鬼才ピーター・グリーナウェイの特集上映「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師」がいよいよ今週末3月2日(土)より全国順次公開。このたび各作品の鮮烈なビジュアルと作品概要を一枚ずつに纏めたWEB版スペシャルポスター計4点が解禁された。さらに、今から40年前、『英国式庭園殺人事件』当時のグリーナウェイのインタビューも到着した。
今回の特集上映では、グリーナウェイの数ある作品のなかでも『髪結いの亭主』、『ピアノ・レッスン』、『ガタカ』等で世界的に知られる音楽家マイケル・ナイマンが音楽を手掛けた作品を選定。異彩を放つグリーナウェイの世界に音で更なる煌めきを与えたナイマンとの、世紀のコラボレーションと呼ぶに相応しい4作が上映される。動物の死骸に執われた双子を描いた衝撃作『ZOO』(85)、12枚の絵画に隠された完全犯罪の謎を描いた初期グリーナウェイを代表する傑作ミステリー『英国式庭園殺人事件』(82)、3人の女による殺人を描きカンヌ国際映画祭芸術貢献賞を受賞したサスペンス『数に溺れて』(88)、シェイクスピア最後の戯曲を原案に日本を代表するデザイナーのワダエミが衣裳を担当した、魔法書を手にした男の豪華絢爛な復讐劇を描く『プロスペローの本』(91)と、代表的な傑作が揃う。
今回解禁されたのは、昔からのグリーナウェイのファンには懐かしささえ漂う、グリーナウェイ印が溢れる各作品のWEB限定ポスター。さらに、今回翻訳されたインタビューは1982年『英国式庭園殺人事件』公開当時の貴重なもの。「時間帯を変えて同じ風景に戻り続け、光がどのように形、フォルム、垂直線を作り、それらがどのように変化し、時間帯によってどんな新たな意味を持つかを見つめる」と作品の特徴を自ら語り、「台詞は駄洒落や戯れ言を含んでとても注意深く練られている。全体が、王政復古期の悲劇を目撃した17世紀に好まれていた手の込んだ茶番劇である」と『英国式庭園殺人事件』を解説している。インタビュー全文は以下にて。
「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師」は3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
ピーター・グリーナウェイ インタビュー
Monthly Film Bulletin、1982年11月号
『英国式庭園殺人事件』と私の前作との間には、これまでのどの作品よりも大きな隔たりがある。この隔たりは両立不可能のように思えるが、それ以前に撮った作品と似ている部分もたくさんあると思う。そして確かに私は、過去のことを念頭に置きこの映画をカットしなければならないだろう。『Vertical Features Remake』とは、視覚的に非常に強く連想できる部分がある。風景のある特徴を探し出し、ほとんどミニマリスト的な方法でそれを追求する画家の関心。そして本作は、時間帯を変えて同じ風景に戻り続け、光がどのように形、フォルム、垂直線を作り、それらがどのように変化し、時間帯によってどんな新たな意味を持つかを見つめるという構成をしているのだ。
私の最大の関心事は、風景、筋書きの相互作用に関わるアイデア、対称性、ガーデニングというサブテキスト全体に特徴的な事柄、そして台詞とその内容、その形式を使ってできるゲームである。非常に文学的な映画であり、台詞は駄洒落や戯れ言を含んでとても注意深く練られている。全体が、王政復古期の悲劇を目撃した17世紀に好まれていた手の込んだ茶番劇である。私の映画作りの特徴のひとつは、一連の物語、逸話、秘話が一体となり、総合的な世界を構築する点だ。
残念ながら、リハーサルの時間が足りなかった。私がやりたかったのは、撮影に入る前に全員が物語を理解していると確認することだった。もうひとつ私が提案したのは、とても長いテイクを撮ることだった。俳優たちがドラマチックな状況に身を置き、物語が展開していくようにするつもりだった。過剰に編集された映画を作るつもりはなかった。それも演劇的素養のある俳優を起用した理由のひとつだ。台詞のリズムを考慮すると、私はもっと頭脳的なアプローチをとり、動きから距離を取った方がよかった。殺人のような肉体を使うドラマが多い場面では、別の基準で台詞を操らなくてははならないことがわかった。距離を取ることによる効果は期待したようには得られなかった。
8分に及ぶものもある一連の長回しによって、時折、非常に文学的な表現が生まれる。私はこれに喜び興奮するのだが、より多くの 「一般的な」観客を喜ばせ、興奮させるものかどうかはわからない。映画の長さも気になる。とても長くなってしまうため、半商業的な長さ、110分程度に収めなければならない(グリーナウェイのオリジナルカットは4時間に及ぶ)。プレッシャーと緊急事態のために、庭園のディテールについては失われてしまったものが多くある。予算の増大や商業的な問題など、映画には多くのプレッシャーがあるのだ。
ネヴィルだけでなくタルマンも含め、登場人物と彼らによる突っ込みどころ満載の会話は、私自身のある一面を反映していると思いたい。ネヴィルとタルマン夫人が「傲慢さ」と「無邪気さ」について語る重要なシーンがそうだ。「傲慢さ」と「無邪気さ」のバランスを取るというのは、私自身の課題でもある。ネヴィルは、表向きは非常に傲慢な人物で、自己中心的な考えから世の中を駆け回り、行く手を阻むものをすべて破壊してしまうが、彼が他人の陰謀に巻き込まれるのは、その無邪気さゆえと言える。なぜなら、もし彼がもっと賢い男であったなら、このような策略はすぐに見抜けたはずだからだ。しかし、その無邪気さが彼を解放し、傷つきやすくしているのだ。
『英国式庭園殺人事件』のイメージ、プロット、感情の強さはすべて普遍的なものだ。それがたまたまこの特殊なフォーマットに収まっただけである。私はパンチがあり、視覚的興奮があり、頭脳的なエンタテインメントがある良い映画を作りたいと思っている。
ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師
2024年3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
🔳『プロスペローの本』
出演:ジョン・ギールグッド、マイケル・クラーク、ミシェル・ブラン、エルランド・ヨセフソン他
監督:ピーター・グリーナウェイ 音楽:マイケル・ナイマン 衣裳:ワダエミ
1991│イギリス・フランス・イタリア│英語│カラー│ビスタ│2.0ch│126分│原題:Prospero's Book
🔳『数に溺れて4Kリマスター』
出演:ジョーン・プロ―ライト、ジュリエット・スティーヴンソン、ジョエリー・リチャードソン、バーナード・ヒル他
監督:ピーター・グリーナウェイ 音楽:マイケル・ナイマン
1988│イギリス│英語│カラー│ビスタ│2.0ch│118分│原題:Drowning by Numbers
Ⓒ1988 Allarts/Drowning by Numbers BV
🔳『ZOO』
出演:アンドレア・フェレオル、ブライアン・ディーコン、エリック・ディーコン他
監督:ピーター・グリーナウェイ 音楽:マイケル・ナイマン
1985│イギリス│英語│カラー│ビスタ│2.0ch│116分│原題:A Zed & Two Noughts
Ⓒ1985 Allarts Enterprises BV and British Film Institute.
🔳『英国式庭園殺人事件4Kリマスター』
出演:アントニー・ビギンズ、ジャネット・スーズマン、ルイーズ・ランバート、ニール・カニンガム他
監督:ピーター・グリーナウェイ 音楽:マイケル・ナイマン
1982│イギリス│英語│カラー│ビスタ│モノラル│107分│原題:The Draughtsman's Contract
Ⓒ1982 Peter Greenaway and British Film Institute.
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