独自のスタイルとユーモア、その面白さはモンティ・パイソンと肩を並べる英国イーリング・コメディの代表作4本を上映する特集上映「英国イーリング・コメディの黄金時代」の開催が決定した。新宿K’s cinemaにて6月20日(土)~7月17日(金)の期間、日替わりで上映される。初日6月20日(土)には開催記念イベントとして、『カインド・ハート』上映後、編集者・映画批評家の高崎俊夫と『英国コメディ映画の黄金時代─『マダムと泥棒』を生んだイーリング撮影所』を翻訳した翻訳家の宮本高晴のトークも行われる。

イーリング・コメディとは、第二次大戦を間に挟む1930年代後半から50年代なかばにかけて、イギリスの大プロデューサー、マイケル・バルコンが主宰するイーリング撮影所でつくられた一連の喜劇映画を指している。その奇想に満ちた、皮肉たっぷりで洗練され、抑制が利いたユーモアの感覚は「バルコン・タッチ」とも称された。
当時、イーリング・コメディは欧米では人気を博したものの、日本では理解されにくいと判断され、劇場公開されたのは、後期につくられた『マダムと泥棒』(アレクサンダー・マッケンドリック監督、1955)一本のみであり、その全貌はずっと謎に包まれたままであった。
しかし、2010年、イーリング・コメディの歴史を綴った名著『英国コメディ映画の黄金時代─『マダムと泥棒』を生んだイーリング撮影所』(チャールズ・バー著、宮本高晴訳/清流出版)が刊行され、2016年には『ウィスキー・ガロア』が『ウイスキーと2人の花嫁』としてリメイクされるなど、かつて一世を風靡したモンティ・パイソンのシニカルな笑いのはるかなる源流としてイーリング・コメディがふたたび脚光を浴びつつあるのだ。
今回、上映されるのは、批評家が選ぶ英国映画史上のベストテンに必ずランクインされるロバート・ヘイマーの辛辣なブラック・コメディ『カインド・ハート』(1949)、鬼才アレクサンダー・マッケンドリックの乾いた批評精神が炸裂する『ウィスキー・ガロア』(1949)、『白衣の男』(1951)、ケイパー・ムーヴィーの古典として屹立するチャールズ・クライトンの『ラベンダー・ヒル・モブ』(1951)といずれもイーリング・コメディの代名詞ともいうべき傑作揃い。映画史上の伝説と化していた、幻のイーリング・コメディを再発見する絶好の機会となる。
作品紹介
『ウィスキー・ガロア』 Whisky Galore! 1949│82分│モノクロ
監督:アレクサンダー・マッケンドリック / 脚本:コンプトン・マッケンジー、アンガス・マクフェイル
出演:バジル・ラドフォード、キャサリン・レイシー、ジョーン・グリーンウッド

ナチス・ドイツによるロンドン空襲が激しさを増す第二次大戦下、戦況が悪化し、人々にとって“命の水”であるウイスキーの配給が停止されてしまう。そんな時にスコットランドの小島沖で、大量のウイスキーを積んだ貨物船SSポリティシャン号が座礁するという事件が起きる。『ウィスキー・ガロア』は、この1941年に起こった実話をもとに英国の作家コンプトン・マッケンジーが1947年に発表した同名小説の映画化である。5万ケース、約26万本のウイスキーを満載した貨物船が沈没する寸前、島民たちは、船長と乗組員を救助し、可能な限りのウイスキーを船から引き揚げて、島の洞窟に隠す。やがてそのウイスキーを回収しようとする関税消費税庁の役人がやってきて、島民たちとの丁々発止の攻防戦が繰り広げられる。本作は、近年、スコットランド出身のプロデューサー、イアン・マクリーンによって、『ウイスキーと2人の花嫁』(ギリーズ・マッキノン監督・2018)のタイトルでリメイクされ、公開されている。
『カインド・ハート』 Kind Hearts and Coronets 1949│102分│モノクロ
監督:ロバート・ヘイマー / 脚本:ロバート・ヘイマー、ジョン・ダイトン
出演:デニス・プライス、ジョーン・グリーンウッド、ヴァレリー・ホブスン

