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不朽の名作『ピアノ・レッスン』が日本公開から30年の時を経て4Kデジタルリマスターとして蘇り、3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開。この公開に先駆けて、3月5日(火)に都内会場にて先行上映会が開催され、上映前のトークイベントに文筆家・映像作家・俳優の小川紗良と、映画研究者・批評家の北村匡平の二人が登壇した。

「映画全体から受け取ったのは悲劇ではなくて、女性が主体性を取り戻していくということです」

あいにくの雨にもかかわらず、会場は超満員の盛況ぶり。2人は大きな拍手に迎えられ、まず北村が「この映画は今日の天気に似合う作品で、雨のシーンが本当に素晴らしいです。美しい雨、悲しい雨……色々な表情の雨が映っています」と天気に触れて挨拶。

30年の時を越えて4Kリマスターとして蘇る『ピアノ・レッスン』。元より作品を鑑賞していた北村は「当時はよく分からないまま見ていて、家父長制下における女性の悲劇、くらいの感想しか持たなかったんです。今回改めて見直し印象が全く違い、今こそ見るべき現代的映画だと思いました」と語る。

一方、名作として存在は知りながらも未見だったという小川は、「官能的な映画という印象があって、それが壁になっていました。今回やっと見て、なんて荒々しくて力強い映画なのだろうと。先ほど雨のシーンについて北村さんも触れていましたが、冒頭から大荒れですよね。海も山も天気も、全てが容赦なくて驚きました」と『ピアノ・レスン』から受けた衝撃を告白。

北村も「ワンショットに込められている力強さが凄まじいですよね。めちゃくちゃこだわって作っているのが伝わってきます」とコメントした上で「自分たちの時代を生きる女性監督という視点で初めて意識した監督です。女性作家が次第に盛り上がっていく中でも、カンピオンは先駆的な存在で、まさに時代を切り拓いてきた人」と評価した。

自らの意思で声を発さないことを選んだ主人公・エイダ。北村は、映画が作られたあとに出版された『ピアノ・レッスン』小説版を持参し、それが作品を深く読み解くヒントになったという。エイダの声の代わりとも言えるピアノと共にニュージーランドの孤島へやってくる冒頭のシーンを挙げ、「エイダの夫となるスチュワートが彼女を出迎えて早々に“Can you hear me?(=聞こえるか?)”と抑揚をつけて大声で問いかける。エイダは、わざとゆっくり大きな声で話したことに侮辱された、と小説には書かれています。対してベインズは“She looks tired.(=疲れているようだ)”と、彼女自身をしっかり見つめている。そのような細部へ目を向けてみると、色々なものが立ち上がってきます」と登場人物それぞれが発するセリフや心の動きが繊細に描かれている本作の魅力を語った。

小川が「エイダは不自由な状況にいる女性ですよね。お見合いというか、写真だけで結婚を決められて、ピアノ一台と娘と一緒に海を渡る。彼女に決定権はいつもなくて、音楽だけが声を表すものになっていくわけですが、映画全体から受け取ったのは悲劇ではなくて、女性が主体性を取り戻していくということです。主体性を取り戻すなかのひとつとして性愛も大切ですし、そういう意味での官能表現だということに気づきました」と話すと、北村も「19世紀、女性が男性に従順でなければならなかったり、非常にがんじがらめな時代ですよね。だからこそ、エイダがどういう選択をするか確かめてほしいです。カンピオン監督には『ある貴婦人の肖像』や『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でも一貫してジェンダーを問い直そうとする視点がしっかりとあります」と時代性にも絡めながら監督自身が歩んできた作家としての在り方へも言及した。

声を発さずとも、次第にさまざまな表情を見せるエイダについて、小川は「現住民族に触れることでエイダの心がほどけていくというストーリーも素晴らしいと思いました」とコメント。

北村は「人と人との繊細なコミュニケーションのなかで、どうほどけていくのか注目してほしいですね。僕は、この映画の延長に『哀れなるものたち』があると思います。『哀れなるものたち』以上に本作では、身体の揺らぎや理性の曖昧さといった生々しさまで描いているんですよね」と現代へも通ずる普遍的なテーマを描く2作を対比。イベント終盤には、小川が「日本でも世界でも女性監督が増えている中、この映画が4Kになってみられるというのは必然性を感じます」と締めくくり、イベントは幕を閉じた。

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』は3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテ 他、全国ロードショー。

作品情報

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター
2024年3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテ 他、全国ロードショー

STORY
19世紀半ば、ニュージーランドの孤島。エイダは父親の決めた相手と結婚するために、娘のフロラと1台のピアノと共にスコットランドからやって来る。「6歳で話すことをやめた」エイダにとって、ピアノは声の代わりだった。ところが、夫になるスチュアートはピアノを重すぎると海辺に置き去りにし、先住民との通訳を務めるベインズの土地と交換してしまう。エイダに惹かれたベインズは、ピアノ1回のレッスンにつき鍵盤を1つ返すと提案する。渋々受け入れるエイダだったが、レッスンを重ねるうちに彼女も思わぬ感情を抱き始める――

監督・脚本:ジェーン・カンピオン
音楽:マイケル・ナイマン
出演:ホリー・ハンター、ハーヴェイ・カイテル(『アイリッシュマン』)、サム・ニール(『ジュラシック・パーク/ワールド』シリーズ)、アンナ・パキン(『X-MEN』シリーズ)
提供:カルチュア・エンタテインメント   配給:カルチュア・パブリッシャーズ

原題:THE PIANO/1993年/オーストラリア・ニュージーランド・フランス/英語/121分/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch/字幕翻訳:戸田奈津子/R15+

©1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

公式サイト www.culture-pub.jp/piano/

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