3月11日(金)より日本でも公開を迎えた映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』。マット・リーヴス監督と主演のロバート・パティンソンは、本作の制作において過去の名作映画から様々なインスピレーションを受けたことを明かしている。ここでは特に多大な影響を受けたという8本の映画と影響を受けたポイントを紹介。そのほとんどがヒーロー映画ではなく、70年代の「探偵映画」であることに注目だ。
『カンバセーション…盗聴…』(1974)
どんな映画?
『ゴッドファーザー』シリーズのフランシス・フォード・コッポラ監督が手掛けたサスペンス。公開当時、興行的には成功しなかったものの、カンヌ国際映画祭グランプリを獲得し、コッポラの隠れた名作として今もカルト的な人気を誇る。主演はアカデミー賞2度受賞の名優ジーン・ハックマン。
サンフランシスコ在住の探偵ハリー・コール(ハックマン)は盗聴のプロフェッショナル。孤独な生活を送っている彼は、大企業の重役からの依頼を受け、あるカップルの会話を盗聴。しかしやがて依頼主がそのカップルを殺そうとしていることに気づいてしまう。
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マット・リーヴス監督が複数のインタビューで語っているように、彼が思い描いたのは、今度のバットマンを「探偵映画」にすること。すなわち“DC(ディテクティブ・コミックス)=探偵物語”への原点回帰だった。バットマン役のロバート・パティンソンは、監督が当初から「『カンバセーション…盗聴…』のような70年代のノワール探偵映画をやりたい」と語っていたことを明かしている。
パティンソンは当初はバットマンの異名が「世界最高の探偵」であることを知らず、この監督のコンセプトに衝撃を受けたのだそう。その点において、今回の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』はこれまでに誰も見たことのないバットマンに仕上がったと語っている。
『グッド・タイム』(2017)
どんな映画?
バットマン役を演じるロバート・パティンソンが2017年に主演を務めた犯罪映画。『神様なんかくそくらえ』で注目されたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟が監督・脚本を手掛けた。
ニューヨークで生活する兄コニー(パティンソン)と知的障害者の弟ニックの兄弟は底辺の生活から抜け出すため銀行強盗をするが、弟だけが捕まってしまう。コニーは愛する弟を助けようとするのだが…。
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マット・リーヴス監督がロバート・パティンソンの起用に至ったのは、この映画の影響が大きいという。『グッド・タイム』で内なる怒りと危険性をもったキャラクターを演じるパティンソンを見て、今回の人間味あふれるバットマン役に通じるものを感じたのだとか。
ただその時点ではパティンソンがバットマン役に興味を持ってくれるかどうか、監督にはまったくわからなかった。パティンソンは『トワイライト』シリーズ以降、大作映画はあえて避け、インディーズ映画に出ることが多くなっていたからだ。
『ゴッドファーザー』(1972)
どんな映画?
ニューヨークの闇社会を牛耳るイタリア系マフィア、コルレオーネファミリーの台頭と、その家族が辿る壮大なドラマを描いた映画史に残る名作。アカデミー賞では11の部門でノミネートされ、作品賞、脚色賞、主演男優賞(マーロン・ブランド)の3部門を受賞。2022年に1作目公開(1972)から50周年を迎えた。
1945年。ニューヨークで最大の勢力を誇るイタリア系マフィア「コルレオーネ・ファミリー」の邸宅では、ドン・コルレオーネ(ブランド)の娘の結婚式が盛大に開かれていた。三男のマイケル(アル・パチーノ)はただ一人裏社会には入らずにいたが、敵対するファミリーに父が襲われたことで報復を決意する。
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『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に登場する悪役ペンギンに変身する前のオズワルド・コブルポット。監督がこのキャラクターの参考にしたのが『ゴッドファーザー』のフレド・コルレオーネだという。フレドはドンの次男で、ジョン・カザールが演じたキャラクター。マフィアでありながら気が弱く、厄介者扱いされる人物だ。
オズワルドを演じるコリン・ファレルはインタビューで次のように語っている「(オズワルドには)ある種の壊れやすさがある。僕の演技においてではなく、脚本を書いたマットが『ゴッドファーザー』のフレドを少し参考にしたんだと思う。フレドは他の兄弟より劣っていると嫌われ、オズも同様に能力のない者と見られていたのかもしれない」。
『コールガール』(1971)
どんな映画?
