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2026年1月6日に70歳の生涯を閉じたタル・ベーラ。逝去から一年、初公開以来、長らく日本では観ることが叶わなかった『倫敦から来た男』の初のデジタル版でのリバイバル公開と、彼の長編6作品を一挙上映する特集上映「タル・ベーラ 凝視せよ、抵抗せよ」が12月19日(土)からシアター・イメージフォーラム他にて開催されることが決定した。あわせて、『倫敦から来た男』の新ポスタービジュアルと特集上映のビジュアルが解禁された。

上映されるのは、『倫敦から来た男』に加えて、映画史において伝説となっている7時間18分の『サタンタンゴ』、ノーベル文学賞受賞のクラスナホルカイ・ラースローと初めて組んだ『ダムネーション/天罰』、フィルモグラフィの中でも最もラディカルな『ヴェルクマイスター・ハーモニー』、カサヴェテスを彷彿とさせるドキュメンタリータッチのデビュー作『ファミリー・ネスト』、珍しいカラー作品『アウトサイダー』の6作品となる。

一貫して人々を凝視し、型にはまることを拒絶し、世界に抗ってきたタル・ベーラ。その訃報は世界を駆け巡り、SNSは瞬く間に数多くの悼む声で溢れた。それは彼が作り上げてきた作品の影響と存在の大きさを改めて知らしめるものだった。今回の特集上映は、その唯一無二の世界をスクリーンで体感できる貴重な機会となる。

タル・ベーラ監督
©Marton Perlaki

今回解禁された『倫敦から来た男』の新ポスタービジュアルは、漆黒の海に浮かぶボートに佇む1人の男の姿と「漆黒の闇が欲望を掻き立てる」というコピーが、これから始まる破滅へ向かう物語を予感させる鮮烈なものとなっている。まさに推理小説家ジョルジュ・シムノンの同名小説を映画化した“ノワール・ミステリー”に相応しい雰囲気を醸し出している。

あわせて解禁された特集上映のポスタービジュアルは、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させ、世界に衝撃を与えた記念碑的作品『ヴェルクマイスター・ハーモニー』の一場面をベースにし、漆黒の中に浮かび上がる主人公ヤーノシュの横顔と“見世物のクジラの目”、そして「凝視せよ、抵抗せよ」という深紅の文字の特集タイトルが強烈な印象を残すものとなっている。

特集上映「タル・ベーラ 凝視せよ、抵抗せよ」上映作品

⚫︎『倫敦から来た男』デジタル版
推理小説家ジョルジュ・シムノンの同名小説に「これは私たちの物語だ」と一瞬にして魅了されたタル・ベーラが映画化し、タル・ベーラ監督作として初めてカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された野心作。果てることない海のそば。静かに生きる鉄道員のマロワンは毎晩、「ガラスの檻」のような制御室から、漆黒の港と駅を見下ろしている。ある夜、マロワンは偶然にも“倫敦から来た男”ブラウンが犯した殺人の現場を目撃してしまう。そして、殺された男が持っていた大金の入ったトランクを、マロワンは海中から見つけ出す。それはブラウンが必死に探していたものだった・・・。出会うはずのなかった男たちの人生が交差し、ゆっくり破滅へと向かってゆく。

「罪とは何か?」「罰とは?」と問いかけ、誰もが罪人になりえるという人間の脆さと哀れを描く物語を描くにあたってタル・ベーラは空間の概念を揺るがすカメラワーク、登場人物の心情をも見透かすような長回しを駆使し、完璧なモノクロームの世界を作り上げた。冒頭の港のシーンは、驚くことにコルシカのバスティア港に作られたセットであり、そのファーストショットを観ただけで、一切の妥協を許さないタル・ベーラの姿勢がうかがえる。インディーズ映画からハリウッド超大作まで幅広く活躍するティルダ・スウィントンが、退廃的な美しさを漂わせるマロワンの妻を見事に演じている。

監督:タル・ベーラ
原作:ジョルジュ・シムノン
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー、タル・ベーラ 
撮影監督:フレッド・ケレメン
音楽:ヴィーグ・ミハーイ 
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ  
出演:ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン、ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ
2007年/ハンガリー=フランス=ドイツ/139分/モノクロ/原題:The Man from London/ハンガリー題:A londoni férfi

この映画は、欲望について、自由で幸福な人生への人間の希求について、決して実現しない幻想的な夢について、そして、毎日眠りにつき次の日に起き上がり生き続ける私たちの強さについて、描いています。私はマロワンの物語が、誘惑に打ち勝ち、人間の尊厳を保つ勇気を持っている全ての人の物語であると確信しています。
――――タル・ベーラ


⚫︎『ファミリー・ネスト』 4Kデジタル・レストア版
住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用いてドキュメンタリータッチで5日間で撮影した、22歳の鮮烈なデビュー作。不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を8ミリカメラで撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。「映画で世界を変えたいと思っていた」とタル・ベーラ自身が語る通り、ハンガリー社会の苛烈さを直視する作品となっている。社会・世界で生きる人々を見つめるまなざしの確かさは、デビュー作である本作から一貫している。

監督・脚本:タル・ベーラ
撮影監督:パプ・フェレンツ 
音楽:スレーニ・サボルチ、トルチュヴァイ・ラースロー、モーリツ・ミハーイ 
編集:コルニシュ・アンナ 
出演:ラーツ・イレン、ホルヴァート・ラースロー、クン・ガーボル、クン・ガーボルネー

