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鬼才ブランドン・クローネンバーグ監督の長編第3作『インフィニティ・プール』(公開中)の公開を記念して、Q&Aイベントが実施され、監督がオンライン登壇した。

次回作は「『イベント・ホライズン』とゲームの「あつまれ どうぶつの森」をミックスしたような作品」

裕福な若い夫婦が訪れた美しいリゾート地“リ・トルカ島”。その国では、観光客はどんな犯罪を起こしても大金を払えば自分のクローンを作ることができ、そのクローンを身代わりとして死刑に処すことで罪を免れることができるという身の毛もよだつ残酷なルールが存在していた……。『パラサイト 半地下の家族』の配給会社NEONが製作を手掛けた本作は、『ターザン:REBORN』「ビッグ・リトル・ライズ」のアレクサンダー・スカルスガルドと『Pearlパール』で大ブレイクを果たしたミア・ゴスが初共演し、全米スマッシュヒットを記録した。

封切り初日の夜、満席の場内でスクリーン上に登場したブランドン・クローネンバーグ監督は「日本の皆さん、本日はお越しくださりありがとうございます。日本の皆さんに早く観ていただきたいとずっと思っていました。皆さんとお話しできるのをとてもわくわくしています」と挨拶。

MCを務めた映画ライターのSYOから、「(主人公の)ジェームズは小説家という設定です。そして、本作も元々はあなたが短編小説として物語を書いたことからスタートしているのですよね。僕自身も文章を書く仕事をしているので、劇中でジェームズが“あなたの作品なんて誰も読んでないよ”と言われていて、耐えられなくて落ち込みました(笑)。なぜ小説家の設定にしたのですか?」と質問されると、クローネンバーグ監督は「これは物書きにしか分からないジョークのようなものだと思います。正直に言うと、僕の映画の1作目から2作目までには、8年間もかかっているんです。この間に、本作の脚本を書きました。ジェームズは僕自身ではないですが、1作目『アンチヴァイラル』を世に送り出すことができて以降、当時はなかなか次作が出せない状況になっていました。この気持ちをキャラクターに盛り込んだのです。ですから、SYOさんがジェームズの気持ちが分かると言ってくださってとてもうれしいです」と回答した。

次に質問が客席の方に移ると、来場者からは熱気を孕んだ濃い質問が次々にクローネンバーグ監督に寄せられた。まず、「ジェームズは自分がクローンにされるシーンで、口を無理やり開けられます。『アンチヴァイラル』でも主人公が口を通気口にさせられていましたが、監督は口にフェティシズムを感じているのですか?ボディパーツを変容されてしまうことで、主導権をコントロールされるような意味がありますか?」という質問に、クローネンバーグ監督は「すべてはフェチと言えると思います。映画は奇抜なアートです。僕が“口を開くことを強いられる”という状況に特にフェティシズムを持っているわけではありませんが、僕はセクシュアリティの変容というものに魅了されていて、それを掘り下げたいと思っているのです」と答えた。

また、「本作では主人公を自身の手や他人を介して殺していきます。それは、マゾヒズムというよりは、自己へのキュートアグレッション(可愛いものを虐めたくなる衝動)だったりするのでしょうか?」と問われると、「皆さんがアレクサンダー(・スカルスガルド)を可愛いと思うかによるかもしれませんね(笑)。それは別にして、自分が処刑されるというシーンには2つの見方ができると思います。ジェームズは“こう見られたい”という理想像と、現実の自分の両方を持っています。そして、暴力が自分の内側に向かった時、彼は理想の自分を選び、現実の自分を殺すのです。もうひとつは、死生観を感じさせることだと思います。それは知的な話ではなく、自分を殺すということにマジカルな、五臓六腑で感じるような感覚的なことがキャラクターに起こると思うのです」と説明した。

