A24が新たに贈る注目作『インスペクション ここで生きる』が8月4日(金)より公開。このたび、本作の音楽を担当した“21世紀の最重要バンド”アニマル・コレクティヴの楽曲起用秘話が明らかになった。
『ムーンライト』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ほか、革新的な作品を次々と送り出してきた映画会社A24の最新作『インスペクション ここで生きる』は、新鋭監督エレガンス・ブラットン監督が自らの半生を描いた実話ストーリー。イラク戦争が長期化する2005年・アメリカ。ゲイであることで母に捨てられ、生きるためにすがるような想いで海兵隊に志願した青年。しかし、彼を待ち受けていたのは、軍という閉鎖社会に吹き荒れる差別と憎悪の嵐だった。主人公であるエリス・フレンチを演じるのは、俳優、そして歌手としても活動し、2019年のトニー賞では別々のパフォーマンスで 2つの部門(演劇主演男優賞/ミュージカル助演男優賞)にノミネートされるという、史上6人目の快挙を成し遂げたジェレミー・ポープ。
本作の印象的なシーンで使用されている、アニマル・コレクティヴが手掛ける劇伴の数々。エレガンス・ブラットン監督の半生を描いた実話である本作において、主人公が抱く感情や行動に深く寄り添った劇伴に仕上がっている。アニマル・コレクティヴの音楽がいかにして本作に起用されたのか。このたび、オファーに至るまでのエレガンス・ブラットン監督とプロデューサーによる楽曲起用秘話が公開された。
「21世紀の最重要バンド」とも評されるアニマル・コレクティヴ。1990年代半ばに友人同士で自然発生的に結成されると、アルバム毎にメンバーが違う独自の音楽性で、アンダーグラウンドシーンを中心に注目を集めた。後にイギリスのレーベルと世界契約を結ぶと、数々の年間ベストに選出される作品を数多く生み出し、更に映画では本作と同じA24制作の『WAVES/ウェイブス』にも楽曲提供をしており、8月25日(金)には限定12インチの発売も控えるなど、世界中で絶大な人気を誇る。
そんな彼らの音楽がいかにして本作に落とし込まれることとなったのか。鍵となったのは、本作のプロデューサーであり、ブラットン監督のパートナーでもあるチェスターのようだ。コロナ禍に、そのチェスターと共にニューヨークからアニマル・コレクティヴメンバーの出身地でもあるバルチモアに引っ越したという監督が制作当時を振り返る。「その頃、アニマル・コレクティヴのアルバム『Merriweather Post Pavilion』を週に2回は聴いていて、チェスターが“楽曲をお願いできないか連絡してみる?”と提案してきた。彼の言う通り、ダメ元でコンタクトしてみたら、イエスと言ってくれたのさ。何が起こるか分からないものだね」。監督は当時の喜びを「アニマル・コレクティヴの5人目のメンバーになれた気分だった」と表現する。
一方でアニマル・コレクティヴのブライアン・ワイツ(ジオロジスト)は、今回のオファーを「まったく予想していなかった」と茶目っ気たっぷりに振り返っている。「僕たちの音楽はホラーやSFが向いていると思っていた。だからエレガンスから連絡があり、僕たちが経験したことのないような彼の人生について描くと知らされた時は、『君のストーリーを伝えるのに僕たちは本当に適している?』と思わず聞いてしまったよ」と、当時の想いを明かす。
オファーに対する驚きはありつつも、最終的に映画の世界観を更に魅力的にする仕上がりとなった今回の楽曲について、エイヴィー・テアは「強さを保ちながらも繊細さも垣間見える曲にしたかった。社会や愛する人々に認めてもらいたい願望、それがいつか実現するという希望を抱かせるような曲に仕上がった」と自信を覗かせている。
楽曲については、主人公・フレンチが新しい“居場所”を探し求めるというコンセプトに基づいているという。監督によると、「僕はゴスペルやR&Bを聴いて育ってきた。ソウルフルでコール&レスポンス系の音楽だね。本作にはスピリチュアルな楽曲が多く用いられている。ボンゴやイスラム教の祈りやキリスト教のコーラスなども取り入れているんだ。これまで自分の居場所を見出すことが出来ていなかった主人公が、“自分自身を貫いていく”。そんな様子を表現できるサウンドを目指したんだ。楽曲の各要素は、スクリーン上の多様性にインスパイアされていて、変化をもたらす器となっている」と語っている。
ブートキャンプの単調さや気が変になりそうな感覚と、フレンチが体験する変化を並べて配置することが狙いだったそうだ。ただ美しいだけではない、感情の震えを増幅させるようなチャレンジングな劇伴をチェックしてみよう。
『インスペクション ここで生きる』は8月4日(金)TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開。
インスペクション ここで生きる
2023年8月4日(金)TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開
STORY
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年間ホームレス生活を送っていた青年・フレンチ(ジェレミー・ポープ)。どこにも居場所を許されず、自らの存在意義を追い求める彼は、生きるためのたったひとつの選択肢と信じて海兵隊への入隊を志願する。だが、訓練初日から教官の過酷なしごきに遭い、さらにゲイであることが周囲に知れ渡るや否や激しい差別にさらされてしまう……。理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらもその都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
監督・脚本:エレガンス・ブラットン(初長編監督作品)
出演:ジェレミー・ポープ、ガブリエル・ユニオン、ラウル・カスティーヨ、マコール・ロンバルディ、アーロン・ドミンゲス、ボキーム・ウッドバイン
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
2022年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/5.1ch/95分/R15+/原題:THE INSPECTION 日本語字幕:松浦美奈
©2022 Oorah Productions LLC.All Rights Reserved.
この記事が気に入ったらフォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow WEEKEND CINEMA