鬼才アリ・アッバシ監督が実際の娼婦連続殺人事件に着想を得て描く最新作『聖地には蜘蛛が巣を張る』(4月14日公開)の冒頭シーン映像が解禁された。
昨年の第75回カンヌ国際映画祭にてザーラ・アミール・エブラヒミが女優賞を受賞し、ロバート賞(デンマーク・アカデミー賞)で今年度最多11部門(作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞、編集賞、撮影賞、作曲賞、プロダクションデザイン賞、音響デザイン賞、視覚効果賞)に輝いた本作は、イランの聖地マシュハドで2000年から2001年にかけて16人もの犠牲者を出し “スパイダー・キラー事件”と呼ばれたサイード・ハナイによる娼婦連続殺人事件に着想を得た、戦慄のクライム・サスペンス。
監督を務めたのは、第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した『ボーダー 二つの世界』(18)(同年アカデミー賞®スウェーデン代表)でスリリングなファンタジーの世界を描き、映画界の注目を一気に集め、最近では話題沸騰のHBOドラマ「THE LAST OF US」第8話、最終話の演出も手掛けた北欧の鬼才アリ・アッバシ。
主人公の女性ジャーナリストを演じたのは、イラン出身で現在はパリ在住のザーラ・アミール・エブラヒミ。彼女は第三者による私的なセックステープの流出によってスキャンダルの被害者となり、2008年、国民的女優として成功を収めていたイランからフランスへの亡命を余儀なくされた。本作での鬼気迫る演技が大きな話題となり、第75回カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。
今回解禁となった本編映像は、聖地マシュハドで、またひとり“スパイダー・キラー”と呼ばれる殺人鬼により殺害された娼婦のアップから始まる冒頭シーン。
男は淡々と殺害した娼婦の死体をヒジャブで包み、バイクの後ろに乗せて運び、夜の荒野に捨てていく。再びバイクで暗い道を進む男の指に光るのは、敬虔な信者の証を示す赤いメノーの指輪。蜘蛛の巣のように広がるマシュハドの街の光の中に男の姿が溶けていき、本作の原題“Holy Spider”(聖なる蜘蛛)がペルシャ語と英語で浮かびあがるー。
男の乗るバイク音に重なるように聞こえてくる音楽を担当したのは、アリ・アッバシ監督の『マザーズ』『ボーダー 二つの世界』も手掛けたデンマーク出身の作曲家マーティン・ディルコフ。本作にて、ロバート賞(デンマーク・アカデミー賞)作曲賞を受賞している。
監督いわく、「マシュハドの暗黒部が持つ無骨で、工業的な要素に合うものにしたいと思っていた」。イラン的なグランジの感性を表現したというサウンドデザインと相まって、男の正体への興味と得体のしれない不穏さを感じさせる印象的なシーンとなっている。
アリ・アッバシ監督は映画化のきっかけについて「『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、イランで最も悪名高き連続殺人犯、サイード・ハナイの壮絶な一生を描いた作品だ」と言及した上で、「犯人が敬虔な信者で模範的な人物であることを踏まえると、イラン社会に対する風刺作品であるともいえる」と語る。
そして「ハナイが聖なる街マシュハドで娼婦を襲っていた2000年代初頭は、私もまだイランに住んでいた頃だった。ハナイは、逮捕され、裁判にかけられるまでに、16人もの女性を殺害した。私がこの事件に関心を持ったのは、その裁判が行われている時だった。普通の世界なら、16人も殺した男は犯罪者として見られるはずだ。しかし、ここでは違った。一部の市民や保守派メディアは、ハナイを英雄として称え始め、ハナイは“汚れた”女たちを街から始末するという宗教的な務めを果たしただけだと擁護したのだ。私はそれを知った時に、この出来事を基に映画を作ろうと思った」と振り返っている。
『ボーダー 二つの世界』で、善と悪、美と醜など世の中のあらゆる“境界”の既成概念を揺さぶり、私たちに潜む差別や優劣意識を白日の下に晒したアッバシ監督。人間の本性を凝視する視線はそのままに、本作では、娼婦連続殺人事件の全容から、私たち人間に潜在する狂気と恐怖を暴き出す。
『聖地には蜘蛛が巣を張る』は4月14日(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開。
聖地には蜘蛛が巣を張る
2023年4月14日(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開
STORY
聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していたが、一部の市民は犯人を英雄視していた。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリスト・ラヒミは危険を顧みずに事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。
監督:アリ・アッバシ『ボーダー 二つの世界』
脚本:アリ・アッバシ、アフシン・カムラン・バーラミ 音楽:マルティン・ディルコフ
撮影:ナディム・カールセン 編集:ハイェデェ・サフィヤリ、オリヴィア・ニーアガート=ホルム
出演者:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ
原題:「Holy Spider」/2022年/デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス/ペルシャ語/シネスコ/5.1ch/118分/字幕翻訳:石田泰子/デンマーク王国大使館後援/映倫:R-15
©Profile Pictures / One Two Films
配給:ギャガ
公式サイト gaga.ne.jp/seichikumo
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