『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を生み出したA24と『パラサイト 半地下の家族』配給の韓国のCJ ENMが初の共同製作で贈る注目作『パスト ライブス/再会』が4月5日(金)より全国公開。2月8日(木)に本作のトークイベントが開催され、漫画家・コラムニストの辛酸なめこと、映画ライターのよしひろまさみちがゲストとして登壇した。
本作は、ソウルで初めて恋をした幼なじみのふたりが、24年後の36歳、NYで再会する7日間を描くラブストーリー。久しぶりに会ったふたりはNYの街を歩きながら、これまでの互いの人生について触れ、想いを馳せる。「もしもあの時、あなたとの未来を選んでいたら—」。この再会の結末に、美しく切ない涙が溢れ出す。先日発表された第96回アカデミー賞®では、『オッペンハイマー』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』、『バービー』など、名だたる作品と肩を並べ、作品賞と脚本賞の主要2部門で見事ノミネートされている。
今回行われたトークイベントに登壇した二人はすでに本作を鑑賞済み。よしひろは「アカデミー賞作品では1番身近な作品」と位置付けた。これには辛酸も共感を示しつつ、「積み重ねてきた歴史というか、二人が少年と少女に戻ったような感動もあったり、普通の恋愛映画にはない魅力を持った、なんだかストイックな作品だなと思います」と、本作の持つ力強さを語った。
さらに2人は物語の構成を現実世界も交えて深堀り。よしひろは「新型コロナウイルスの流行があってzoom等オンラインで人と会っていた時期があったじゃないですか。この映画にもオンラインで繋がるシーンがありましたけど、それは心の慰めになっていたのかな」と、ニューヨークに住むノラとソウルに住むヘソンが、24歳のときオンライン上で再会を果たすシーンを振り返る。「孤独なニューヨークでの生活で、ヘソンが子供の頃泣き虫だったノラに『ニューヨークでは泣けないの?』と距離を縮めてくる会話をしたり、日常の出来事で盛り上がったりしていたので、何かあってもいいくらいだったけど、ヘソンがNYへ会いに行く勇気がなかったんですよね」と歯がゆさを口にした。
しかし本作の二人は、その12年後にニューヨークで再会を果たす。この再会も踏まえてよしひろは、韓国で「運命」の意味で使われる物語のキーワード“縁”―イニョン―については、様々な形があると捉えているようで、「同窓会やSNSとかで昔の知り合いとコンタクトをとっても、話が盛り上がらなかったことがある。やっぱり縁が消えるっていうのも大事なのかな。学校を卒業すると同時に、その相手との縁もそれで“卒業”というか、もう1回連絡取らなくてもいいことはあるんじゃないかなと思いました」と、会う選択肢・会わない選択肢すべての“縁”の積み重ねに現在が成り立っていることを説き、この例に対してつい頷いてしまう観客の姿も多く見られた。
また、辛酸も実体験を交えながら物語のキーワード“縁”を語る。「幼稚園のときにちょっと好きだった子がいて。1年前にたまたまテレビを見ていたら、レーシングチームのエンジニアをしてる方で、その子と名前が一緒だ!という人がいたんですね。活躍している嬉しさからその方を調べたら、結局私よりだいぶ年上で違う人。だけど違うってわかるまでの三日間はドキドキして楽しかったですね」と、日常に訪れた小さな“縁”について振り返っていた。
トークは盛り上がりを見せ、テーマは男女間の恋愛観の違いについて。よしひろは「男って引きずるんですよ。(ヘソンにとってノラは)同じぐらい頭が良かったちょっと憧れの女子、だんだん美化されていくんですよね。偏見かもしれないですけど、女性の友達と話していてよく思うのが、元彼のことって割とすっぱり忘れていたりする」と語ると、これに対して辛酸も「女性はフォルダで上書きだけど、男性は別のフォルダってよく言われますよね。フォルダが違うんですよね」と“恋愛あるある”を語り合った。
また、本作においては、ニューヨーク在住のノラとソウル在住のヘソンの間で生活環境の違いも顕著に描かれていることを指摘。辛酸は「ニューヨークにいるノラは上昇志向。小学生の頃の分かれ道のシーンで彼女は階段を上へ上がっていく、一方、ソウルにいるヘソンは比較的緩やかで平坦な道」と重要なシーンのメッセージ性を紐解いた。二人が選ぶ人生の価値観を表現したシーンに仕上がっている。
さらに、よしひろは脚本を見た際に、場面説明や登場人物の状態を表す“ト書き”ばかりだったことに驚いたという。「たしかに考えてみたらそんなにセリフ多くないよね?それはやっぱり演技がすごく重要、あの演技があってこそなんです」と役者陣の演技を絶賛。
つたない英語を話していたヘソンを演じたユ・テオについて辛酸は、「自分より英語できない人がいるんだとか思って嬉しく思ってたら、欧米で生まれ育っていて、英語、ドイツ語、韓国語のトリリンガルだった」と語り、会場は笑いに包まれた。実際に、ユ・テオはドイツ出身で、高校卒業後はニューヨークやロンドンの演劇学校で演技を学んでいたため、つたない英語の話し方は完全に演じていたことがわかる。ノラを演じたグレタ・リーについても、アメリカ出身の韓国系移民2世であり、英語が母国語。本作の魅力のひとつとも言える2人の韓国語でのやりとりでの巧妙な演技に注目。
最後によしひろは本作について、「これはみなさんのお話に置き換えてご覧いただいて、咀嚼して人に勧めてほしいですね。再会した人との何かしらの経験は、どこかで1回ぐらいはあると思うので、そこに落とし込んでこの2人の関係を考えると、割とストンと腑に落ちる瞬間があるんですよね。そういう風に見るとすごく刺さるよと言っていただくと、良いんじゃないでしょうか。男女の恋愛観・価値観はだいぶ違うものでもありますし、カルチャーギャップやジェンダーギャップも楽しんでいただければなと思います」と語り、イベントを締めくくった。
『パスト ライブス/再会』は4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。
パスト ライブス/再会
2024年4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
STORY
ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソン。ふたりはお互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、オンラインで再会を果たし、お互いを想いながらもすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れる。24年ぶりにやっとめぐり逢えたふたりの再会の7日間。ふたりが選ぶ、運命とはーー。
監督/脚本:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ
2023年/アメリカ・韓国/カラー/ビスタ/5.1ch/英語、韓国語/
字幕翻訳:松浦美奈/原題:Past Lives/106分/G
提供:ハピネットファントム・スタジオ、KDDI 配給:ハピネットファントム・スタジオ
Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved
この記事が気に入ったらフォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow WEEKEND CINEMA