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本年度・第95回アカデミー賞®でアンドレア・ライズボローが主演女優賞にノミネートされた感動作『To Leslie トゥ・レスリー』が現在大ヒット上映中。このたび、大ヒット御礼トークイベントが7月15日(土)に開催され、ゲストとしてSYO(物書き)、奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)が登壇した。

「“既存の信仰に救われなかった人たち”が今回のアカデミー賞の裏テーマの一つにあるのではないか」

本作は、宝くじの賞金をアルコールに使い果たしてしまったシングルマザーの人生の再起を描く感動作。宝くじに高額当選(190,000ドル・日本円で約2,500万円)したもののアルコールに使い果たし、行き場を失ったシングルマザーのレスリー。息子にも友人にも見放されながらも、モーテルでの“出会い”をきっかけに人生の再起を図る。スクリーンとの境界線を越えて滲む、痛々しいほどのリアリティ溢れる演技に胸を打たれ、ラストには涙なしでは見られない心温まる瞬間が待ち受ける——。

『To Leslie トゥ・レスリー』

この日開催されたトークイベントに登壇したSYOは本作について「映画って不思議なもので、私生活では関わりたくないと思ってしまう人に強制的に関わらされることで、理解しようとしたり、同調や同情が生まれるんですよね。私生活ではレスリーに会いたくないのに、ラストシーンではボロボロ泣いてしまって。映画を通して他者を理解するとか、再起を祝福するという点で素晴らしい映画だなと思いました」と絶賛。

奥浜は「冒頭のプロムの写真や宝くじに当選した際のビデオの描写でレスリーがこれまでに歩んできた人生が手際よく表現されていて、グッと作品に引き込まれるんですよね。それだけ鮮やかに彼女の半生を描いたかと思えば、ナンシー(アリソン・ジャネイ)やダッチ(スティーヴン・ルート)など地元の人との関係などは明らかにされず、明らかにするところとされないところのストーリーテリングがあまりにも上手だったのが印象的でした」と語ると、SYOも5月に公開され、ロングランをするなど話題を呼んだ映画『aftersun/アフターサン』を引き合いに出し、「『aftersun/アフターサン』にも言えるんですが、本作は文字であらすじを説明したらシンプルなんだけれども、実は色々なところに伏線が張ってあって、“ここから先は言葉では説明しない”という観客の想像力を信じた作品だったなと思います」 と同意した。

話題は単館上映から始まったにも関わらず、主演を務めたアンドレア・ライズボローがアカデミー賞にノミネートされたことへ。奥浜は、本作で母親について“聖書に忠実な人だった”という話が出てくることから、「『ザ・ホエール』や『ウーマン・トーキング 私たちの選択』もそうなんですが、 “既存の信仰に救われなかった人たち”が今回のアカデミー賞の裏テーマの一つにあるのではないか」と独自の見解を述べるとSYOも深くうなずき、「シングルマザーという一つの属性をみると、この映画には描かれていない、レスリーの夫が犯した罪みたいなものがべったりあるような気がして。当時、レスリーには共助がなく、周りの人がお金にだけ群がってきた。レスリーという人が、これはただ19万ドルを全部お酒に使ってしまった、という側面のみを観ればいい映画ではないんですよね」と語った。

そして、フィルムで撮影され、テイク数が限られていたことについては「撮りなおしたとしても3回でOKカットにしていてこのクオリティを引き出せるのはすごい」と感嘆し、奥浜も「ワンタンスープのシーンで、相手が目をそらした一瞬でポロっと涙を流す、とかバーでカントリーシンガーのウィリー・ネルソンの曲を聴いているときのベストな表情を1カットでできていることが奇跡の連続だと思う」とアンドレアを称賛。続けて、「今まで酔いどれは男性が演じることが多かったような気がして、男性の酔いどれが出てくる作品とは風合いの違う描かれ方をしているところが面白いなと思いましたね」と話す。

また、作中で印象的なカントリーミュージックについて奥浜は「息子のジェームスが子どもの頃に目指していたウェイロン・ジェニングスというカントリーシンガーの曲をバーでレスリーが踊っていて、親子で好きだったんだ、と2人の関係性を音楽で見せるのが素敵だなと思いました。幕開けのドリー・パートンの『Here I am』という“自分はここにいる”という曲と、後半に出てくるウィリー・ネルソンの曲の歌詞“本当にここは居たい場所なのか”と対応していて、レスリーのどこに自分を置いていくのかという決意に音楽が寄り添っているというのがこだわりだなと思います」とカントリーミュージックを使った演出を熱弁。

SYOは好きなシーンについて「やはりラスト、親子2人をダイナーに残して窓越しからみんなで祝福しながら見守るシーンが美しかったですね。ベタな演出かもしれないが、キャストが素晴らしいからこそ成立するシーンだなと。こういう風に人を見つめていたいんだという思いが走っているのがカメラを通して伝わってきて、それがグッとくるんですよね」としみじみと語った。

「共感」のテーマになると奥浜は「レスリーはわたしの人生とは全く違って共感ができないはずのキャラクターなのになぜ自分事のように胸が痛いのかと考えたときに、映画の中で明かされない部分が、そのままレスリーが思い出したくない部分なのではないかと思って。明かされない部分がそのままレスリーの思考のプロセスに近いのではないかなと思ったら、その経験は自分にもあるぞと急に身近に感じて、だからこんなに痛いんだと気づいたんです」と自己分析したことを明かした。

SYOは「語られない部分がレスリーの傷だったのかもしれないですね、面白い」と強く納得しながら、「僕はこの作品を観ていると自分が持っている気持ちの余裕みたいなものが見えてくると思っていて、レスリーのことを思えるということは自分の心に余裕があるってことだと思うんですよね」と自身の見解も述べた。

イベントの最後には本作が他作品とのつながりを感じられることや近年の映画の一つの傾向を反映していること、そして俳優陣の演技力の高さが本作が多くの人々の心を震わせた理由だとし、「そりゃ色んな役者が絶賛するわ!って思いますよね」と総括すると観客からも笑いが起こり、イベントは幕を閉じた。

『To Leslie トゥ・レスリー』は大ヒット上映中。

作品情報

To Leslie トゥ・レスリー
2023年6月23日(金) 全国ロードショー

STORY
テキサス州西部のシングルマザー、レスリー(アンドレア・ライズボロー)は、宝くじに高額当選するが数年後には酒に使い果たしてしまい、失意のどん底に陥る。6年後、行き場を失ったレスリーは、かつての友人ナンシー(アリソン・ジャネイ)とダッチ(スティーヴン・ルート)のもとへ向かうが、やはり酒に溺れ呆れられてしまう。そんな中、スウィーニー(マーク・マロン)という孤独なモーテル従業員との出会いをきっかけに、後悔だらけの過去を見つめ直し、母親に失望した息子のためにも、人生を立て直すセカンドチャンスに手を伸ばしはじめる。

監督:マイケル・モリス
出演:アンドレア・ライズボロー(『オブリビオン』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)、マーク・マロン(「GLOW ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」)、オーウェン・ティーグ(『フロッグ』『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』)、アリソン・ジャネイ(『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』『LOU ルー』)
配給:KADOKAWA 2022/英語/119 分/シネスコ/カラー/5.1ch/原題:To Leslie/日本語字幕:松浦 美奈

© 2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved

公式サイト https://movies.kadokawa.co.jp/to-leslie

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