〈イーリング・コメディの孤峰〉と称される、日本ではほとんど紹介されることがなかった映画作家ロバート・ヘイマーの伝説的な名作。映画は、独房で回顧録を執筆しているルイ(デニス・プライス)の回想形式で語られる。ダスゴイン家という貴族の血をひくルイが、次々に親類縁者を殺害し、母親を勘当した一族への復讐を果たすという奇想天外なコメディで、映画史的には、フランク・キャプラの『毒薬と老嬢』(44)、『チャップリンの殺人狂時代』(47)、サッシャ・ギトリの『とらんぷ譚』(36)などのブラック・コメディと比較されるが、後味はまったく異なる。映画は、意想外な結末を用意する。殺害したダスゴイン家の未亡人イーディス(ヴァレリー・ホブスン)と婚約し、幸福の絶頂にいるルイに対して、幼馴染の愛人シベラ(ジョーン・グリーンウッド)が、ある究極の奸計を仕掛けるのである。まさに度肝を抜く展開となるが、ハスキーな声音で、冷酷で計算高い官能的なヒロインを演じたジョーン・グリーンウッドが強烈な印象を与えて忘れがたい。
『白衣の男』 The Man in the White Suit 1951│85分│モノクロ
監督:アレクサンダー・マッケンドリック / 脚本:ロジャー・マクドゥーガル、アレクサンダー・マッケンドリック、ジョン・ダイトン
出演:アレック・ギネス、ジョーン・グリーンウッド、セシル・パーカー、マイケル・ゴウ

〈マッド・サイエンティスト映画〉史上に燦然と輝く奇想に満ちた傑作コメディである。産業革命の先進国たるイギリスの繊維業界で働く科学者シドニー(アレック・ギネス)は、絶対に汚れず、いくら洗濯しても擦り切れない繊維を開発しようと日夜、実験に励んでいる。工場の一角に、怪しげな器具、装置をつくり、終始、無表情で、周囲の無理解にもまったく動じることがない。シドニーは社長(セシル・パーカー)と娘のダフネー(ジョーン・グリーンウッド)を後ろ盾にして、ようやく〈奇跡の繊維〉を完成させる。クライマックスは、労使双方が不気味な群衆と化して、深夜、純白の服を身に纏い、遁走するアレック・ギネスをじわじわと追い詰めてゆく悪夢のような場面で、フリッツ・ラングの『M』(31)のラストに匹敵する不気味さである。『白衣の男』は、資本主義抱える根本的な矛盾そのものを鋭く突いた社会諷刺の寓話である。
『ラベンダー・ヒル・モブ』 The Lavender Hill Mob 1951│78分│モノクロ
監督:チャールズ・クライトン 脚本:T・E・B・クラーク
出演:アレック・ギネス、スタンリー・ホロウェイ、シドニー・ジェイムズ、アルフィー・バス

名プロデューサー、マイケル・バルコンはイーリング撮影所の全盛期に、『凶弾』(50)、『波止場の弾痕』(51、いずれもバジル・ディアデン監督)といった銀行強奪もの、いわゆる〈ケイパー・ムーヴィー〉の秀作を連打したが、『ラベンダー・ヒル・モブ』(51、チャールズ・クライトン監督)は同時期に、同ジャンルをアイロニーに満ちた笑いで異化したイーリング・コメディの模範的な傑作である。謹厳実直を絵に描いたような、二十年ものあいだ銀行の金運搬係を務めてきたヘンリー(アレック・ギネス)は、仲間の土産物屋ペンドルブリー(スタンリー・ホロウェイ)と共謀し、金塊を強奪する計画を立てる。とりあえず成功し、金塊をミニチュアのエッフェル塔の文鎮に加工し、国外に密輸しようと目論む。ところが、パリのエッフェル塔のラウンジでイギリスから修学旅行でやって来た女学生の一団に間違って売られてしまい、予想もつかない展開にひたすら翻弄される羽目に─。冒頭、ワンシーン、ひと言だけだが、無名時代のオードリー・ヘプバーンが登場するのが、ひときわ印象的だ。
まとめ(注目ポイント)
- 特集上映「英国イーリング・コメディの黄金時代」が6月20日(土)より開催新宿K's cinemaにて7月17日(金)まで、英国コメディの源流となる代表作4本を日替わりで上映。
- マイケル・バルコン主宰のイーリング撮影所が製作した一連の喜劇映画1930年代後半から50年代に作られた、皮肉と洗練されたユーモアは「バルコン・タッチ」と称される。
- 英国映画史上のベストテンに選ばれる珠玉の傑作4本をラインナップ『カインド・ハート』『ウィスキー・ガロア』『白衣の男』『ラベンダー・ヒル・モブ』をスクリーンで上映。
- 初日の6月20日(土)には開催記念のトークイベントを実施『カインド・ハート』上映後、編集者の高崎俊夫と翻訳家の宮本高晴による特別トークショーが行われる。
英国イーリング・コメディの黄金時代
2026年6月20日(土)~7月17日(金)新宿K’s cinemaにて開催
配給:アダンソニア 宣伝・配給協力:ブライトホース・フィルム 企画協力&原稿:高崎俊夫 協力:仙元浩平 デザイン:千葉健太郎 字幕:上條葉月(『ウィスキー・ガロア』)




