今年生誕 100 周年を迎えたイタリアの異端児ピエル・パオロ・パゾリーニの代表作である『奇跡の丘』と『アポロンの地獄』の2作品が、東京・新文芸坐、京都・京都みなみ会館、長野・松本CINEMAセレクトの 3 劇場限定で“日本最終上映”されることが決定した。あわせてビジュアルが解禁された。
2022 年はパゾリーニ生誕 100 年の記念すべき年。故郷イタリア・ボローニャでの大規模な回顧展や、ロサンゼルス・アカデミー映画博物館での特集上映、そして第72回ベルリン国際映画祭クラシック部門での『マンマ・ローマ』4K 修復版のワールドプレミアなど、世界中で再評価の動きが進んでいる。
日本でも「パゾリーニ・フィルム・スペシャーレ 1&2」と題した特集上映が開催され、『テオレマ 4K スキャン版』と『王女メディア』の 2 作品が現在も全国公開中だ。
今回の日本最終上映では、非業の死を遂げて 45 年以上の時を経た今もなお、世界中のシネフィルに支持されている代表作2作品を上映する。
一本目『奇跡の丘』はマタイによる福音書に基づくキリストの伝記映画。キリストの誕生から律法学者らによる迫害、ユダの裏切り、ゴルゴダの丘における磔刑、そして復活までのエピソードが、無神論者であるパゾリーニによって淡々と描き出されている。それまで下層プロレタリアートの若者を描いてきたパゾリーニが、斬新なテーマと実験的な撮影方法で新たな映像表現を確立し、ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞ほか数々の賞に輝き、世界的な評価を高めた出世作だ。
二本目は、詩人ソフォクレスのギリシャ悲劇「オイディプス王」を映画化した『アポロンの地獄』。荒野に捨てられた赤ん坊のオイディプスが運命の神託に従って、父を殺し母と交わり、逃れることのできない運命と戦う姿が描かれている。世界各国の民族音楽と、荒涼とした砂漠が広がるモロッコの風景が、呪術的で神秘的な唯一無二の映像美を生み出している。母を深く愛し、父と敵対したパゾリー二の自身の自伝的要素がつまった大傑作だ。
日本最終上映にあわせて2作品のポスタービジュアルも解禁。『奇跡の丘』はイエスが十字架を抱える神秘的なカットを、『アポロンの地獄』はオイディプス王の衝撃的なカットを使用。パゾリーニ独特の世界観がさらに際立つポスターが完成した。
『奇跡の丘』と『アポロンの地獄』の 2 作品は日本国内での上映権が終了するため、スクリーンでの上映は今回が最後のチャンスとなる。独創的で革新的なパゾリーニの世界を劇場で堪能できる貴重な機会だ。
『奇跡の丘』『アポロンの地獄』日本最終上映 詳細
【東京】新文芸坐:6/18(土)~6/29(水)
TEL: 03-3971-9422 HP: https://www.shin-bungeiza.com/
【京都】京都みなみ会館:6/10(金)~6/30(木)
TEL: 075-661-3993 HP: https://kyoto-minamikaikan.jp/
【長野】松本 CINEMA セレクト:6/3(金)・12(日) *2 日間
TEL: 0263-98-4928 HP: https://www.cinema-select.com/
※その他詳細は各劇場の HP にてご確認ください。
『奇跡の丘』
(IL VANGELO SECONDO MATTEO/1964 年/モノクロ/ビスタ/138 分)
第 25 回ヴェネツィア国際映画祭 審査員特別賞、国際カトリック映画事務局賞
第 39 回アカデミー賞 編曲賞・衣装デザイン賞・美術賞 3 部門ノミネート
監督・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
製作: アルフレード・ビーニ 撮影監督:トニーノ・デリ・コリ
美術:ルイジ・スカッチャノーチェ 音楽:ルイス・エンリケス・バカロフ
出演:エンリケ・イラゾクイ、マルゲリータ・カルーゾ、スザンナ・パゾリーニ、マルチェロ・モランテ、マリオ・ソクラテ
© LICENSED BY COMPASS FILM SRL - ROME - ITALY. ALL RIGHTS RESERVED.
