『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『かぞくのくに』のヤン ヨンヒ監督の最新作『スープとイデオロギー』(6月11日公開)の予告編が完成した。あわせて、パク・チャヌク、ヤン・イクチュン、翻訳家・斎藤真理子、フォトジャーナリストの安田菜津紀らのコメントが到着した。
『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』など、朝鮮半島と日本の悲劇的な歴史のうねりを生きる在日コリアン家族の肖像を親密なタッチで写し続けてきたヤン ヨンヒ。本作では初めて、家族と「南(韓国)」との関係を描く。『スープとイデオロギー』というタイトルには、思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わず共に生きようという思いが込められている。
年老いた母が、娘のヨンヒにはじめて打ち明けた壮絶な体験——1948 年、当時 18 歳の母は韓国現代史最大のタブーといわれる「済州4・3事件」の渦中にいた。朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。心の奥底にしまっていた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。それは、本当の母を知る旅のはじまりだった。
なぜ父と母は、頑なに“北”を信じ続けてきたのか? ついに明かされる母の秘密。あたらしい家族の存在…。これまで多くの映画ファンを魅了してきた、あの「家族の物語」が、まったくあらたな様相をおびて浮かび上がる。
今回解禁された予告編では、失われつつある母の記憶を描いたア二メーションや、『お嬢さん』『タクシー運転手 約束は海を越えて』などの音楽を手がけるチョ・ヨンウクの楽曲も一部使用され、ドラマチックな映画を彩っている。
さらに、すでに公開されていた是枝裕和、キム・ユンソク、平松洋子らに加え、『オールド・ボーイ 4K』の公開も待ち遠しい現代映画を代表する巨匠監督パク・チャヌク、『息もできない』のヤン・イクチュン、「82 年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ著)などの翻訳を手がける翻訳家・斎藤真理子、フォトジャーナリストの安田菜津紀らのコメントも到着した。コメント一覧・全文は以下にて。
『スープとイデオロギー』は6月11日(土)より[東京]ユーロスペース、ポレポレ東中野、[大阪]シネマート心斎橋、第七藝術劇場にてほか全国の映画館で順次公開。
コメント(順不同)
人々はヤン ヨンヒについて「自分の家族の話をいつまで煮詰めているのだ。まだ搾り取るつもりか」と後ろ指をさすかもしれません。しかし私ならヤン ヨンヒにこう言います。「これからもさらに煮詰め、搾り取ってください」と。
彼女の作品たちは、単純に、ある個人についての映画ではありません。普通は対立すると思われる二つのカテゴリーの関係について問い続ける映画です。その目録はとても長い。個人と家族、個人と国家、韓国と北朝鮮、韓国と日本、資本主義と共産主義、島と陸、女と男、母と父、親と子、新世代と旧世代、21世紀と 20 世紀、感情と思想、そして何よりもスープとイデオロギー。
ヤン ヨンヒの母親、この老いた女性一人の顔を見つめながら、私たちはこれらすべてについて省察することができます。映画『スープとイデオロギー』は、ヤン ヨンヒのこれまでの作品のように、私たちがいつまでも噛み締めなければいけない思考の種を与えてくれます。ヤン ヨンヒは引き続き煮詰め搾り出し、私たちはこれからも噛み締めなければなりません。
——パク・チャヌク(映画監督)(『JSA』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』『お嬢さん』)
オモニ(母)のレシピ通りにつくったあのスープの中には、どんな言葉でも語り尽くせないすべてが込められている。
——ヤン・イクチュン(俳優・映画監督)(監督・出演『息もできない』、出演『かぞくのくに』
『あゝ、荒野』、Netflix ドラマ「地獄が呼んでいる」など)
この映画は記憶に関する映画でもある。一人の人が持ちつづけた記憶も、持ちきれずにあふれた記憶も歴史になる。歴史は一杯の巨大な器に入ったスープなのかもしれない。一人ひとりがその中に溶けているのか、一人ひとりの中にその器があるのか。どちらであるにせよ、このスープを大切に飲んで、飲んだことを記憶しよう。
