「ボスニアの若者の失業率は60％」『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』エナ・センディヤレヴィッチ監督が語る現実　本編映像【男と女とボスニア篇】解禁

幼い頃に別れた父を訪ね、母国であり異国の地ボスニアへと向かう一人の少女と、彼女の旅の道連れとなる二人の青年を描き、第48回ロッテルダム国際映画祭タイガーアワード特別賞を受賞したエナ・センディヤレヴィッチ監督の初長編監督作品『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』が9月13日（土）より全国順次公開。このたび、本編映像【男と女とボスニア篇】ならびに監督のインタビューが解禁された。

父の入院する病院に一向に連れていってくれる気配のない従兄に嫌気が差し、高速バスで一人旅に出たアルマだったが、道中で荷物を全て失くし途方に暮れる。通りがかりの親切な女性のおかげで、近隣のホテルには辿り着けたもののこれからどうしたらいいものか…。

現実逃避のプールサイド、助けの手を差し伸べてくれた謎の女性に自分の生い立ちを話すアルマ。幼い頃、「故郷が恋しくて父はボスニアに帰ってしまった」と伝えると、よくある話しなのか溜息交じりにこう呟く。「男が気にするのは、他の男たちからの評価だけ」。戦時中にボスニアを離れてその身一つで生活をしたという謎の女性は、このオランダ娘にどこか同情に似た感情を抱くのだった…。

ボスニア生まれオランダ育ちの少女のひと夏のバカンスとロマンスを描いた本作は、その実、ボスニア・ヘルツェゴビナという第二次世界大戦以降の紛争を経験した国に“残った(残らざるをえなかった)者”と”他の地へ旅立ったもの”の、埋まらないギャップを描いた作品だ（ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で起こったスレブレニツァの虐殺は、第二次世界大戦以降のヨーロッパで最大の大量虐殺としてジェノサイド認定されている）。

本作の主人公と同様ボスニア生まれオランダ育ちであるエナ監督は、ボスニアでの撮影について「現地の厳しい現状を目の当たりにし、深い悲しみを覚えました」と語る。

「本作の撮影中、ボスニアにとって非常に困難な時間でした。数か月にわたるボスニア滞在を通じて、現地の厳しい現状を目の当たりにし、深い悲しみを覚えました。特に衝撃を受けたのはボスニアの若者の失業率が60%にも達しているという現実です。さらに、政治制度が分断と腐敗を助長し、国の機能が十分に果たされていない状況が続いていました。ヨーロッパという枠組みの中にありながら、国によって、ここまで大きな格差が存在することに驚きを感じました。ボスニアで生きる人々の困難な状況と、外の世界との温度差を撮影しながら痛感し、その無力感は映画にも強く反映されています。映画のキャスティングを通じて、ボスニアの若者たちと直接交流し、彼らがどれほど閉塞的な環境に生きているかを実感しました。彼らは“戦場下で育った子どもだから劣っている”という意識を植え付けられ、社会に影響を与える力を持てないと信じ込まされながら育ってきました」。

作品背景を知った上で、本作のタイトル『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』（どこか素敵なところに連れ出して）という言葉を聞くと、少女のもつ無邪気さと同時に、現実社会の残酷さと無力感とが感じられる、なんとも言えない悲しみを湛えたタイトルだ。少女でも大人でもないアルマが、旅の果てに見つける本当の自分とは…？