ナチス支配下のドイツ“第三帝国”にかかわった市井の人々の証言を記録したドキュメンタリー『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』(8月5日公開)の公開記念トークイベントが7月21日(木)に実施され、ジャーナリストの田原総一朗と朝日新聞記者の藤えりかが登壇した。
ヒトラー率いるナチス支配下のドイツ“第三帝国”が犯した、人類史上最悪の戦争犯罪“ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)”。本作はその「加害者側」の人間や目撃者たちの証言、当時の貴重なアーカイブ映像を記録したドキュメンタリー。武装親衛隊のエリート士官から、強制収容所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、近隣に住む民間人まで、「現代史の証言者世代」と呼ばれる高齢になったドイツ人やオーストリア人などが、戦後の長い沈黙を破って当時について語る。監督を務めたのは、10代になって初めて祖父母がホロコーストで殺害されたというルーツを知ったイギリス出身のドキュメンタリー監督ルーク・ホランド。
今回開催されたトークイベントに登壇したのは、映画に登場する証言者たちと同じく、少年期の戦争体験を語ることができる最後の世代のジャーナリスト、田原総一朗と朝日新聞記者の藤えりか。本作のメッセージとともに、歴史や過去から学び、これからの日本が進むべき未来を熱く語った。
「この映画に出てくる人は僕よりちょっと年上だけど、僕は戦争を知っている最後の世代でしょうね」と語る田原は1934年生まれ。「小学生の時は、太平洋戦争は正しい戦争だと信じきっていました。だからドイツの人が当時、ヒトラーを正しいと思っていたというのは当然だと思います。この戦争はアメリカ、ヨーロッパの国々の植民地にされているアジアの国を独立させ、解放させるためなんだと。だから早く大人になって、戦争に参加して、天皇陛下のために名誉の戦死をするんだと信じてました」と述懐。
しかし小学校5年生の夏休みに終戦を迎えると「180度変わった」という田原。「占領軍が入ってきて、それから先生たちの言うことがガラッと変わった。あの戦争は絶対にやってはいけなかったのだ、正しいのはアメリカのニュースなんだと言い出した。1学期まで、ラジオも新聞も、あれだけ戦争を褒めたたえていたのに。どうにも先生をはじめ、偉い人は信用できないし、マスコミも信用できないと思った。それが僕の原点」と自身の原体験を明かした。
そうした戦争中の空気を知る田原だけに、加害者側の証言を集めた本作について「よく言わせたなと思いますね。これはスゴいと思う。ドイツには何度も取材に行っていますが、ドイツ人は白黒ハッキリ言いますよね。この映画を観ているとよく分かります。日本人はちょっとグレーだけどね」と語る。
藤も「そんなドイツの人が、自分には罪がなかったとか、自身は知らなかったと口ごもってしまうところもあったりして。これを観ていると、ネオナチとか修正主義者が突然現れたわけではないと思いますね」と感心した様子で付け加えると、「監督に言わせるといろいろあったようですね。特に証言者の本音を引き出したラストシーンが本当にすごかった。7時間話してやっと(本音を)引き出したということもあったようです」と本作を手がけたルーク・ホランド監督の粘り腰について補足するひと幕も。
日本は転換期を迎えており、憲法改正、防衛費拡大など「戦争」を意識せざるを得ない状況となっている。「憲法9条2項で、日本は戦力を持たないといっているのに、自衛隊という明らかな戦力を持つというのは大矛盾ですよね」と語る田原は、「平和国家として日本がやるべきことは、中国が台湾に武力攻撃をしないようにするためにどうするか。これが日本の役割」と強調。さらにNATOやアメリカなどが、ロシアによるウクライナ侵攻を防ぐチャンスがあったのに、それを怠ったと指摘をしたうえで、「戦争が起きそうな時は命を張って戦争反対と言わないと駄目。僕はそういうつもりです」とコメント。
その流れで「僕は月曜日に岸田総理に会う予定ですが、その時に絶対に台湾有事をやるなと伝えます。そのために万全を尽くせと言いますよ」と明かした田原は、「小泉さん以降の総理大臣はだいたい僕の意見を聞いていますよ。絶対に台湾有事を起こさないように頑張れと岸田さんに言います。それから安倍(晋三)さんを襲撃した青年ですが、彼を追い込んだ責任は政治にある。今、若い人の自殺が多いんですよ。生きているのが苦しいのに、人に相談できるシステムがない。これは政治の責任ですよ。それも言おうと思っています」と岸田総理に提言する意向を明かした。
藤から「田原さんもぜひ警鐘を鳴らし続けてください」と今後の活躍を期待する発言が出ると、田原も藤に「朝日新聞は堂々とやっていいんですから。頑張ってください」とジャーナリストの先輩としてエールを送る場面もあった。
続いて行われた囲み取材では、議論を呼んでいる安倍元総理の国葬について質問が及ぶと「反対じゃないけど、本当は国葬をやるなら、国会を開いて野党と相談して、話し合って決めるべきだった。これをやらなかったのは残念」とコメント。国際情勢から国内の政治まで、この日は終始、田原ならではの率直な発言の数々が飛び出す、白熱したイベントとなった。
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』は、8月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー。
ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言
※『ファイナル アカウント 最後の証言』から邦題変更
2022年8月5日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
STORY
イギリスのドキュメンタリー監督ルーク・ホランドは、アドルフ・ヒトラーの第三帝国に参加したドイツ人高齢者たちにインタビューを実施した。ホロコーストを直接目撃した、生存する最後の世代である彼らは、ナチス政権下に幼少期を過ごし、そのイデオロギーを神話とするナチスの精神を植え付けられて育った。戦後長い間沈黙を守ってきた彼らが語ったのは、ナチスへの加担や、受容してしまったことを悔いる言葉だけでなく、「手は下していない」という自己弁護や、「虐殺を知らなかった」という言い逃れ、果てはヒトラーを支持するという赤裸々な本音まで、驚くべき証言の数々だった。監督は証言者たちに問いかける。戦争における“責任”とは、“罪”とは何なのかを。
監督・撮影:ルーク・ホランド/製作:ジョン・バトセック、ルーク・ホランド、リーテ・オード
製作総指揮:ジェフ・スコール、ダイアン・ワイアーマン、アンドリュー・ラーマン、クレア・アギラール/アソシエイト・プロデューサー:サム・ポープ
編集:ステファン・ロノヴィッチ/追加編集:サム・ポープ、バーバラ・ゾーセル/音楽監修:リズ・ギャラチャー
2020年/アメリカ=イギリス/ドイツ語/94分/カラー(一部モノクロ)/ビスタ/原題:Final Account/字幕翻訳:吉川美奈子/字幕監修:渋谷哲也/ナチス用語監修:小野寺拓也
配給:パルコ ユニバーサル映画/宣伝:若壮房
©2021 Focus Features LLC.
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