少年たちの瑞々しい初恋を描いた実話ラブストーリー『シチリア・サマー』(全国公開中)の特別トークイベントが11月27日(月)に開催され、話題沸騰中の日本版ポスターデザインを担当した石井勇一がゲストとして登壇。2人の少年の眩い記憶を切り取った美しいビジュアルの数々は、どんなインスピレーションからどのように生まれたのか。映画ライターのSYOと映画愛に溢れるトークを繰り広げた。
イタリアで爆発的な大ヒットを記録し、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督にも大絶賛された映画『シチリア・サマー』は1982年のイタリア・シチリアを舞台に、運命的な出会いを果たした2人の少年の眩しすぎる恋を描く実話ラブストーリー。主人公のニーノとジャンニには、新星俳優ガブリエーレ・ピッツーロと、ダンサーとしても活躍するサムエーレ・セグレート。数百人のオーディションを勝ち抜き、彗星のごとく現れた2人が瑞々しい演技を魅せる。監督を務めるのは、イタリアで俳優として活躍するジュゼッペ・フィオレッロ。
この日行われた特別トークイベントでは、上映後、満席の会場から大きな拍手で迎えられ石井勇一が登場。はじめに、司会を務めるSYOが映画の感想を問うと、「実際の事件の情報を入れずに映画を観たのですが、このラストに呆然と打ちひしがれてしまいまして。40年前に起きた事件を基にしているということで、時代が変わるだけで、人生がこうも違うのかと思いました」とラストシーンに大きな衝撃を受けたという。一方SYOは事件の詳細を調べてから観たそうで、「ラストシーンがここで終わるんだと、なんとなく待ち受けている自分がいたので、余計にもの悲しさが続きました」と印象を明かす。
石井が手掛けたジャンニの情熱的な目線が印象的な日本版ポスタービジュアルは、「今年の下半期で一番印象的なポスター」などとSNSでも話題に。このシーンを切り取った理由について、石井は「映画を親心の視点で観ていたんですけど、そういった意味で彼らが純粋に、一番その人らしく輝いている瞬間を形にしようと思って。結果、一番力強くて、目線に人生観がでているところを形にできたと思います」とコンセプトを明かした。
本国のビジュアルはバイクに乗った2人の後ろ姿を映したものだが、「バイクのシーンもわかりやすいですが、既視感があったので、もっと人物にフォーカスして、横位置にすることで、ジャンニの目を真ん中に置いて立体的に演出してみようとトライしました」といい、本編のフレームを一つ一つ確認し、一番エモーショナルなシーンを探したそう。
本ポスター以外にも、6種類のアザービジュアルを手掛けた石井。スクリーンに映し出されたアザービジュアルをまじまじと眺めたSYOは、「ある種の今感というか、シチリアのこの場所に行けば本当に見られる風景ですもんね」というと、石井は「そうなんですよ。海や山の大自然が詰まった観光ポスターのようなシリーズになりました」と続け、シチリアの豊かな自然が堪能できる一枚に仕上がっている。
そのこだわりはタイトルロゴにも及び、「ロゴには、シチリアの伝統的な植物のイメージからインスパイアを受け、加えて、禁断的な意味で刺々しいニュアンスも入れています。邦題のカタカナの部分も、よく見るとハートが伸びているようになっているんです」と解説。
隠れた部分までこだわり抜いたデザインにSYOも驚いた様子で「黄色のカラーにはどういった意図があるんですか?」と問うと、石井は「普通の黄色よりちょっと甘いカラーで、真冬に観たくなる夏の映画ということで、光のニュアンスを入れてカラーを作りました」と語り、季節感も考慮された柔らかいデザインに。「見えない所にこだわりを入れるのは、デザイナーの性分でしょうね。キャッチコピーの文字のピンクも彼らの声にできない思いをニュアンスで入れていて、色や場所、デザインの全てに意味があるんです」と語り、同じデザインでも、チラシやポスターで文字間など細かい箇所を調整する場合もあるという。
また、全80ページに渡る豪華仕様の劇場用パンフレットは、本編の印象的なシーンを切り取ったパラパラ漫画がついているなど、これも石井のこだわりが光る。「アルバムみたいなトーンで、彼らに対して捧げる形でまとめたものにできないかと。とにかくページ数に予算をかけました」と制作を振り返った。
本作のデザインに携わっている期間にヨーロッパに出張に行っていたそうで、「本当はシチリアに行きたかったんですが、広大で時間的にも難しく、断念しました。ギリシャの島を周って、国柄からくる人情味だったり、空気感、店や看板の柔らかい書体のPOPが参考になり、パンフレットの表紙に取り入れたりしました」とインスピレーションを受けたことを明かした。
映画の宣材をデザインする際に大切にしていることについて問われると、石井は「映画が観られる前に、どれだけ人に興味を抱かせるかが大切。そのためにこだわっても、それが10伝わることはなくて、1割伝われば良い。そのためにバリエーションを考えて、想いを表現できるかというのが大変なところでもあります」と語ると、SYOは「僕はこのポスターを見てから映画を鑑賞したので、このシーンで、きた!と思いましたね。このビジュアルには感じない痛みが展開して、どうなっていくんだろうと思いながら観ていました」とコメント。
最後に石井は「こんな時代だからこそ、伝えたい想いの強さが大きくなっていて、それに上手く寄り添えるかが課題。時代感、今っぽさは磨き上げつつ、形にできたらいいなと思っています」と語り、日本の映画界から引っ張りだこの石井のデザインにおけるこだわりや、眩しいビジュアルの裏に込めた想いが垣間見られるイベントとなった。
『シチリア・サマー』は大ヒット上映中。
シチリア・サマー
2023年11月23日(木・祝)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか公開
STORY
1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──。
監督:ジュゼッペ・フィオレッロ 主演:ガブリエーレ・ピッツーロ、サムエーレ・セグレート
2022年/イタリア語/134分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:Stranizza d'Amuri/日本語字幕:高橋彩/
後援:イタリア大使館 配給:松竹
© 2023 IBLAFILM srl
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