じていただきたいと思っています」とメッセージを送った。
タイトルについた「ペルリンプス」という謎めいたキーワードについても語ったアブレウ監督。「ペルリンプスという言葉自体にはなんの意味もありません。ポルトガル語のホタルという言葉からヒントを得て私たちが作った造語です」と言う。その理由としては「私たちにとって、『それがなんなのか?』って考える余地を残したかったからです。観客のみなさまにも一緒にこの映画を作ってほしい、一緒に遊んでほしい」と、その願いを語った。
「作品と音楽の関係性」について質問が及ぶと、岩井澤監督は「『ペルリンプスと秘密の森』の主題曲がポップでキャッチーで、聞いた瞬間とても大好きになったんです」と明かし、「僕は映画の中で主題曲っていうのがとても重要だと思っているんです」と述べる。「まずお客さんに知ってもらうきっかけになるのは予告編だったりすることが多いと思うのですが、予告編を観て興味を持ってもらえる作品はそこで流れる主題曲がキャッチーで印象に残るものが多いと思っています」と語り、アブレウ監督も「音楽は、もしかしたら映像より重要かもしれない。テーマ曲は映画のポスターと同じくらい重要だと思っています」と同意する。「『ペルリンプスと秘密の森』の音楽は、私の幼なじみでブラジルの音楽家のアンドレ・ホソイさんという人に作ってもらいました。映画の最後には、ブラジルでよく知られた、ミルトン・ナシメントという方の曲も入れています。そのナシメントの歌の歌詞が、自分の心の中にはいつも少年が住んでいる、というまさにペルリンプスの話を凝縮したような歌詞がついています」と解説した。
今やそれぞれグローバルに展開する作家であるという共通点も持つ二人。岩井澤監督は「率直に聞きたんですけど、どうやったらアカデミー賞にノミネートされるんでしょうか?」と直撃質問する一幕も。その真っ直ぐな質問に対してアブレウ監督は「私の最初の長編はブラジル国内でしか上映ができなかったんです。『父を探して』の場合は、いろいろな国際映画祭に出していただくことができて、それが、作品の成長につながったんだと思います」と述べ、「『父を探して』がラテンアメリカのアニメーションの中で最初に推薦された映画になったことはすごくインパクトがあります」と振り返った。
日本はアブレウ監督にとって、自身が巨匠と仰ぐアニメーション監督たちがいる「特別な国」だと言う。前回の来日では、『君たちはどう生きるか』の絵コンテを制作中だった宮崎駿監督や高畑勲監督に会うことができた、と明かしながら「日本のアニメーションの産業はとても安定していて、文化は素晴らしいものだと思います。ブラジルのアニメーションは今はまだ、これからどうなっていくか、というのを探してる段階だと思います」として「でも逆に、私たちには自由があります。どんな映画を作ってもいいと思っています。それはもしかしたら日本の安定したアニメ産業から見れば、歪んでいるかもしれません。ですが、その自由さというものを、私は岩井澤監督の『音楽』という映画に見出したと思っています」と絶賛。
それに対して岩井澤監督は「ありがとうございます」と感謝し「アニメーションの多様性は、海外の作品で感じることが多くて。日本でももう少し、もっといろんな作品が作られたらな、と思います」と作品制作への意欲を語った。
『ペルリンプスと秘密の森』は12月1日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほかロードショー。
ペルリンプスと秘密の森
2023年12月1日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほかロードショー
STORY
テクノロジーを駆使する太陽の王国のクラエと、自然との結びつきを大切にする月の王国ブルーオの二人の秘密エージェントは、巨人によってその存在を脅かされる魔法の森に派遣されている。クラエはオオカミにキツネのしっぽ、ブルーオはクマにライオンのしっぽ、ホタルの目を持つ不思議な姿をしている。二人は正反対の世界からやってきて、全く異なる文化を持ち、一世紀にわたって対立を続けていた。二人が探しているのは、森を救うという「ペルリンプス」だ。光として森に入り込み、様々なエネルギーをもたらした。しかし巨人の支配が始まり、だれもがペルリンプスの存在を忘れてしまっていた。反発しながらもペルリンプスの手がかりを探して、二人は協力し合うことにする。音と光に導かれ、たどり着いた場所にはカマドドリのジョアンという鳥の姿をした老人がいた。老人はかつて巨人だった時のことを二人に語り始める。そしてペルリンプスに呼ばれてこの森に帰ってきたことも…。老人は家へ帰るよう二人を諭し、「出会いの場」へと導く。最初に出会った場所に戻り、ペルリンプスを探し続ける二人に、突然巨人のサイレンが鳴り響く。残された時間はもうない。大きな波が森を破壊し飲み込もうとしていた…。
脚本・編集・監督:アレ・アブレウ(『父を探して』)
音楽:アンドレ・ホソイ/オ・グリーヴォ
2022年 ブラジル /原題:Perlimps/スコープサイズ/80分/日本語字幕 星加久実
後援:在日ブラジル大使館 配給:チャイルド・フィルム/ニューディアー
© Buriti Filmes, 2022
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