——斎藤真理子(翻訳家)
オモニは少しずつ、「忘れて」いく。押し込めてきたあまりに凄惨な記憶を、誰かと分かち、託していくほどに。「もう忘れてもいいよ」と言えるほど、オモニの、人々の背負ってきた歴史を、私は知らなかった。そして、「知らなかった」で終わらせたくない。
——安田菜津紀(認定 NPO 法人 Dialogue for People 副代表/フォトジャーナリスト)
新しい家族——映画『スープとイデオロギー』は、ヤン ヨンヒ監督の「家族ドキュメンタリー映画 3 部作」の最終章だ。『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』で東京・大阪・ピョンヤンに分かれていた家族は、大きな変化を経験する。日本人・荒井カオルの登場である。
真夏の大阪にスーツを着て、汗をかきながら現れた彼は、オモニ(母)が作ってくれた鶏スープを食べる。彼はオモニのレシピに沿ってスープを作り、オモニをもてなす。複雑な歴史をもつこの家族の中に、この日本人は一歩一歩溶けこんでいく。
——キム・ウィソン(俳優・映画監督)(映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』、Netflix ドラマ『ミスター・サンシャイン』『アルハンブラ宮殿の思い出』)
ヨンヒの作品を観ると、自分の家族について考えてしまう。
父と母は、旧満州からの引揚者だった。姉と兄は残留孤児になる可能性があった。
小学3年の時、父と母は離婚し新しい母が来た。
その育ての母は、ヨンヒのオモニ同様に今は認知症だ。
どんな家族にも、歴史がある。ドラマがある。日常がある。非日常がある。
ヨンヒの作品を観ると、自分の家族を思い出す。
——喰始(ワハハ本舗 作・演出家)
『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『かぞくのくに』——これら宝石のような映画たちを観ながら、私が最も驚かされ気になった人物はオモニ(母)だった。『スープとイデオロギー』は、まさにそのオモニについての物語だ。
——キム・ユンソク(俳優・映画監督)(監督・出演『未成年』、出演『1987、ある闘いの真実』『チェイサー』など)
「私たち」のすぐ隣に住み、「私たち」とは違うものを信じて生きている「あの人たち」。彼らがなぜそのように生きているのか、なぜ「私たち」には理解できないものを信じようとしたのか。
監督でもある娘が撮影を通して母を理解していくように、この作品を観終わるとほんの少し「あの人たち」と「私たち」の間に引かれた線は、細く、薄くなる。
——是枝裕和(映画監督)
『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』、そして本作。ヤン監督による三作品を束ねる圧倒的な強度。むきだしの母の生の姿を追い、やがて現れる家族の真実に心臓を射貫かれる。
——平松洋子(作家、エッセイスト)
在日朝鮮人の家族史を通じて、韓国の現代史を掘り起こした作品。
一人の女性の人生を通じて、韓国史の忘れられた悲劇を復元した演出力が卓越している。
——2021 年 韓国 DMZ 国際ドキュメンタリー映画祭・審査評
スープとイデオロギー
2022年6月11日(土)より[東京]ユーロスペース、ポレポレ東中野、[大阪]シネマート心斎橋、第七藝術劇場にてほか全国の映画館で順次公開
監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ
撮影監督:加藤孝信 編集・プロデューサー:ベクホ・ジェイジェイ
音楽監督:チョ・ヨンウク(『お嬢さん』『タクシー運転手 約束は海を越えて』など)
アニメーション原画:こしだミカ
アニメーション衣装デザイン:美馬佐安子 エグゼクティブ・プロデューサー:荒井カオル
製作:PLACE TO BE 共同制作:navi on air 配給:東風
韓国・日本/2021/日本語・韓国語/カラー/DCP/118 分
©PLACE TO BE, Yang Yonghi
公式サイト soupandideology.jp
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