2020 年より長らく上映を続けてきたロビン・ハーディー監督『ウィッカーマン final cut 』の国内最終上映が、新宿 K’s cinema、及び京都みなみ会館で決定した。この最終上映に際して、本作のパンフレットに寄稿した映画評論家の滝本誠より推薦文も到着した。
本作は大ヒットホラー映画『ミッドサマー』や、米津玄師のPVにも影響を与えたと言われる元祖“奇祭”ホラー映画。ある島で少女が行方不明になったと書かれた匿名の手紙が、スコットランド本土のハウイー警部のもとに届く。警部は早速、島に上陸し捜査に取り掛かるが、島民たちは誰もその少女を知らないと言い張り、少女の母親までが娘の存在を否定している。翌日から本格的な聞き込み調査を開始するが、怪しげな出来事ばかりが起こる中で、この異教ケルトの神々を信仰する島の人々を統治するのが、サマーアイル卿であることが分かり屋敷を訪れる。しかしそれは狂乱と神話の儀式にハウイーが巻き込まれる幕開けとなるのであった…。
劇中で強烈な印象を残すサマーアイル卿を演じているのは、『ロード・オブ・ザ・リング』や『スター・ウォーズ』で知られるクリストファー・リー。リー自身は、本作を「この映画こそ私の最高傑作」と語っている(※「Total Film」2005 年 5 月のインタビューより)。
しかし、本作が公開されるまでには様々な悲劇があった。1973 年当時、完成したその作品を、映画会社ブリティッシュ・ライオンのトップが気に入らず、宣伝告知などを一切せずにニコラス・ローグ監督『赤い影』と併せて公開。しかもそれは、ロビン・ハーディー監督が編集した 102 分バージョンでなく 88 分の短縮版であった。
ネガフィルムも紛失し、長らく行方不明の状態が続いていたが、40 周年記念となる 2013 年にフィルムが見つかり、監督自らが再編集をした 94 分のバージョンが今回の final cut 版となる。そんないわくつきの作品だが、大ヒットした『ミッドサマー』(2019)の監督アリ・アスターもその影響を公言しているなど、一部では熱狂的に支持されてきたカルト作だ。
2020 年に日本で公開され異例のヒットを放った本作は、日本での権利が本年7月で終了。東京K's cinema、京都みなみ会館で最終上映が決定した。なお京都みなみ会館では、夏至を跨ぎ、祝祭 2 本立てで『ミッドサマー』とあわせて上映される。
『ウィッカーマン final cut』 国内最終上映のスケジュールは以下の通り。
『ウィッカーマン final cut』 国内最終上映
◆東京・K's cinema
7 月 23 日(土)~7 月 29 日(金) ※1週間限定上映 連日 12:00 より
◆京都・京都みなみ会館
『ウィッカーマン final cut』 6 月 17 日(金)~23 日(木) 連日 20:15 より
『ミッドサマー』 6 月 17 日(金)~23 日(木) 連日 17:30 より
滝本誠(映画評論家)推薦文
『ウィッカーマン final cut』最終上映に向けて。点火よろしく、ファイ(ア)ティン!!!
いよいよ大いなる性の讃歌『ウィッカーマン final cut』が劇場最終上映期に入った、全国に展開した今回の上映は不思議な想像力の種を各地にまいたとすばらしい上映であった。というわけで、ここではパンフに書き忘れたいくつか
のことを記しておきたい。
まずはもっとも異様、不気味な、人の手のロウソクに触れておこう。これは<栄光の手>と呼ばれ、刑死者の<手>を切り落としての再利用備品といっていいが、成り立ちには諸説あり。ともかく、芯は人間の髪、脂は黒猫のそれとか
と、伝説の怪奇性は例のごとく申し分ない。これらは魔力の象徴であり、結局のところ魔女パワーに結び付けられてきた。警部の運命=ニンゲン・ロウソクを予告するかのようでもある。それにしても、メイ・ディ前夜は、夜ひらく、夜がわるい、夜のせい・・・艶歌のごとく、セックス出し入れ大解禁のWOW WORLD が展開する。そういえば、最近のわが国の夜の公園事情はどうなのか? 中出しではなく、すべて中抜きされての悲惨なわが国の夜の公園事情は? えっ、締めだし!?
野外パフォーマンスのひとつ、ストーンヘンジ(環状列石)跡で行われるシークレット・セレモニー(受胎秘儀)も興味ぶかい。列柱の間から差し込む陽光が中心の円い石盤を刺しつらぬき、と書けば意味するところは想像通りで、薄いベールの女性たちが美しくエロい。
パブの名前<グリーンマン>は、木の葉で覆われた顔として表象されたが、この顔のシールや T シャツを販売する手もあったかなと遅すぎるアイデア提案をいま思いついた。<グリーンマン>は、自然をつかさどる神霊だが、グリーン
(緑)の魔術空間の最たるものは森である。日常との隔絶空間として、森は恐怖と一体化した解放と官能の空間である。アーサー・マッケンの「セレモニー」は、森に入ってゆく少女のとある秘密の儀式を描いた短編小説であるが、これを読むとその言葉は使われていないとしても<グリーンマン>の偏在、少女の変容への魔法まぶしがリアルに感受できる、そんなおそろしい作品。
こうした官能誘惑力の<グリーンマン>の名前を大衆酒場に与えるあたり、監督ロビン・ハーディ&脚本家アンソニー・シューファーは冴えわたっている。
ちなみに、巨大なヒトガタの木造構造物=ウィッカーマンをわが国に存在させ、燃え上がらせたのが、音楽家、米津玄師の初期作品<Wooden Doll>のミュージック・ヴィデオである。周辺を踊り狂うあたりこの映画の影響もあるかもしれない。
ウィッカーマン final cut
英題:The Wickerman the final cut|2013 年|イギリス|94 分|DCP
監督:ロビン・ハーディー/脚本:アンソニー・シェーファー/音楽:ポール・ジョヴァンニ
出演:エドワード・ウッドワード、クリストファー・リー、ダイアン・シレント、ブリット・エクランド、イングリッド・ピット、リンゼイ・ケンプ
配給:アダンソニア
©2019 CANAL+
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