漫画・アニメのクリエイターを数多く輩出してきた“アニメーション首都”新潟にて行われる「第3回新潟国際アニメーション映画祭」が3月15日(土)に開幕し、開会式、そしてオープニング作品『イノセンス』(2004年/押井守監督)の上映が行われ、プロダクションI.G会長の石川光久が登壇した。また押井守監督もビデオメッセージでコメントを寄せた。

1回目、2回目と成長を遂げてきた新潟国際アニメーション映画祭が3月15日(土)に華々しく開幕。約400席の会場がほぼ満席状態となる中、オープニングイベント及びオープニング作品『イノセンス』の上映が行われた。
開会宣言を行ったフェスティバル・ディレクター・井上伸一郎は、「今年で第3回を迎える新潟国際アニメーション映画祭ですけれども、3回やりますと世界の注目が集まっていると実感します。コンペティション作品は今年は特に様々な国・地域から参加をいただきました。選考会もかなりの苦労をしながら選んでおり、それだけレベルの高い作品が集まっております。今 敏さんのレトロスペクティブ、数々の特集上映が組まれております。ぜひお楽しみに」とコメント。
また、新潟県副知事の鈴木康之は2年前までロンドンで仕事をしていた経験から「ヨーロッパで生活をしているとイギリスにいてもフランスにいても、日本といえば富士山”マウント・フジ”と同じくらい、”日本といえばアニメ。そういう素晴らしい文化がある国に行ってみたい”と何度も言われた」と話し、「新潟がアニメーションの聖地となり、国内外へのアピールがさらに高まっていくことを期待しております」と述べた。
長編コンペティション部門の審査員も登壇。キャラクター開発やコマ撮りアニメーションを手がけるドワーフのプロデューサーである審査員・松本紀子は「この映画祭は作品を出し、見てもらうものだと思っていたのに、今回は審査員として参加させていただけることが本当に光栄です。映画祭というのは人が来て出会いがあるのが素晴らしいところ。ぜひみなさんも作品に出会い、人にも出会って素晴らしい時を過ごしていただければ」と挨拶。
同じくアニメーション作家でもあり教育者でもある審査員・クリスティン・パヌシュカは「みなさまの素晴らしい作品という贈り物を届けてくださってありがとうございます。そして、このアニメ業界に参加されて間もないみなさん、ようこそ。アニメ業界というのは他に比べるものがない、非常に特別な素晴らしい業界だと思っています」と、フィルムメーカーのみならず、若い才能発掘を目的とした”アニメーション・キャンプ”の参加者へも激励を送った。
今回のコンペ審査員長を務める映画プロデューサーでセビリア・ヨーロッパ映画祭ディレクターも務めるマニュエル・クリストバルは「アニメーションが好きな方は日本のアニメーションが好きになる、日本のアニメーションが好きになることは日本を好きになること。ここに集まるフィルムメーカーのみなさん、学生のみなさん、素晴らしい巨匠もいらっしゃいます。私がここに参加できたのは大使館そして映画祭のご協力あってのこと。お招きいただきありがとうございます」と感謝を述べた。
長編コンペティション作品は12作品。授賞式は最終日3月20日に行われる。
そしてオープニング作品『イノセンス』(2004年/押井守監督)の上映前には、プロダクションI.G代表取締役会長の石川光久が登壇し、今なお根強い人気を誇る『イノセンス』の秘話について語った。トークの前には押井守監督からのビデオメッセージも届けられた。

「『攻殻機動隊』もそうですが、10年20年たっても残っていく作品になるんじゃないか、そうしようという意思のもとに作った作品」と語る押井監督。「一つの世界観をどれだけの密度で表現することができるか。デジタル的な意味での”技術”にとどまらず、当代のアニメーターが持っている”技”、描く技術ですね。そう言ったものを含めたところで可能な限りの表現を目指していこうというテーマが現場にはあった。作画、背景、あらゆるパートでその時できることの限界までやってみようということができた珍しい作品だった」と回想。「そのことが時間が経っても『イノセンス』という作品を見てもらえる、見ようという動機になるんじゃないかと思っています」と語った。
「もちろんテーマ自体も、この作品で扱ったテーマというのは古びてないと思う。人間の在り方、これからどう変わっていくのかということを射程に入れた作品なので、今でもテーマ自体も通用する作品になっていると自負しています。つくづくアニメーションというのは人間の手が作り出す仕事。デジタルの技術がいくら上がっても、各パートが持っている“技”の世界。“手の技”これは継承されていかないんです。正直僕自身もこれと同じような仕事をもう一回やるということは多分不可能だと思う」と、『イノセンス』という作品がいかに特別なものであったかを振り返る。
メッセージを求められた押井監督は「とにかく楽しんでください。難しいこと考えると疲れる映画になると思います。何も考えずに世界を堪能していただければ素晴らしい時間になるかなと。色々難しいこと言ってますけど、どうでもいいので、映像と音響を楽しんでください」と押井節で締めくくると会場も沸いていた。
その押井監督とともに、プロデューサーとして製作に関わったのが石川。押井監督と同じく「10年、20年経っても色褪せない作品を作るんだ」という強い思いがあったという。20億という巨額の製作費について「製作委員会の人たちにも言いましたね。この作品は相当なお金がかかるし、短期で回収はできないかもしれないけど、10年かかって必ずお金は返します、と。それから20年経って、この場で全部リクープ(回収)できました!と言いたいんですけど…まだしてない」とプロデューサーとしての苦しい心持ちを吐露。
鈴木敏夫との共同プロデュースについて、ドリームワークスとの交渉の際に押井監督の脚本が哲学的すぎるとされ、「IQが高すぎるからゴーストライターを立てさせて欲しい」という条件をつけられたことなどを赤裸々に語ると、客席も息を呑む。
48時間前に押井監督と話したという石川は、なんと『攻殻機動隊3』の可能性について言及。押井監督が『イノセンス 4Kリマスター版』として20周年記念の上映会の際に舞台挨拶で話したこの噂については「リップサービスじゃなかったですね。『イノセンス』を見たら、そこにヒントがある。この続きを作れば全部それは回収できるだけの作りになるという話にはなったので、本当に次の“3”は僕も見てみたいなと思いました。繰り返したいのは…『イノセンス』20億リクープを達成しないと世に出ないので、ぜひみなさんのお力を!」とユーモアを交えて語っていた。
第3回新潟国際アニメーション映画祭
2025年3月15日(土)~20日(祝・木)開催
場所:新潟市民プラザ、日報ホール、シネウインド、T・ジョイ新潟万代(上映)
開志専門職大学、新潟大駅南キャンパスときめいと(シンポジウム、展示)
英語表記:Niigata International Animation Film Festival
主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
公式サイト https://niaff.net
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