3月22日(水)まで開催中の「第1回新潟国際アニメーション映画祭」にて様々な上映&トークイベントが行われ、『山中貞雄に捧げる漫画映画 「鼠小僧次郎吉」』ワールドプレミア上映にはキャラクターデザイン手がけた大友克洋がサプライズ登場。さらにりんたろう監督、押井守監督らアニメーション界のレジェンドたちが続々と登場した。
3⽉20⽇(⽉)新潟市⺠プラザでは、りんたろう監督作『⼭中貞雄に捧げる漫画映画 「⿏⼩僧次郎吉」』のワールドプレミア上映が⾏われ、上映後にりんたろう監督、企画のスタジオM2の丸山正雄、弁⼠の声を務めた声優の⼩⼭茉美、キャラクターデザインを担当した⼤友克洋らがトークに登壇。28歳で夭逝した映画監督、⼭中貞雄が残したシナリオをもとに再構築した本作を制作するに⾄った思いをそれぞれに語った。
りんたろう監督は「久しぶりにアニメの現場を感じた時に、完璧に⽇本のアニメーションが変わったなと思ったんですよ、作り⽅とか全てが」と振り返る。「それで⾃分なりにどうするか丸⼭と相談して、僕らに『⻤滅の刃』の続編は作れないけど、⾃分達のスタイルでやろう、⽇本の映画の⼤元に戻ろうと。そして⼭中貞雄でどうか?という話になって、⼿探り状態から絵コンテまで作ろうと思って始めたのがこの作品です」と制作の経緯を明かす。
そして「今の若い⼈たちにとってサイレント映画は、お呼びでないのかもしれないですけど、ヒッチコックも“映画はサイレントから全てが始まった”と⾔っていて、僕もサイレントを⾒ると、ほとんどあの時代に頑張った監督たちの作品がそのあと進化しながら変わっていったように思います。(この映画を)完璧にサイレントにしようと思い、⿏⼩僧次郎吉の江⼾の巻を⼭中貞雄の脚本を使いながら、ドラマを今⾵に変えるのではなく、むしろ⼭中貞雄の気分になって作ろうと思って、『⼭中貞雄に捧ぐ』というのがメインタイトルで、中⾝が『⿏⼩僧次郎吉』という構成になりました」と語る。
「浦島太郎みたいに、久しぶりに何かやろうとした時に、どうせなら反時代的アニメをやろうということで、僕的にも満⾜のいく形ができました。こうやって丸⼭と2⼈でサイレント映画を作れて、⼭中貞雄は“ちと寂しい”と⾔ったけど、こっちは 作れて“ちと嬉しい”ですね。紙⾵船のところだけパートカラーにしたんですが、⾃分でも流れてくる映像を観て泣きました」と感慨もひとしおだったという。
企画を担当したスタジオM2の丸⼭正雄は「僕⾃⾝⾮常に残念なことに、我々は⽇本の⽂化をちゃんと丁寧に拾っていないという⾃覚がありまして。⼭中さんのすごさ、この⼈のことを残していきたい」と語る。そして「アニメーションで何ができるか、何を残せるかを考えると、僕やりんたろうがやるしかないという発想がありました。⼭中貞雄はハートウォーミングで、⼩市⺠を丁寧に優しく描いていている。彼はまだ28歳で戦争の中で死んでいって、遺作となったのは『⼈情紙⾵船』で、“ちと寂しい”という⾔葉を残して亡くなったんです。僕はこの⾔葉がすごく好きで、この⾔葉を⽂化的にわかってくれる世代という意味でも、りんたろうが⼀番。なんとかりんたろうのアニメを⾒たい。何を⾔えばわかってくれるだろう、“よし、⼭中貞雄だ”って。いま僕らが⼭中貞雄をやらないとずっとできないかもしれない。無理してでもやろうよと、これまででも⼀番⼤変な⾎の出るような思いで、無理難題の中で、やっとできあがった映画です。⼭中貞雄をいろいろな意味で⽇本⽂化の⼤事なものとして、僕らの⼼の中でちゃんと残していきたいという思いをみなさんにわかっていただけるといいなと思います」と熱い思いを語った。
「Dr.スランプ」アラレちゃん役としても知られ、本作では弁⼠役として出演している声優の⼩⼭茉美は、「ドラえもん」しずかちゃん、「サザエさん」磯野ワカメの声優などの⽇本の国⺠的キャラクターの声優を⻑く務めた野村道⼦にいただいたという美しい着物姿で登壇。
「無声映画(の弁⼠役)ですから普通の芝居とは違うので、悩みました」と告⽩。しかし「今回は冒険というか実験というか、新しい試みをさせていただきました。普通は、台詞を録った後に⾳楽や効果⾳をつけるんですが、今回は本多俊之さんに先に⾳楽を作っていただいてそれとの掛け合いという初めての経験をしました。⾳楽だけを聴きながら絵に併せて台詞を⼊れるのですが、最初に絵コンテを送ってくださったので安⼼しました。江⼾弁のニュアンスが⼀番難しかったのですが、監督が送って下さった志ん⽣の落語のテープで勉強しました」と裏話を語った。
本作ではキャラクターデザインを担当した⼤友克洋はサプライズ登壇。「りんさんなんで、やるしかないんですよ。⼭中貞雄は好きですから良かったです。なかなかこんな仕事はないですからね。“⼭中貞雄を描いてくれ”なんてないですから。楽しかったです」と笑顔を⾒せた。
元々「江⼾物は好き」だという⼤友。「夜寝る前は『半七捕物帳』を読んでますから。やってみたいなと思ってるんですけど、難しいんですよ。当時の感じがわからない。昔の無声映画の頃のセット、あれが⼀番ね、当時の美術の⼈間が江⼾時代を知っているんですよ。なので、あれを⾒ると江⼾ってこんな感じだったんだろうなっていうのがわかるんですよね。『⼈情紙⾵船』もすごい江⼾っぽいですよね。今ああいう江⼾は作れない」と語る。
「次は監督として新潟国際アニメーション映画祭に来たい」とも語った⼤友克洋は、発売される⾃⾝の全集のステッカーを会場のファンに⼿配りし、詰めかけた観客たちが⼤いに沸く⼀幕もあった。