ジェーン・フォンダがアカデミー賞主演女優賞に輝いた名作サスペンス。『大統領の陰謀』(後述)のアラン・J・パクラ監督の出世作となった。探偵役には『スペース カウボーイ』のドナルド・サザーランド。
6か月前に失踪した科学者の行方を追ってニューヨークにやってきた探偵クルート(サザーランド)。手掛かりはただひとつ、科学者がコールガールのブリー(フォンダ)に宛てた卑猥な内容の手紙だけ。ブリーに接触したクルートは、次第に彼女に恋に落ちていく。
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バットマン/ブルース・ウェインとキャットウーマン/セリーナ・カイルの相関関係は、『コールガール』の主人公2人の関係性にインスピレーションを受けているという。同じ事件に関わる中で、彼は彼女に惹かれずにはいられないし、彼女に影響されずにはいられなくなる。これはどちらの作品にも共通するポイントだ。そして『コールガール』の主人公もまた「探偵」。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』には、特に70年代における「探偵映画」の要素が様々な形で取り入れられている。
『大統領の陰謀』(1976)
どんな映画?
リチャード・ニクソン大統領を失脚させた“ウォーターゲート事件”の真相を暴いたワシントン・ポスト紙の二人の記者の実話を映画化。当時を代表する2大スター、ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードが共演し、『コールガール』のアラン・J・パクラが監督。アカデミー賞で助演男優賞など4部門を受賞。
1972年、ウォーターゲート・ビルに侵入した窃盗犯たちが現行犯逮捕された。ワシントン・ポスト紙の記者ウッドワード(レッドフォード)は裁判を取材し、事件の裏に黒幕の存在をかぎとる。それはのちに米大統領ニクソンを失脚させる一大スキャンダルへと発展していく。
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公開当時、「今世紀最大の探偵物語」と評された『大統領の陰謀』(日本のチラシにもそう記された)。リーヴス監督はまさに『バットマン』でその方向を目指したのだという。監督は次のように語っている。「この物語は、ほとんどホラー映画であり、スリラー映画であり、アクション映画であることに加えて、その核心は探偵物語なのです」。
また『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に登場する2人のキャラクター、ゴッサム市長のドン・ミッチェル(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)と地方検事のギル・コルソン(ピーター・サースガード)はリチャード・ニクソンに関わった人物の名前に由来しているという。ジョン・ミッチェルはニクソン政権時代の米国司法長官で、チャールズ・コルソンはニクソンの特別補佐官を務め、ウォーターゲート事件を発端とする一連の事件で有罪となった人物である。
『チャイナタウン』(1974)
どんな映画?
『ローズマリーの赤ちゃん』などのロマン・ポランスキー監督と主演ジャック・ニコルソンが組んだ名作探偵映画。アカデミー賞脚本賞を受賞し、1991年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも登録された。
1930年代のロサンゼルス、チャイナタウン。私立探偵のジェイク(ニコルソン)は、モーレイ夫人と名乗る女性の依頼で、夫の愛人調査を依頼される。ジェイクは尾行を開始するものの、最初の女性とは別人の本物のモーレイ夫人(フェイ・ダナウェイ)が現れ、謎めいた殺人事件に巻き込まれていく。
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史上最狂の知能犯リドラーによる犯行が繰り返される『THE BATMAN-ザ・バットマン-』。『チャイナタウン』でジャック・ニコルソン演じる主人公ジェイクは、犯罪を捜査する中でロサンゼルスの腐敗の深さを知っていくが、バットマンが捜査する一連のリドラーによる事件にも、それと重なる部分が大きいという。監督はインタビューの中で「ゴッサム・シティの腐敗が物語の最も重要な側面」と語っている。
『フレンチ・コネクション』(1971)
どんな映画?