続いて、「前作もそうですが、あなたの作品は自分と他者が他の人の人生をめちゃくちゃにすることの罪悪感と、それに慣れて薄れていく、ある種の万能感を持ってしまうことを描いていると思います。そういった作風に至ったきっかけはありますか?」という質問には、「人間の脳はすごくプラスチックなものだと思いますが、様々な形で解釈できるので、人間の本質や振る舞いはただ一つだと言いたくはないんですね。ただ、暴力に関して言えば、人類史には常に暴力が絡んでいて、我々は獣です。そこにはサディスティックなものがあります。僕が興味を持っているのは、表向きの礼節が崩れ落ちたときに、暴力がどう発現するのか、ふるまいがどうなっていくのか。人間の行動が動物的なふるまいに戻っていくということに興味があります」と返答した。

そして、「登場人物たちは、自分がクローンなのかオリジナルなのかをずっと考えています。それが彼らの行動に影響を及ぼしたのでしょうか?」という質問に次のように答えた。「自分がクローンかオリジナルか、彼ら自身が知ることは不可能ですね。ですが映画の観点でいえば、どちらでもいいといえる作品になっていると思います。よくあるクローンの物語にはしたくなく、クローンはあくまでストーリーを語る上でのひとつのツールです。描きたかった題材は、アイデンティティと人間の本質です。西洋の哲学者はずいぶん前から、人間が人間であることについて研究してきました。継続する時間の中で、人間であり続けるということとは?行きつくところは、何もないと思います。社会的、個人的なアイデンティティは集約的な、私たちが分かち合っている物語の要素でしかありません。それが人間を人間たらしめている核ではないと思います。ジョークではないですが、自分が誰であるかということは、ポイントではないのだということを描いています」。

「お面がすごく怖くて、最初のシーンでぎょっとしました。人の顔が崩れたようになっているのは意味がありますか?」と聞かれると、「仮面の顔が崩れていること自体には意味はありません。カーニバルや東欧のお祭りで、人は仮面をつけることで、2つ目のアイデンティティを得て、普段はできないことができてしまいます。本作の仮面はシンボリズムとして使ったのではなく、こういった伝統にのっとっています。特殊なリ・トルカ島ならではの文化と伝統的な文化を表したいと思い、デザインはリチャード・ラーフォーストにお願いしました。彼はコンセプトアーティストで、映画作家で、漫画アーティストでもあります。映画『武器人間』の監督として知られていますね。最初から、彼は本作の視覚的なイメージの中心人物になると感じていましたし、本当に素晴らしいデザインをしてくれました」と答えた。

劇中に登場する仮面をモチーフにした初日プレゼントをつけた観客たちとクローネンバーグ監督は笑顔で記念撮影し、イベントの最後にSYOから次回作について聞かれたクローネンバーグ監督は「詳しくは言えませんが、2つの企画が動いています。ひとつはスペースホラーです。『イベント・ホライズン』とゲームの「あつまれ どうぶつの森」をミックスしたような作品になりそうです。もうひとつは、J・G・バラードの小説「スーパー・カンヌ」の脚色です」と述べ、「今日は来てくださって本当にありがとうございました!みなさんの質問も本当に素晴らしくて、お話していて楽しくて最高でした。『インフィニティ・プール』が日本で公開されたことは僕にとって本当に重要なことです。改めてお礼を申し上げます」と感謝のメッセージを贈った。

『インフィニティ・プール』は新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷他絶賛公開中。

作品情報

インフィニティ・プール
2024年4月5日(金)新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ『アンチヴァイラル』『ポゼッサー』 /製作:NEON
出演:アレクサンダー・スカルスガルド『ターザン:REBORN』、ミア・ゴス『Pearl パール』、クレオパトラ・コールマン『月影の下で』、トーマス・クレッチマン『タクシー運転手 約束は海を越えて』、ジャリル・レスペール『イヴ・サンローラン』

2023年/カナダ・クロアチア・ハンガリー合作 / 英語 / 118分 / R18+ / 原題:Infinity Pool / 日本語字幕:城誠子 / 配給:トランスフォーマー

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公式サイト https://transformer.co.jp/m/infinitypool/

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