最後には共同制作者としてフランスから来た Miyu プロダクションのエマニュエル=アラン・レナール、ピエール・ボサロンが登場し、⼭中貞雄の3作品とともに本作がフランスでの上映を企画中であることを報告。制作スタッフの兼森義則、野⼝征恒、丸⼭真太郎らも登壇し、丸⼭は「去年9⽉に制作がスタートし完成までの6ヶ⽉間は、毎⽇ジェットコースターだったが、現場が⼤変になると監督が元気になり、強いリーダーシップで現場を引っ張ってくれた。充実した6ヶ⽉が映像になっていると思う」と語った。
夜には本映画祭の第1回審査委員⻑も努める押井守監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』も上映され、押井監督はフェスティバル・ディレクターの井上伸⼀郎と、アニメ特撮研究家の氷川⻯介とともにトークに登壇。「⾃分の映画を公開しつつ審査もやるのは、やりにくいなというのはあるんですが『スカイ・クロラ』がスクリーンにかかる機会があるということに感謝しております。⾃分で選んだわけではないですが、僕がやってきた仕事の中ではちょっと異⾊というか、ちょっと感じが違う、⼀番気に⼊っている作品です。“やっとつかんだぞ!”って、60過ぎて監督としての成熟を⾃分で感じた最初の作品です」と明かす。
そして「(今新潟では)アニメ業界の連中があちこちうろついてるから、毎晩違うプロデューサーと酒を飲んでる。東京にいるとこういう機会が無かったりして、つくづく思ったけど、この業界は狭いな」と笑い、「こういう所、⼈と⼈が出会う場は、仕事を掴むチャンスでもある。そういった意味では、若い⼈にとっては、訳の分からないジジィに喧嘩を売るチャンスでもあるから、そういう⾵になったらいいなとも思ったけどね」とエールを送った。
コンペティション部⾨に出品された作品にも触れ「(第1回⽬の本映画祭に)意外にもいい作品が集まった」と喜ぶ。「審査をしていていい作品が集まると嬉しいんですよ。どうしよう、困ったぞ、逃げちゃおうかな?『何をどうしたらいいのか⼿も⾜も出ません』というコンテストもあるけど、今回は(ほかの審査員の)お⼆⽅がどう考えるか予想がつかないけど、僕の頭の中ではもう固まってるんです。観た瞬間“これしかない”、と思ったから。だけど(⾃分以外の審査員の)お⼆⽅がどう判断するかで、審査会が⼣⽅に終わるか夜までかかるのか、予測がつかない。ただ僕の頭の中では、もうほぼ決まっている」と発言。
「コンテストは映画祭のコア(核)として必要なんですよ、誰がグランプリを獲るかというのは、お祭りだから。だけど映画に1等賞、2等賞つけることはないんですよ、当たり前の話だけど。ある⼈にとっての1等賞がゴミだなってことになりかねないので、もともとグランプリやナントカ賞はそういうものだと思っていただきたい。監督だって、⾃分が頑張って作った作品というのは世界のどこに出しても恥ずかしくないんだという思いで作ってる。あくまで1等賞、2等賞は⾔ってみれば参考程度。(順位を)つけないと盛り上がらないからつけるだけだと思っていただければいいと思います。選ばれる⼈にとったら⼤事かも知れないけど、実際にはひとつの景気づけみたいな。その証拠に私は⼤きな賞をもらったことは1回もないですから(笑)」と押井監督らしい⾔葉で締めくくった。
コンペティションに参加している監督たちのサロン会⾒には『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』からアマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル監督の2⼈が登壇。フランスでは⼩学校の教科書にも載っている国⺠的キャラクター、プチ・ニコラの誕⽣秘話。この作品を観た⼈が、ポジティブで元気な気持ちになってくれるようにとタイトルに込めた思いを語った。⽇本のアニメーションに多⼤な影響を受けたという2⼈は、コロナ禍で、誰にも会えなかった時期に2年かけて制作した本作を、本映画祭で多くの⼈に観てもらえること、⽇本の観客のリアクションが直接感じられる喜びも語った。
映画館シネ・ウインドでは、新海誠監督の初期の3作品を集めたオールナイト上映が開催され、アニメ特撮研究家・氷川⻯介と本映画祭のプログラム・ディレクターの数⼟直志による“新海誠談義”の対談も組まれた。
「第1回新潟国際アニメーション映画祭」は3月22日(水)まで開催中。
第1回新潟国際アニメーション映画祭
Niigata International Animation Film Festival
2023年3月17日(金)~22日(水)開催
上映会場:新潟市⺠プラザ、T・ジョイ新潟万代、シネ・ウィンド、クロスパル新潟
イベント会場:新潟⽇報メディアシップ、古町ルフル広場、新潟⼤学駅南キャンパスときめいと
FORUM 会場:開志専⾨職⼤学
主催:新潟国際アニメーション映画祭実⾏委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
特別協⼒:新潟市、新潟⽇報社、新潟県商⼯会議所連合会、燕商⼯会議所
後援:外国映画輸⼊配給協会
協⼒:新潟⼤学、開志専⾨職⼤学、JAM ⽇本アニメ・マンガ専⾨学校
協賛:NSG グループ
公式サイト https://niaff.net
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