1977年/ハンガリー/105分/モノクロ/原題:Családi tűzfészek/英題:Family Nest

ジョン・カサヴェテスやケン・ローチの作品を想起させるドキュメンタリー・スタイルで撮られた『ファミリー・ネスト』は、映像をとらえるタル・ベーラの天性の才能を示している。
―――NY Film Society of Lincoln Center


⚫︎『アウトサイダー』 4Kデジタル・レストア版
社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた監督第2作にして、珍しいカラー作品。
この作品がきっかけで、タル・ベーラは国家当局より目をつけられることになる。本作以降すべての作品で編集を担当するフラニツキー・アーグネシュが初めて参加。酒場での音楽とダンスなど、タル・ベーラ作品のトレードマークと言えるような描写が早くも見てとれる。日本でも80年代にヒットしたニュートン・ファミリーの「サンタ・マリア」が印象的に使われている。

監督・脚本:タル・ベーラ
撮影監督:パプ・フェレンツ、ミハーク・バルナ
音楽:サボー・アンドラーシュ、ホボ・ブルース・バンド、ニュートン・ファミリー、ミネルヴァ 
編集:フラニツキー・アーグネシュ
出演:サボー・アンドラーシュ、フォドル・ヨラーン、ドンコー・イムレ、バッラ・イシュトヴァーン 

1981年/ハンガリー/128分/カラー/原題:Szabadgyalog/英題:The Outsider

当時のハンガリー映画に映っているのは嘘ばかりだった。本当の人々の姿を撮りたかった。『アウトサイダー』は映画に対するアンチテーゼだ。
―――タル・ベーラ


⚫︎『ダムネーション/天罰』 4Kデジタル・レストア版
クラスナホルカイ・ラースローが初めて脚本を手掛け、ラースロー(脚本)、ヴィーグ・ミハーイ(音楽)が揃い、“タル・ベーラ スタイル”を確立させた記念碑的作品。ラースローと出会ったタル・ベーラは『サタンタンゴ』にすぐに取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手する。
不倫、騙し、裏切りー。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた名手メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。

監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:セーケイ・B・ミクローシュ、ケレケシュ・ヴァリ、テメシ・ヘーディ、パウエル・ジュラ、チェルハルミ・ジュルジュ

1988年/ハンガリー/121分/モノクロ/原題:Kárhozat/英題:Damnation

メランコリックな音楽、儀式とも言えるダンス、冷酷なキャメラの動きー『ダムネーション/天罰』は、まさに『サタンタンゴ』の前哨戦だ。 
―――The New York Times


⚫︎『サタンタンゴ』4Kデジタル・レストア版
クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を原作に、4年の歳月をかけて完成させた、映画史上伝説の7時間18分。降り続く雨と泥に覆われ、活気のない村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは果たして救世主なのか?
タンゴのステップ<6歩前に、6歩後へ>に呼応した12章で構成される本作は、秩序に縛られ、自由を求め、幻想を抱き、未来を信じ、なおかつ世界に幻滅する人間の根源的な姿を、全編約150カットという驚異的な長回しで詩的かつ鮮烈に描いている。

監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー 
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル 
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ

1994年/ハンガリー=ドイツ=スイス/438分/モノクロ/原題:Sátántangó /英題:Satantango

7時間すべての瞬間が圧倒的で心を奪われる。残りの人生で毎年観たい傑作。
―――スーザン・ソンタグ


⚫︎『ヴェルクマイスター・ハーモニー』4Kデジタル・レストア版
本作をきっかけにNYのMOMAでタル・ベーラの特集上映が組まれ、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させ、世界に衝撃を与えた記念碑的作品。天文学が趣味のヤーノシュは老音楽家の身の回りを世話しているが、彼らの日常に不穏な“石”が投げ込まれる。広場に忽然と現れた見世物のクジラと、“プリンス”と名乗る扇動者の声。その声に煽られるように住人達の不満は沸点に達し、破壊とヴァイオレンスへと向かい始める。扇動者の声によって人々が対立していく様は、四半世紀前の製作ながら、見事なまでに現在を予兆している。

監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー 
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ラルス・ルドルフ、ペーター・フィッツ、ハンナ・シグラ、デルジ・ヤーノシュ
2000年/ハンガリー=ドイツ=フランス/146分/モノクロ/原題:Werckmeister Harmóniák /英題:Werckmeister Harmonies

『ヴェルクマイスター・ハーモニー』は、忘れられない素晴らしい体験だ。催眠術のように染みわたり、“夢”へと導いてくれる。      
―――ジム・ジャームッシュ

まとめ(注目ポイント)

  • タル・ベーラ特集上映、12月19日(土)開幕「タル・ベーラ 凝視せよ、抵抗せよ」がシアター・イメージフォーラムほかで開催、全国順次上映。
  • 『倫敦から来た男』を初のデジタル版で上映ジョルジュ・シムノン原作のノワール・ミステリーが、デジタル版によるリバイバル上映で登場。
  • 長編6作品を一挙上映『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』『ダムネーション/天罰』など、初期作から代表作までを特集。
  • 5作品を4Kデジタル・レストア版で上映『サタンタンゴ』『ヴェルクマイスター・ハーモニー』などの代表作もラインアップ。
  • 『サタンタンゴ』は上映時間7時間18分クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を原作に、約150カットの長回しで描いた大作。
開催情報

『倫敦から来た男』デジタル版初上映
特集上映「タル・ベーラ 凝視せよ、抵抗せよ」
2026年12月19日(土)より、シアター・イメージフォーラム他、全国順次上映

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