フランスのノワール映画を中心に、近年あまり上映されてこなかったノワール映画の魅力をつきつめ、全14作品を上映する映画祭「フィルム・ノワール映画祭」が4月27日(土)より新宿K’s cinemaにて開催されることが決定した。
フランスの映画批評家ニーノ・フランクが第二次大戦中に製作されたアメリカの犯罪映画を“フィルム・ノワール”と称したことから始まったフイルム・ノワールの歴史。源流は1930年代に一世を風靡したギャング映画にあると言われている。
フイルム・ノワールはフリッツ・ラングやロバート・シオドマク、ジャン・ルノワールら、ヨーロッパから亡命した映画作家の再出発の場となり、アンソニー・マン、ジョセフ・H・ルイス、ニコラス・レイ、リチャード・フライシャーらアメリカの若き映画作家たちの登竜門となった。
ハリウッド映画史にその名を刻む監督たちが描き出したアメリカの闇は、ゴダール、トリュフォーが高評価したことからフランス映画界に浸透し50年代ヌーヴェル・ヴァーグ以前のフランス映画界に大きな影響を与え、以降多くのフランス・ノワールが製作された。フランス・ノワールはアメリカのノワールとも違う独自な世界を繰り広げる。この映画祭はフランス・ノワールを中心に、近年あまり上映されてこなかったノワール映画の魅力をつきつめる映画祭。
上映作品は、まずチャールズ・ブロンソン主演の3作。ルネ・クレマンの情感溢れる映像美、フランシス・レイの華麗な音楽によってメランコリックな雰囲気たっぷりの『雨の訪問者』、ベルイマン監督作で知られるリヴ・ウルマンとブロンソンの共演するテレンス・ヤング『夜の訪問者』、そして、ブロンソンとアラン・ドロンが金庫破りをする凸凹コンビを演じるジャン・エルマン『さらば友よ』。
その他の作品は、ジャン=ポール・ベルモンドとリノ・ヴァンチュラの共演が嬉しいアンリ・ヴェルヌイユ『太陽の下の10万ドル』、言わずとしれた巨匠ジャン=ピエール・メルヴィルの初期と後期を代表する『賭博師ボブ』、『仁義』。コルシカ生まれのセリ・ノワールの旗手ジョゼ・ジョヴァンニが自身の小説を映画化した監督デビュー作『生き残ったものの掟』。
同じくジョヴァンニがイギリスのジョン・カリックのベストセラー「禿タカ」を映画化した傑作アクション『ベラクルスの男』。刑務所からの脱走劇を描くジャック・ベッケル『穴』。アート・ブレーキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズの音楽が印象的な『殺られる』。そして、人間の暗黒面をこれでもかと見せつける、まさにこれぞフレンチ・ノワールと言うべきイヴ・アレグレ『乗馬練習場』。ドイツの亡命監督ロバート・シオドマクがフランスで撮った『罠』。マカロニ・ウェスタンやアクション映画を多く撮ったドゥッチョ・テッサリ『ビッグ・ガン』。『穴』に続くジョゼ・ジョヴァンニの原作、脚本にしてリノ・ヴァンチュラ、ジャン=ポール・ベルモンド出演のクロード・ソーテ『墓場なき野郎ども』。以上、全14作品となる。
作品紹介
『雨の訪問者』1970│119 分│カラー│BD
監督:ルネ・クレマン 原案・脚本:セバスチャン・ジャプリゾ
主演:チャールズ・ブロンソン、マルレーヌ・ジョベール
雨が降り続く季節外れの避暑地、バスから降りた赤いバッグを持つ男、窓を通して男を眺める女。その女のもとに、夜その男がやってくる。乱暴された女は男を撃ち殺し、崖から捨てるが、翌朝、彼女のもとにある男がやってきて全てを知っているという。男は誰なのか、殺された男は誰だったのか。女の名はメランコリー、女の記憶の映像が突然差し挟まれたり、南仏の家庭からパリの娼館に場面が移り変わったり、物語は錯綜するが、クレマンの情感溢れる映像美、フランシス・レイの華麗な音楽によってメランコリックな雰囲気たっぷり。
『さらば友よ』1968│115 分│カラー│BD
監督・脚本:ジャン・エルマン 原作・脚本:セバスチャン・ジャプリゾ
主演:チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロン
アルジェリア帰りの二人の兵士、アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソン。ドロンは自分が死なせた友のために、金庫破りをすることに。いっちょ噛みさせろとブロンソンが勝手に参加、凸凹コンビがクリスマスの深夜に、何万通りもある金庫の番号組み合わせをひたすら試しつくす。ようやく開いたと思ったら金庫はカラ、これはどういうことなのか。サスペンス、ノワールというよりはコメディ色の方が強い気がするが、警察に追われることになった二人が互いに相手を庇おうと知らぬふりをする男気が泣ける。知らぬ同士を装う二人の別れの挨拶に痺れる。
