ロウ・イエ監督最新作『サタデー・フィクション』が11月3日(金・祝)より全国順次公開。このたび本編の冒頭映像が解禁された。また映画を一足早く鑑賞した著名人の絶賛コメントも到着した。
『ふたりの人魚』(00)、『天安門、恋人たち』(06)、『スプリング・フィーバー』(09)など、映画史に残る数多くの名作を世に送りだしたロウ・イエ監督が最新作で選んだ題材は、太平洋戦争が勃発する直前の魔都、上海。世界各国の諜報員が暗躍していた時代を舞台に、人気女優とスパイの二つの顔を持つ主人公を中心に据え、当時上海の中心とされていた現存する劇場「蘭心大劇場」で巻き起こる愛と謀略の物語を美しいモノクロ映像で描き出す。諜報員という裏の顔をもつミステリアスな人気女優の主人公ユー・ジン役には、ディズニー・アニメーション『ムーラン』の実写版などハリウッドでも活躍する、中国を代表する女優のコン・リー。日本軍の暗号通信の専門家・古谷三郎に扮するのは、中国でも高い人気を誇るオダギリジョー。
今回解禁となるのは本編の冒頭映像。映画は、舞台演出家のタン・ナーと人気女優ユー・ジンが舞台『サタデー・フィクション』のリハーサルをする場面から始まる。演出とともに、俳優も務めるタン・ナーが酒場に入ると、テーブル席で一人煙草を吸いながら静かに佇む、ユー・ジン演じる主役・秋蘭を見つけ、話しかける。舞台の外では恋人同士でもあるタン・ナーとユー・ジンの2人が意味深長な会話のやりとりをしていると、そこにサングラスに葉巻をくわえた怪しい男性が登場し、タン・ナーから「もう一回やりなおし」の声がかかるところでリハーサルが中断される…。
監督おなじみの手持ちカメラで演者たちの様子を追い、さらに舞台の中で生演奏されているジャズも相まって、ロウ・イエ監督ならではの臨場感のある世界に引き込まれるようなオープニングになっている。ちなみにこの舞台はロウ・イエ監督が「上海に関する小説のうちで、好きな作品の一つ」と語る、横光利一の「上海」を原作としており、ユー・ジンとタン・ナーは互いに惹かれあう中国共産党の女性闘士と日本人男性の役を演じている。
また今回、映画公開より一足早く本作を鑑賞した著名人からのコメントも解禁された。まるで1941年の魔都上海にタイムスリップしたかのような臨場感あふれる映像と、手に汗握るスリリングなストーリーに対する絶賛の声が到着。ロウ・イエのファンとして知られるミュージシャンの曽我部恵一や、本作と同じ年代の中国を舞台に描かれる人気漫画「満州アヘンスクワッド」の漫画家・鹿子と原作者・門馬司もロウ・イエが描くドラマチックなスパイ映画に魅了されたと語っている。コメント一覧・全文は以下のとおり。
『サタデー・フィクション』は11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネリーブル池袋、アップリンク吉祥寺にて全国ロードショー。
著名人コメント ※敬称略/五十音順
小谷賢(日本大学危機管理学部教授)
本映画の舞台は、1941年12月の上海だ。この時代の上海は既に日本軍の占領下にあったが、フランス租界と各国の共同租界が治外法権を維持したままの「孤島」として存在しており、物語はこれら租界内で進展していく。当時の上海は日中のみならず欧米各国のスパイが暗躍する都市でもあり、本作のテーマの一つがまさにこのスパイ戦だ。そのためここでは劇中に登場するスパイたちについて押さえておきたい。
本作は複雑な様相を呈しているが、スパイ映画としてはかなり上質で、それぞれの関係を知っておくとより楽しめるのではないだろうか。
曽我部恵一(ミュージシャン)
ロウ・イエの映画の中では、いつも雨が降っている気がするのだ。
あるいはそれは、年中心に雨を降らすぼくの思い込みだろうか。
しかし、この映画も、やっぱりほら。
365日雨が降り続くこの星で、ぼくらは恋をし、愛を知る。
モノクロームのフィルムが、体温を持ってしまっている。
鹿子(「満州アヘンスクワッド」漫画家)
魔都上海。
この時代は煌びやかな街、人々の生活が機能しているその一方、すぐ傍で各国の謀略と世界情勢が大きくうねっている。租界における多様な人種も相まって集約されたまさにカオスな舞台。
ちょうど満州アヘンスクワッドも上海編佳境であるが、実際こんなヒリついた空気だったのだろうと思う。
