1980年代のイギリスを舞台にHIV/エイズに翻弄されるゲイの若者たちの10年を描いた海外ドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』で主演を務めたオリー・アレクサンダーが日本のためにオンラインでインタビューに応えた。世界的人気ミュージシャン「イヤーズ&イヤーズ(Years & Years)」としての活動でも知られ、LGBTQ+アクティビストとしても活躍している期待のアーティストだ。
「スターチャンネルEX」にて全話独占配信中の『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』(全5話)は1980年代ロンドンに生きるゲイの若者たちが、HIV/エイズに関する正しい情報と理解が少ない社会に翻弄されながらも明るくお互いを支えあいながら生きる様を描き、空前の大ヒットを引き起こした海外ドラマ。
先日発表された英エンパイア誌、英ガーディアン紙それぞれが選ぶ2021年テレビ作品第1位という二冠に輝き、米ニューヨーク・タイムズが選ぶ2021年テレビ作品ベスト10にも選出されるなど高い評価を獲得した。その勢いは留まるところを知らず、世界中で拡大中だ。
先日1月21日には本作の主演であるオリー・アレクサンダーの音楽アーティスト名義であるYears & Yearsが3年ぶりとなる新アルバム“Night Call”を発売。SIRUPを迎えた「スターストラック(SIRUPリミックス)」も収録され、日本でも大きな話題に。本作への出演経験からも大きな影響を受けたという待望の新作にも熱視線が注がれている。
今回、そんなオリー・アレクサンダーがオンライン・インタビューに応じた。英国で放送開始されてからHIV検査数が記録的に伸び、社会現象を巻き起こした本作が、今のコロナ禍で放送・配信される意味について、また役柄と自身がリンクする部分などについてたっぷりと語っている。
――あなたが生まれたのは90年代ですね? あなたから見て、80年代はどのような時代でしょうか?
「私が子どもの頃、80年代というのは、“ダサいファッションや髪型の時代”と言う見方が一般的でした。でも、90年代から2000年代前半に子ども時代を過ごした私個人的には、80年代はスーパークール(とってもかっこいい)だと思っていました。自分が体験できなかった時代ですからね。エレクトリック・ミュージック(電子音楽)やシンセサイザーなど、ぶっ飛んだ文化が主流でしたし、インターネットが普及する前、本格的なデジタル時代が始まる前ですから、そういった意味でもノスタルジーを感じますし、愛着を感じます」
――英国にとって80年代とはどのような時代だったのでしょうか?
「英国の80年代といえば、マーガレット・サッチャー(首相)で、彼女は、緊縮財政政策を推し進め、英国社会はその影響を大きく受けました。ですから、国自体は貧しかったのですが、社会的・経済的な活動自体は活発でした。ゲイのコミュニティにとって80年代は、非常に重要な時代だったと言えます、もちろんHIVの蔓延がその主な理由です。80年代の当初、HIVという病気に対して一般社会は誤解や偏見を持っていましたし、また、ゲイやクィアであることの意味を知ったり、彼らに対する理解もまだ進んでいませんでした。“恐れ”が時代を包んでいた、と言えますね」
――当時、LGBTの人々の人権は尊重されていませんでしたか?
「そうですね、LGBTの人々に対する保護というものは殆どありませんでした」
――このドラマが英国で放送開始された後、HIV検査数が記録的な伸びを見せたそうですね。社会現象を巻き起こした作品だと言えると思います。この作品が、今の時代に放たれる意味についてあなたの考えを教えてください。
「社会現象が起こることや、実際に放送される時期に今の様なコロナの状況になっているなんて、撮影段階ではキャスト・スタッフは誰も予想できませんでした。コロナという社会状況があってもなくても、このドラマが伝えるHIVのストーリー、そして、当時HIVがLGBTコミュニティに与えた影響を伝えるこのドラマの本質は変わりません。ただ、放送がコロナ禍と重なったことで、英国人はこのドラマをより自分ごととして受け入れることができたと思っています。今、皆が死に至るウィルスの蔓延を体験しているからです。もちろん、(コロナの影響は)当時HIVが与えた影響とは異なるのですが、とはいえ、80年代HIVの脅威にさらされていた人々について、自分ごととして考えやすくなったのではないでしょうか。このドラマは、英国内で大きな反響を呼び、様々な意見も交わされました。HIV検査キットの1週間の注文数が、史上最高を記録したり。とにかく、これだけの反響があったというのは、信じられない事ですね」
――役柄と、自分の人生がリンクする部分はありましたか?
