ファッション業界のレジェンド、アンドレ・レオン・タリーの生涯を描いたドキュメンタリー映画『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』(3月17日公開)のプレミア試写会が3月13日(月)に開催され、上映後には人気ブランド・FACETASM(ファセッタズム)のデザイナーである落合宏理が登壇し、トークイベントが行われた。
昨年1月18日に73歳で他界したファッション界の巨匠アンドレ・レオン・タリー。『プラダを着た悪魔』でスタンリー・トゥッチ演じるナイジェルのモデルとされ、白人の占める割合の多いファッション業界において、黒人モデルや非白人デザイナーたちの進出に積極的に貢献した。人種差別が色濃く残る時代のアメリカ南部で幼少期を過ごしたアフリカ系アメリカ人の彼が、如何に最も影響力のあるファッション・キュレーターにまでのし上がったのか。本作は彼の人生と彼が残した数々の功績をマーク・ジェイコブス、アナ・ウィンター、トム・フォードなどファッション界を代表する人物たちのインタビューと共に振り返るドキュメンタリー。
本作を鑑賞した感想を落合は「ドラマチックという言葉をすごく使っていたと思うんですが、洋服も映画もそうでなければいけないですよね。クリエーションを見せる上での美や人の人生を豊かにすることが大事だと思う」とした前置きしたうえで「僕はものを作る人間ですが、その間に入って表現してくれるアンドレがこんなに美しいと、作る僕らにも魔法がかかるし、こういう人と出会うと本当にデザイナーは成長するんだなと。羨ましかったです!」とコメント。
中でも印象に残った言葉として挙げたのは“ファビュラス”。「彼を通したファビラスという言葉は、もう少し深い意味があって。その意味をちゃんと知りたいなと思いました」と言い、アンディ・ウォーホルのサロン兼アトリエでもあるファクトリーで電話番をしていたアンドレの過去も例にし「純度の高いファビュラスをみていたのではないかな」と話した。
元「ヴォーグ」編集長であるダイアナ・ヴリーランドから多くを学び、元編集長であるアナ・ウィンターの右腕としても活躍したアンドレ・レオン・タリー。ファッションデザイナーとして今に至るまで、大きな影響を受けた人物を聞かれると、落合はデビュー時を振り返り「スタイリストの北村道子さんに洋服をみてもらいたくて、装苑の編集部の方に掛け合ったらチャンスをいただきました。本当に無名だったんですが、北村道子特集の本が出た際にアレキサンダー・マックイーンとトム・フォードの間でFACETASM紹介をしてくださったり。新人も一流もなくフラットな目で見てくれて、驚きとファッションの夢を見せていただきました」と当時の心境を明かした。北村からかけられて心に残った言葉は“洋服を壊すな”。「壊すのは誰でもできるから、ちゃんと作れるようになってから壊しなさい、と。今でも大切にしていますね」と感慨深げに語った。
コレクション前に映画を見るという落合。「ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』から何か感じることは多いですね。空の美しさや青い独特の色とかがいいなと。音楽を聴くように流しながらデザインを書いたりします」と仕事の様子が窺える場面も。加えて、映画の中では『グーニーズ』もお気に入りで「オシャレで、『グーニーズ』でファッション語れますよ!」と熱を込めたコメントには会場からも笑顔が溢れた。
渋谷ファッションウィークなども始まる中、東京コレクションの思い出について落合は「2014年の秋冬でやめようかなと思っていたところ、その時のショーをアルマーニが映像で見てくれたみたいで。安藤忠雄さんが作ったアルマーニテアトロでのミラノコレクションでデビューしないかと声を掛けていただきました。東京コレクションが、世界に出られたきっかけでもありますね」と話す。
また、「デビューして間もない頃パリのデザイナーと話すことがあって。その時に『日本人のデザイナーはデビューするとみんなが見てくれる』と言っていましたね。日本は先駆者の方々がいまもすごく活躍されています。パリのデザイナーは見向きもされないのだと。日本人がやれることが世界にはあるんだなと思いました」と、海外で感じた可能性を思い返した。
イベントはQ&Aへ。会場に詰めかけた観客から次々に手が挙がり、現在のショーなどでアンドレの影響を感じる部分について問われると「ファッションショーよりフロントロウの方が目立つというか。フロントロウも、ショーとは別で色々な表現があってすごくアンドレの影響を受けているのではないかな」とショーの在り方の大きな変化を話す。
また、ファッションに注目してオススメの映画を聞かれると「出てくる服がオシャレということであれば、ウディ・アレンの『アニー・ホール』は良いのではないでしょうか? さっき挙げた『エレファント』のガス・ヴァン・サントもユース感とかがあって見てみるといいと思います」と独自の視点で作品をセレクト。映画好きな一面が垣間見えた。
今、デザインする上で大切にしていることへの質問には「常に新しいものを作り上げなきゃいけないけれど、過去に自分が作ったものも大切にしたいなと思っています。初期衝動とかその時の考えていたことを思い返して大切にして、これから先のデザインをしていきたいなと」と進化し続ける裏側の想いを述べた。
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』は3月17日(金)Bunkamura ル・シネマ にて公開(※『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』の上映劇場である現ル・シネマは4/9(日)まで。6月から「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」が開業)。
アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者
2023年3月17日(金)Bunkamura ル・シネマ にて公開
監督:ケイト・ノヴァック 製作:アンドリュー・ロッシ(『メットガラ ドレスをまとった美術館』監督)
出演:アンドレ・レオン・タリー/アナ・ウィンター/トム・フォード/マーク・ジェイコブス/イヴ・サンローラン/カール・ラガーフェルド/ノーマ・カマリ/ヴァレンティノ・ガラヴァーニ/ウーピー・ゴールドバーグ/イザベラ・ロッセリーニ/ウィル・アイ・アム(ブラック・アイド・ピーズ)/ラルフ・ルッチ/サンドラ・バーンハード/マノロ・ブラニク/アンドレ・ウォーカー ほか
2017/アメリカ/93分 英題:THE GOSPEL ACCORDING TO ANDRÉ 日本語字幕:柏野文映
提供/配給:リージェンツ
©Rossvack Productions LLC, 2017. All Rights Reserved.
公式サイト andremovie.com
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