白黒の画面も当時を感じるのにいい雰囲気だった。
大衆演劇のスター女優ユー・ジンは、周りの様々な思惑に利用されながらも最後まで自分自身を貫き美しかった。
見応えのある作品でした。
樋口裕子(翻訳家)
時代の渦に飲み込まれてなすすべもなく悲劇の淵に堕ちていく、
そういう人間を見つめて撮ってきたロウ・イエにすれば、
横光利一と想いは重なるような気がする。
森直人(映画評論家)
ロウ・イエが描き出す「個と社会」のメカニズムは他の現代劇と同様だ。『天安門、恋人たち』(06)の北京から始まるクロニクルや、『スプリング・フィーバー』(08)や『ブラインド・マッサージ』(14)の南京、『二重生活』(12)の武漢、『シャドウプレイ』(18)の広州……シンボリックな都市に住む個人と、ひりひりした政治や制度との軋轢。それを長い歴史的射程で描く硬質な姿勢は一貫しているのである。
門馬司(「満州アヘンスクワッド」原作者)
1941年の上海、混沌としたエネルギーに包まれる空気感をこの映画では存分に味わえます。まるで自分がこの地にいるようなリアリティ!風景の一つ一つが没入感に溢れていて、何を信じ、誰を愛するかという選択の重要さを教えてくれる。そして激動のクライマックス。血と涙で塗れる舞台の観客ではなく、キャストとしてそこにいたような感覚でした。素晴らしい作品に感謝を。
横幕智裕(脚本家・漫画原作者)
太平洋戦争開戦直前、激動の時代の愛と謀略。モノクロで描かれる混沌とした魔都上海の世界観に強くつかまれ、引き込まれた。ひたすら夜を突き進んでいる感覚だ。銃を撃つコン・リーのなんと美しいことか。いつの時代も人は国家に翻弄され、呑み込まれていく。今はどうなのだろう。そう痛感した。
劉文兵(大阪大学人文学研究科准教授)
国際映画祭のレッドカーペットでの華やかな立ち居振る舞いや、意思の強い鋭い眼光を特徴づける近年の出演作と一線を画し、『サタデー・フィクション』のコン・リーは、ナチュラルで深みのある演技を見せている。
サタデー・フィクション
2023年11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネリーブル池袋、アップリンク吉祥寺にて全国ロードショー
STORY
日本が真珠湾攻撃をする7日前の1941年12月1日、魔都と呼ばれる上海に、人気女優のユー・ジン(コン・リー)が現れる。新作の舞台「サタデー・フィクション」で主役を演じるためだ。一方、この大女優ユー・ジンには、幼い頃、フランスの諜報部員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に孤児院から救われ、諜報部員として訓練を受けた過去があり、銃器の扱いに長けた「女スパイ」という裏の顔があった。日本軍の占領を免れた上海の英仏租界は、当時「孤島」と呼ばれていた。その魔都上海では、日中欧の諜報部員が暗躍し、機密情報の行き交う緊迫したスパイ合戦が繰り広げられていた。そして2日後の12月3日、日本から海軍少佐の古谷三郎(オダギリジョー)が海軍特務機関に属する梶原(中島歩)と共に、暗号更新のため上海にやってくる。ヒューバートはユー・ジンに告げる。「古谷の日本で亡くなった妻は君にそっくりだ」と。それは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためにフランス諜報部員が仕掛けたマジックミラー作戦の始まりだった……。
監督:ロウ・イエ
出演:コン・リー、マーク・チャオ、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャリー、中島歩、ワン・チュアンジュン、チャン、ソンウェン/オダギリジョー
2019 年/中国/中国語・英語・フランス語・日本語/126 分/モノクロ/5.1ch/1:1.85/日本語字幕:樋口裕子
原題:蘭心大劇院/英題:SATURDAY FICTION/配給・宣伝:アップリンク
©YINGFILMS
この記事が気に入ったらフォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow WEEKEND CINEMA