『太陽の下の10万ドル』1965│125 分│モノクロ│BD
監督・脚本:アンリ・ヴェルヌイユ 脚本:マルセル・ジュリアン
主演:ジャン=ポール・ベルモンド、リノ・ヴァンチュラ
何か訳ありげな荷物を新品のトラックに積み、しかも新入りの運転手に運ばせる。いつもと違う業務に不審を持つ運転手たち。翌朝、そのトラックを勝手に運転して行った男を、社長が追わせる。明らかに荷物は金目のものだ。追う側もあわよくば自分が、と色めき立つ。舞台は北アフリカ、砂漠と山並みがシネスコ画面に広がり、壮大。いつ転落してもおかしくない崖でのトラック同士のチェイスがこの映画の見どころだ。軽薄そうなベルモンドと、いつも苦虫を噛み潰したようなヴァンチュラの対照性に、不穏なドイツ人やファム・ファタルが絡む。
『夜の訪問者』1970│94 分│カラー│BD
監督:テレンス・ヤング
脚本:シモン・ウィンセルベルグ、アルベール・シモナン 原作:リチャード・マシスン
主演:チャールズ・ブロンソン、リヴ・ウルマン、ジェームズ・メイソン
『雨の訪問者』と並び、チャールズ・ブロンソンが 1970 年にヨーロッパで撮った四本の一本。イギリス人のテレンス・ヤングが監督、アメリカ人のブロンソン、スウェーデンのベルイマン監督作で知られるリヴ・ウルマンが主演、シャブロル作品で知られるジャン・ラビエがカメラという国際的映画。観光客用漁船の船長が脅されて悪事に加担させられるホークス『脱出』に似た話だが、ブロンソンなので当然反撃、そのアクションが見もの。
『仁義』1970│140 分│カラー│BD
監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル
主演:アラン・ドロン、ジャン=マリア・ヴォロンテ、ブールヴィル
フレンチ・ノワール最大の映画作家ジャン=ピエール・メルヴィルの最後期の傑作。ヴォロンテとアラン・ドロンが偶然出会い、宝石強奪を計画、モンタンを仲間に入れる。元刑事でアル中だが、誇りを取り戻すため仕事を引き受けるというモンタンの造形が素晴らしい。二十分にわたる宝石店の場面は、たった一言の台詞もなく、男たちがやるべきことをただ淡々とやっていくその描写だけで、充実した映画的時空間となっている。彼らを追い詰める警視を、コメディアンのブールヴィルが演じ、これも大当たり。
『生き残ったものの掟』1966│100 分│カラー│35mm
監督・原作・脚本:ジョゼ・ジョヴァンニ
主演:ミシェル・コンスタンタン
コルシカ生まれのセリ・ノワールの旗手ジョヴァンニが自身の小説を映画化した監督デビュー作。亡き友の墓参でコルシカ島を訪れたスタンは“生き残った男”のひとりだった。同じ原作から作られた『冒険者たち』の“その後のような物語”だが、男の生き様を独特のハードなタッチで描いた本作はジョヴァンニの鮮烈なデビュー作となった。多くのノワール映画に出演している“怪優”M・コンスタンタンが主人公スタンを好演している。
『穴』1960│132 分│モノクロ│BD
監督・脚本:ジャック•ベッケル 原作・脚本:ジョゼ・ジョヴァンニ
主演:ミシェル・コンスタンタン、ジャン・ケロディ、フィリップ・ルロワ
ハワード・ホークスに私淑し、ジャン・ルノワールの助監督を務めたジャック・ベッケルは、彼ら二人と同様、ノワールに優れた技量を発揮した。『現金に手を出すな』はフレンチ・ノワールを代表する傑作。本作はベッケルの遺作で、ジョゼ・ジョヴァンニの小説の最初の映画化作品となる。サンテ刑務所からの脱走劇。タイトル通りコンクリートの床や壁に「穴」をあける作業の描写、その透徹したカメラ、物理音の処理、淡々とした編集には映画的アクションがみなぎっている。タイトルの「穴」はこっちのことだったかと、見方が 180 度変わるラストの衝撃。
『ベラクルスの男』1968│110 分│カラー│BD
監督・脚本:ジョゼ・ジョヴァンニ 原作:ジョン・カリック
主演:リノ・ヴァンチュラ
イギリスのジョン・カリックのベストセラー「禿タカ」を映画化したジョヴァンニ・ノワール第二作。1938 年、独裁政治打倒のため反政府リーダーに雇われて中南米ベラクルスに降り立ったフランスの殺し屋“禿タカ”。クーデター当日彼は独裁者大統領を一発の銃弾で倒し、暗殺に成功するが事情を知りすぎたため、禿タカは依頼主から狙われる羽目になる…。フイルム・ノワールの雄リノ・ヴァンチュラの圧倒的な存在感が全編に漂う傑作アクション・ノワール。
『賭博師ボブ』1955│100 分│モノクロ│35mm
監督・脚本・原案:ジャン=ピエール・メルヴィル 脚本:オーギュスト・ル・ブルトン
主演:ロジェ・デュシェーヌ、イザベル・コーレイ、ダニエル・コーシー