マタイによる福音書に基づく、キリストの伝記映画。処女懐胎、イエスの誕生、イエスの洗礼、悪魔の誘惑、イエスの奇跡、最後の晩餐、ゲッセマネの祈り、ゴルゴダの丘、復活のエピソードが描き出されるー。出演者は全て職業的な俳優ではなく素人を起用し、スペインの学生だったエンリケ・イラゾクイがキリストを演じ、年老いたマリアには監督の母スザンナが登場。下層プロレタリアートの若者を描いてきたパゾリーニが、斬新なテーマと実験的な撮影方法で新たな映像表現を確立し、ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞ほか、数々の賞を受賞した。
『アポロンの地獄』
(EDIPO RE/1967 年/カラー/ビスタ/105 分)
第 28 回ヴェネツィア国際映画祭 映画による芸術・文学・科学の普及国際委員会受賞
第 43 回キネマ旬報 外国映画 1 位
監督・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
製作:アルフレード・ビーニ 撮影:ジュゼッペ・ルッツォリーニ
編集:ニーノ・バラッリ
美術:ルイジ・スカッチャノーチェ 衣装:ダニーロ・ドナーティ
出演:フランコ・チッティ、シルヴァーナ・マンガーノ、アリダ・ヴァリ、ニネット・ダヴォリ、ピエル・パオロ・パゾリーニ
© LICENSED BY COMPASS FILM SRL - ROME - ITALY. ALL RIGHTS RESERVED.
詩人ソフォクレスのギリシャ悲劇「オイディプス王」の映画化。コリントスの青年オイディプスは、母と交わり父を殺す、という神託を得る。予言を恐れたオイディプスは、故郷を捨て、荒野を放浪するうちライオス王と出会う。そのライオス王こそ、オイディプスの真の父親だったのだー。近代・古代・現代の 3 つの時代設定を背景に、荒野に捨てられた赤ん坊のオイディプスが運命の神託に従って、父を殺し母と交わり、逃れることのできない無意識の欲望と運命と戦う姿を描く。自身の人生をも託すパゾリーニの傑作。
ピエル・パオロ・パゾリーニとは
映画監督のみならず、作家、詩人、批評家などさまざまな顔を持ち、1975 年に突如この世を去ったイタリアの異才。詩集「グラムシの遺骸」でヴィアレッジョ賞を受賞するなど急進的な文学活動を繰り広げる一方、フェデリコ・フェリーニ監督『カリビアの夜』(57)やベルナルド・ベルトルッチ監督のデビュー作『殺し』(62)など数多くの脚本を手掛け、61 年に『アッカトーネ』で映画監督デビュー。『奇跡の丘』で新境地を開き、ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞、米アカデミー賞でも 3 部門ノミネートを果たし、『アポロンの地獄』では世界中を震撼させた。スキャンダラスな話題に事欠かなかったが、その唯一無二の存在は、パブロ・ラライン(『スペンサー』)、ミア・ハンセン=ラヴ(『ベルイマン島にて』)、アリーチェ・ロルヴァケル(『幸福なラザロ』)、そしてシャンタル・アケルマン(『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り 23 番地、ジャンヌ・ディールマン』)など幅広い映画作家たちを魅了し、今もなお影響を与え続けている。
神話・歴史・性などのテーマを大胆に解釈し、映像表現の限界に挑戦し続けたパゾリーニ。優れた詩人、文学者、批評家だからこそ成しえた独創的な映像詩は、絵画や音楽、文学、そして言語学などのモチーフを切り取り、重ねることで構築された。その実験的な撮影方法は、目にみえない境界線を飛び越え、西欧を東洋へ、悲劇を寓話へと転換し、異世界に誘う。この卓越的な演出力は、観る者の固定概念を破壊し、強烈な衝撃と感動を与える。古典を現代の価値観と視点で表現するパゾリーニの映画は、過激で難解なイメージが先行しがちだが、「欲望と矛盾」、「孤独や狂気」、そして「愛と憎悪」など、人間の内面に潜む感情を根源として、生きることの「喜び」と「苦しみ」を教えてくれる。その彼の類まれな映像詩は、唯一無二の表現として、古典ではなく、今もなお現在進行形として語り継がれることだろう。
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