映画界では90歳を超える多くの監督たちが今も現役として活躍している。ヌーヴェルヴァーグの巨匠ジャン=リュック・ゴダール、91歳。ハリウッドの生きる伝説クリント・イーストウッド、91歳。ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン、91歳。ジョージアを代表する女性監督ラナ・ゴゴベリゼ、93歳。この冬はこの「レジェンド」たちの日本公開作が勢ぞろい。今なお最高峰であり続けるその世界をぜひ堪能してみよう。
12月3日(土)はジャン=リュック・ゴダール監督の91歳の誕生日。本日より日本公開される『ワン・プラス・ワン』はゴダール監督がザ・ローリング・ストーンズのレコーディング風景を撮影した伝説の音楽ドキュメンタリー。 今年8月のチャーリー・ワッツ訃報を受けて、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて、全国順次リバイバル上映されている。
ゴダール監督は1930年フランス、パリ生まれ。長編初監督作『勝手にしやがれ』(59)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。ヌーヴェルヴァーグの旗手として知られ、アンナ・カリーナ主演『女は女である』(61)、『気狂いピエロ』(65)、ブリジット・バルドー主演『軽蔑』(63)など数々の名作を生み出し、その鮮烈な映像美と世界観で多くの熱狂的なファンを生み出してきた。
その後、1968年のパリで起こった五月革命をきっかけに、カンヌ国際映画祭を中止に追い込み、以降手がける作品では政治色を帯びていった。そんな激動の時代の中で手がけた作品が『ワン・プラス・ワン』(68)。60年代、人気絶頂期のストーンズの名曲「悪魔を憐れむ歌」誕生までのレコーディング風景をうつした歴史的瞬間と、ブラック・パワーについて描れる社会的なシーンなどが絶妙なバランスで化学反応を起こしている。さらに当時のゴダールのミューズ、アンヌ・ヴィアゼムスキーが革命のヒロイン、イヴ・デモクラシーとして出演を果たしている。
近年は『イメージの本』(18)で第71回カンヌ国際映画祭にて、史上初となる“スペシャル・パルムドール”を受賞したことが記憶に新しい人も多いはず。この年初めて設けられ、そして、この年だけの賞であり、カンヌが彼のために特別な賞を贈ったと映画界を賑わせた。今年の3月時点で2作品の脚本を手がけているというゴダールの活躍はまだまだ続きそうだ。
俳優・監督・プロデューサーとして半世紀にわたって映画業界を牽引するクリント・イーストウッドは「ハリウッドの生ける伝説」と呼ばれる存在。俳優として誰もが知るキャラクターを生み出すだけでなく、監督として数々の名作を手掛け続け、主演・監督した『許されざる者』(92)と『ミリオンダラー・ベイビー』(04)では、それぞれ米アカデミー賞Ⓡ最優秀作品賞並びに最優秀監督賞をW受賞している。
そんなイーストウッドの監督デビューから50年・40作目となるアニバーサリー作品が2022年1月14日 (金)より公開される『クライ・マッチョ』だ。N・リチャード・ナッシュの「CRY MACHO」(1975年発刊)を原作に、イーストウッド自身が監督・主演・製作を務める。主人公は、かつて数々の賞を獲得し一世を風靡したロデオ界の元スター、マイク・ミロ(イーストウッド)。
ロデオ界のスターだったマイクは落馬事故以来、数々の試練を乗り越えながら、孤独な独り暮らしをおくっていた。そんなある日、元雇い主から、別れた妻に引き取られている十代の息子ラフォをメキシコから連れ戻してくれと依頼される。男遊びに夢中な母に愛想をつかし、闘鶏用のニワトリとストリートで生きていたラフォはマイクとともに米国境への旅を始める。そんな彼らに迫るメキシコ警察や、ラフォの母が放った追手。先に進むべきか、留まるべきか? 今、マイクは少年とともに、人生の岐路に立たされる――。
常に第一線で活躍し時代を生き抜いた男=イーストウッドがたどり着いた、「本当の強さ」とは何かという答えを、今を生きる全世代に温かく届ける物語だ。
現在91歳、近年も年1本のペースで新作を⽣み出し続けているのが、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』などで知られるフレデリック・ワイズマン監督。パリで法律を学び、弁護士として活動していた異色の経歴の持ち主で、映画監督としてデビューしたのは37歳の頃。 以来『パリ・オペラ座のすべて』『ニューヨーク、ジャクソン・ハイツへようこそ』など数々の名作ドキュメンタリーを手がけ、ドキュメンタリー映画の名匠と呼ばれている。
現在公開中の監督最新作『ボストン市庁舎』もまたドキュメンタリー。ワイズマンが⽣まれ、現在も暮らす街であるボストンの市庁舎にカメラを持ち込み、2018 年秋から 2019 年冬にかけて撮影を⾏った作品だ。映し出されるのは、警察、消防、保険衛⽣、⾼齢者⽀援、出⽣、結婚、死亡記録など、数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事の舞台裏。そして、マーティン・ウォルシュ市⻑をはじめ、真摯に問題に対峙し奮闘する職員たちの姿だ。
アメリカの地⽅⾃治において様々な政治的決断が⽣まれる過程を描きながら、「⼈々が共に幸せに暮らしていくために、なぜ⾏政が必要なのか」を紐解いていく。時にユーモアを交えながら軽やかに切り取っていく諸問題は、ワイズマンが過去の作品でも取り上げてきた様々なテーマに通底しており、本作はまさに彼の「集⼤成」。カイエ・デュ・シネマの 2020 年ベスト1をはじめ、世界も絶賛する仕上がりとなっている。
90歳を超えても仕事への情熱を持ち続ける秘訣について監督は「⾃分が好きな仕事を⾒つけることができ、それをやり続けていることが私のエネルギーの源です」と語っている。
ラナ・ゴゴベリゼ監督はジョージア映画界を代表する伝説的な女性監督。『インタビュアー』(サンレモ国際映画祭グランプリ)、『転回』(東京国際映画祭最優秀監督賞)など高いクオリティの作品を数々発表し、テンギズ・アブラゼ監督、オタール・イオセリアーニ監督、ギオルギ・シェンゲラヤ監督たちとともにジョージア映画の発展を担ってきた。
監督の27年ぶり、91歳にしての新作となる『金の糸』は2022年2月26日(土)より全国順次公開。女性と社会を瑞々しく捉え続けてきたゴゴベリゼ監督が 91歳にして描いたのは、過去との和解をテーマにした物語だ。
トビリシの旧市街の片隅。作家のエレネは生まれた時からの古い家で娘夫婦と暮らしている。今日は彼女の79歳の誕生日だが、家族の誰もが忘れていた。娘は、姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、この家に引っ越しさせるという。ミランダはソヴィエト時代、政府の高官だった。そこへかつての恋人アルチルから数十年ぶりに電話がかかってきて…というストーリーだ。
日本の「金継ぎ」から着想を得たという『金の糸』には“未来を見るために過去を金で修復する”という意味がこめられた。監督は「日本人が数世紀も前に壊れた器を継ぎ合わせる金継ぎの技のように、金の糸で過去を継ぎ合わせるならば、過去は、そのもっとも痛ましいものでさえ、重荷になるだけでなく、財産にもなることでしょう」と語っている。
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