犯罪から足を洗ったボブ、若いものに優しく、女を食い物にする奴が嫌い、孤独が身に沁みついたような初老の男だが、今は賭博で身を立てている。カジノに収まる 8 億フランを狙って最後の仕事に臨むボブだが、待機中つい始めた賭博で何故かツキまくって…。夜のピガール地区のにぎわい、明け方の寒々しい盛り場をとらえたカメラ(アンリ・ドカエ)、ぶっきらぼうに進む語りがリアルで、ケイパーものフィルム・ノワールであると同時に、ヌーヴェル・ヴァーグ前夜を感じさせる。フレンチ・ノワール最大の作家メルヴィルの初期の傑作。
『殺られる』1959│90 分│モノクロ│BD
監督:エドゥアール・モリナロ 原作・脚本:G・モリス・デュムラン
主演:ロベール・オッセン、マガリ・ノエル、フイリップ・クレイ
お針子たちが呼ばれたパーティは、ブルジョアの男たちの人身売買の場だった。恋人を追って、パーティが行われる山奥の屋敷に潜入した男は彼女を救えるのか。犯人一味ながら、主人公を助けようとして裸に剥かれて拷問され、ついには殺されるマガリ・ノエル、常に黒い手袋をして、手慰みにスライドゲームに興じる痩せ型の殺し屋フイリップ・クレイが印象的。音楽はアート・ブレーキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズ。
『乗馬練習場』1950│91 分│モノクロ│BD
監督:イヴ・アレグレ 脚本:ジャック・シギュール
主演:ベルナール・ブリエ、シモーヌ・シニョレ、ジャーヌ・マルカン
愛する妻が事故で瀕死の重傷、枕辺で彼女との思い出に浸る夫に、妻の母が語る彼女の真の姿は驚くべきものだった。二つ目のフラッシュバックで全てがひっくり返る。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』に人物関係は似るが、それよりはるかに強烈。アレグレは『デデという娼婦』、『美しき小さな浜辺』、本作と同じ脚本家、シニョレ主演による「黒い三部作」で、人間の心の闇をえぐり出すフレンチ・ノワールの系列(代表がクルーゾー)の一翼を担った。
『罠』1939│107 分│モノクロ│BD
監督:ロバート・シオドマク 脚本:ジャック・コンパネーズ、エルンスト・ノイバッハ
主演:モーリス・シュヴァリエ、ピエール・ルノワール、マリー・デア
映画監督として上り調子になった途端ナチスの台頭でドイツにいられなくなり、フランス、さらにアメリカに亡命、ハリウッドでノワールの代表的作家になるシオドマク。本作は彼がフランスで撮ったノワール、その後、これもドイツからの亡命作家ダグラス・サークによって米で『誘拐魔』としてリメイクされる。若い女性が行方不明になる事件が多発、警察はある女性を使っておとり捜査を開始、彼女はその中で知り合った陽気な男と恋仲になる。しかしその男の机に犯罪の証拠が…。狂気のデザイナーは無声映画時代の巨匠シュトロハイム。
『ビッグ・ガン』1973│112 分│カラー│BD
監督:ドウッチョ・テッサリ 原案・脚本:フランコ・ヴェルッキ
主演:主演:アラン・ドロン、リチャード・コンテ
マフィアの殺し屋が、息子の将来のために足を洗おうとするが、組織の安泰のため彼を殺そうとしたマフィアが誤って彼の妻子を爆殺、主人公は復讐にひた走る。物語の骨格はフリッツ・ラングの『復讐は俺に任せろ』だが、それを知っているほどラストに驚きは大きい。要所要所に見られる色彩感覚や、殺しのエゲつなさに製作地のイタリアらしさがにじみ出る。ノワールの名作『他人の家』や『ゴッドファーザー』の名優リチャード・コンテにも注目。
『墓場なき野郎ども』1960│103 分│モノクロ│BD
監督・脚本:クロード・ソーテ 脚本・原作:ジョゼ・ジョヴァンニ
主演:リノ・ヴァンチュラ、ジャン=ポール・ベルモンド
逃亡中の死刑囚がイタリアからフランスへ。妻子連れという不利もあり、行動が荒く、行く先々に死体が積みあがる。この間のあれよあれよというスピードから一転、パリでの逼塞は、厄介者となってしまった彼が抑圧された時間が続くギャップ。突き放したようなナレーション(ラストの一言に痺れる)、ヴァンチュラのハードボイルド、かくまうベルモンドの男気。『穴』に続くジョゼ・ジョヴァンニの原作、脚本、カメラも同じギスラン・クロケ。
フィルム・ノワール映画祭
2024年4月27日(土)新宿 K’s cinema にて開催
配給:アダンソニア 宣伝・配給協力:ブライトホース・フイルム 協力:メダリオンメデイア、ブロードウエイ
解説:吉田広明(映画評論家) 協力:仙元浩平 デザイン:千葉健太郎
4/27(土)E『仁義』17:00 回上映終了後トークイベント開催
登壇:吉田広明(映画評論家)×村山匡一郎(映画評論家)
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