『エクソシスト』でも知られるウィリアム・フリードキンが監督したアメリカン・ニューシネマの名作。伝説的なカーチェイス・シーンで広く知られている。アカデミー賞作品賞をはじめ監督賞、主演男優賞など5部門を制した。
NY市警のジミー・ドイル刑事、通称“ポパイ”(ジーン・ハックマン)は相棒とともに麻薬密輸事件を追っている。捜査線上に浮上してきたのは、大規模な麻薬密輸ルート“フレンチ・コネクション”を持つ組織。しかし黒幕は殺し屋を雇ってポパイたちの命を狙う。
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DC作品のイベント「DC FanDome」でリーヴス監督は『THE BATMAN-ザ・バットマン-』には70年代映画の影響が色濃いことを明かしているが、中でも特に影響を受けたものとして挙げているのが『フレンチ・コネクション』。バットマンの物語の舞台であるゴッサム・シティの薄汚れた生々しい街並みは、本作にインスパイアされたものだという。ゴッサム・シティのモデルはニューヨークであり、『フレンチ・コネクション』の舞台もまたニューヨークだ。
『ラストデイズ』(2005)
どんな映画?
ロックバンド「ニルヴァーナ」のフロントマンで、自ら命を絶ったミュージシャン、カート・コバーンをモデルにした物語。監督は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のガス・ヴァン・サント。主人公の天才ミュージシャン役にマイケル・ピット。
薬物中毒のリハビリ施設を脱走したカリスマ・ミュージシャンのブレイク(ピット)。森の中を彷徨った末、彼は自分の別荘にたどりつく。そこには彼の取り巻きたちがいたが、彼の孤独は癒されることがなかった…。
どんな部分に影響を与えた?
今回のブルース・ウェイン/バットマンのキャラクターのモデルになったのが、本作のモデルとなっているカート・コバーン。ここで描かれる「鬱屈したアウトサイダー」というカート・コバーンの人物像がバットマンにも投影されているという。また監督は、バットマンが薬物依存ではなく「復讐心への依存」に陥っているのだとインタビューで語っている。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の脚本執筆は、ニルヴァーナの音楽を聴きながら行われたそうだ。
参考記事
https://variety.com/lists/the-batman-movie-inspirations/the-godfather/
https://www.moviemaker.com/the-batman-matt-reeves-detective-story/
https://www.moviemaker.com/the-batman-colin-farrell-on-the-surprise-godfather-influence-on-his-penguin/
https://www.esquire.com/uk/culture/a38791912/matt-reeves-interview-the-batman/
https://www.denofgeek.com/movies/the-batman-robert-pattinson-matt-reeves-exclusive-new-details-spoilers/
https://www.gq.com/story/robert-pattinson-march-cover-profile
THE BATMAN-ザ・バットマン-
2022年3月11日(金)全国公開
STORY
優しくもミステリアスな青年ブルースは、両親殺害された社会への復讐を誓い、夜は黒いマスクで素顔を隠し犯罪者を見つけては力でねじ伏せ、悪と敵対する存在の“バットマン”になろうとしている。ある日、権力者が標的になった連続殺人事件が発生。その犯人を名乗るのは、史上最狂の知能犯リドラー。彼は犯行の際、必ず“なぞなぞ”を残し、警察や世界一優秀な探偵のブルースを挑発する。いったい何のために犯行を繰り返すのか? そして暴かれる、政府の陰謀とブルースにまつわる過去の悪事や父親の罪…。追い詰められたその時、彼の心の中で、何かが音を立てて壊れ始めた―。あなたは世界の嘘を暴き、人間の本性を見抜けるか――。
監督:マット・リーヴス 脚本:マット・リーヴス マットソン・トムリン
キャスト:ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、アンディ・サーキス、ジェフリー・ライトほか
原題:The Batman
© 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
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