パリ・モンマルトルを舞台に高校生が年の離れた大人の男性に恋をする、ひと夏の物語『スザンヌ、16歳』が現在ユーロスペースをはじめ全国順次公開中。9月4日(土)にオンラインティーチインが開催され、監督、脚本、主演を務めたスザンヌ・ランドンが登壇した。
スザンヌ・ランドンは、俳優のサンドリーヌ・キベルランと、ヴァンサン・ランドンの長女。2000年生まれ、現在20歳の超新鋭だ。15歳のときに本作『スザンヌ、16歳』の執筆を開始し、19歳でその映画化に着手。監督と主演の両方に初挑戦した。本作は、2020年カンヌ国際映画祭にてオフィシャルセレクションに選定認定され、その後、各国の映画祭で高い評価を受けている。
さらに彼女は映画の枠を超えて、セリーヌ(CELINE)のクリエイティブディレクター、エディ・スリマンによる“PORTRAIT”プロジェクトにモデルとして参加。さらにシャネル(CHANEL)のアーティスティックディレクター、ヴィルジニー・ヴィアールに新しいミューズとして抜擢されるなど、フランス国内のカルチャー&アートシーンで注目される存在となっている。
このたび開催されたティーチインでは、 編集者・ライターの小柳帝を聞き手に、本作の製作プロセスや裏話などについて語った。
本作は16歳の女子高生スザンヌと、年の離れた舞台俳優のラファエルのひと夏の恋を描く青春ラブストーリー。自身が15歳のときに書いた脚本を映画化したことについては「15歳で脚本を書きはじめた頃から監督も女優も前提に進めていました。元々女優をやりたいと思っていましたが、両親が共に俳優のため、女優をする正当性が欲しかったんです。自分で脚本を書いて自分で監督をするという形なら女優ができるだろうと思いました。さらにメッセージ性も強く生まれると考えました」とエネルギーに満ち溢れたコメント。
また、本作の自伝的な要素については「『スザンヌ、16歳』が第一作目で一本しか作っていないので十分に語ることはできないですが、すべての映画のもとになっている物語は誰かの人生の経験から来ていて、そこにフィクションを足して映画を作っていくのだと思います。自分をさらけ出すだけではおもしろくないと考えています。特定のシーンやセリフというよりは、映画の全体のカラー、そして感情や感覚が自分自身の体験から出ています。15歳の思春期真っ只中だったのでまさにそれを示したいと思ったのです。混乱する年代でもありますし、かと言って想像の世界を生きているわけでもない。孤独感とか、日常をつまらないと思ってしまうところとか、何でも知らなくてはいけない年齢だがわからないことはまだたくさんあって、自分の中で自分を探していく…。さらに周りの人との違いを感じ、息抜きを探している年代ですね。あとは家族との関係も描きたかったのです。往々にして親や友だちなどの周りとの対立が想像されますが、かならずしもそうではないあくまで普遍的なものを描きたかったのです」という自身の思春期と初監督作品として本作を描く上での向き合い方について丁寧に答えた。
2020年カルチャラタンのリセで過ごしていたスザンヌ。本作の舞台もモンマルトルを中心に映画の中でも重要なスポットとして描かれるアトリエ座(Théâtre de l’Atlier)が出てくる。「私はモンマルトルという場所というより、劇場にとてもこだわりがありました。私の映画の作風で好きなのは登場人物が少ないこと、そして限られた場所で作られているものが好きなんです。例えば、バカンスを過ごしている村だったり、あるいは家の中であったり。また今回の作品では限られた中でもパリをたくさん撮っていて、パリ自体が一つの登場人物としてもみられる。また劇場である、アトリエ座(Théâtre de l’Atlier)が好きなのはとっても身近な、人間サイズだからです。小さな家のようにアルノー・ヴァロアが住んでいてもおかしくないようなお家みたいな感じに映画を見ている方々にみせたかったんです。私自身は南東にある地方のプロヴァンスにとても綺麗で好きな劇場があるんですけど、自分が暮らしているということも含めてパリで撮りたいと思い、人間サイズのアトリエ座(Théâtre de l’Atlier)を選びました」というスザンヌ自身も身近に過ごしているパリ、そして自身が描きたいと思う映画像について話した。
また、イベントの最後には映画を鑑賞した人からの質問にも回答。「スザンヌとラファエルのこの後の関係はどうなっていくのでしょうか? また、スザンヌとラファエルの踊りにはどういう意味をこめましたか?」という質問には「“スザンヌとラファエルは今後どうなるか?”という質問は私の大好きな質問なのです!」と喜びつつ、「実は私自身、どうなるかわからないので、あのようなオープンなラストを選びました。みなさんにも想像していただいて、それぞれ続きを考えてもらえたらと思っています。私の解釈をお話しすると、スザンヌは、自分の学校生活や家庭生活から外に出る出会いを必要としていた。けれどもそれが実現したおかげで、かごから出た鳥のようになることができたんです。それで自然に自分の今までの元の生活にもどって、自分の年齢を生きることに自然に幸せを感じられるになったと思います。一方、彼の方は、スザンヌと一緒にいることですごく自由でいたけれど、それが終わることでまた大人の閉じられた世界に戻ることになる。そういう意味で彼女との出会いに最後の開放感のようなものを味わったんじゃないかと思います。そう考えていくと、この先、二人の出会いが続いていくことはないのかなという気がしています」と答えた。
また「ダンスに関しては、二人の愛情を感じている人たちの関係を、慎み深くピュアな形で互いを尊重しあう関係として描きたかったんです。一方で、禁じられた恋ではないし、年の差を強調したかったわけでもなかった。むしろ二つの人生の違う時期にありながら孤独を感じている人たちが出会って、愛情を感じるようになる。そういう二人の関係性は知的なもの過ぎてもいけないし、プラトニック過ぎてもいけないし、ある種の官能性も必要なのだけど、それを強調しすぎないようにする方法としてダンスを取り入れたわけです。なので二人がとても浸透しあっていることがダンスに出ていると思います。二人が同じことを考えていて夢のようでちょっとズレ感もあって、共通の言語が必要だと思ったので、そういったことをダンスで表しています」と映画で描かれるスザンヌとラファエルの関係性や、ダンスに込めた想いを語った。
スザンヌの可愛らしい笑顔と温かい空気感に包まれて、ティーチインイベントは幕を閉じた。
スザンヌ、16歳
2021年8月21日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
《STORY》スザンヌは16歳。同年代の友人たちに退屈している。恋に憧れはあるけれど、学校の男の子たちが魅力的とは思えない。ある日彼女は、劇場の前で年の離れた舞台俳優のラファエルと出会う。彼もまた繰り返される舞台や仲間たちとの付き合いに退屈していた。そんな二人はすぐに恋に落ちる。けれどスザンヌは、彼に夢中になればなるほど、不安にもなりはじめる。自分が思い描いていた“16歳の時”が、どこかに消えていってしまいそうで…
2020年/フランス/77分/原題:16 Printemps(Seize Printemps)
【キャスト】スザンヌ・ランドン、アルノー・ヴァロワ(『BPMビート・パー・ミニット』)、フレデリック・ピエロ、フロランス・ヴィアラ、レベッカ・マルデール
【スタッフ】監督・脚本: スザンヌ・ランドン 編集:パスカル・シャヴァンス、音楽:ヴァンサン・ドレルム
公式HP:suzanne16.com
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