「(役柄の)リッチーと私自身は似ている部分が多いと思います。役者を目指している点、18歳の時にロンドンに移住した点、大きな夢を持っている点など。そのような部分はまさにリンクしています。リッチーは、一角の人物になりたいと思っています。演技をしたり、ステージに立って輝きたいのです。それもまさに私が持っていた夢と重なる部分です。もちろん、彼とは違う部分もあるんですが、そういう部分でさえも、例えば、リッチーの言動の理由など、理解するのはとても容易でした」
――ドラマの中ではリッチーの様々な面が描かれています。あなたが彼に共感できる部分や共通項など、もう少し具体的に教えてください。
「リッチーは常に隠し事を持っている人です。自分のセクシャリティ(性的傾向)を家族に隠していたり、HIV陽性診断を受けた時は、仲間たちにそれを隠していました。現実をそのまま受け入れようとしない人なんですね。そういった傾向の大きな原因は、自分のセクシャリティに対する恥の感情だと思います。だから、自分をオープンに表現することができない。その感情は、私が若い頃に持っていたものと同じなんです。私自身も、ゲイである自分が嫌で、自分ではない他の誰かになろうとしていました。リッチーは、グループの注目を浴びるためにジョークを言ったりします、それは、自分の本心を隠すことが目的なのですが、私も以前はそのような行動をよくとっていました。その部分は彼に特に共感できますね。また、彼は時々とても自己中心的な言動をとるのですが、そんな時は彼の仲間たちが彼を諭してくれるんですね。リッチーは仲間たちのことを愛しているんですが、彼らに対して失礼な態度をとることがあるんですよ。そういった彼の部分に関しては、私個人的にはちょっとうんざりしましたね。仲間達に対する思いやりに欠けている部分とか。なぜなら、私自身はもっと思いやりのある人間だと思っているので(笑)。とはいえ、私にとってリッチーの一番の魅力は彼の複雑な人間性ですね。まあ、人は誰でも複雑な内面を持っているものですけど。ただ、そういう複雑さを感じられるというのは、ドラマの中のゲイのキャラクターとしては珍しいと思うんですよ」
――リッチーは、自分の感情や欲求に常に正直に人生を謳歌するキャラクターとして印象的でした。リッチーを演じた経験は、オリーさん自身の演技や、新しいアルバム、アーティストとしての活動に影響を与えましたか?
「大いに影響を受けました。『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』というドラマでリッチーを演じることは、アーティストとして、私がこれまで持っていなかった創作プロセスを私に与えてくれました。音楽を作り、ツアーを回る活動とは全く別の体験でした。陽気なリッチーというキャラクターの役作り、ですね。彼は、とにかく人生を謳歌したい。おしゃれが重要で、いろんな人と寝たい、グループの中心でありたい、そんな人です。役作りは簡単ではありませんでしたが、とても楽しかったですよ。撮影現場で80年代の素晴らしい音楽をよく聴いていたのですが、そこからインスピレーションや、やる気を得ることができました。このドラマのストーリーが持つ強力なメッセージ性にも影響を受けましたし、とても素敵な撮影チームや共演者からの影響ももちろんあります。ドラマの様々な要素から、とても良い影響を得ることができました」
IT’S A SIN 哀しみの天使たち
(全5話)
スターチャンネルEXにて全話独占配信中
ストーリー
1981年ロンドン。同性愛者のリッチー、コリン、ロスコー、アッシュと彼らの親友ジルの5人が、ピンクパレスと名付けたアパートで共同生活を始める。様々な葛藤を抱えながらも楽しく暮らす5人だったが、HIVの感染が急激に拡大し仲間が次々とエイズを発症していく。『ドクター・フー』を手がけたラッセル・T・デイヴィスがHIV/エイズに関する正しい知識が少ない時代に支え合い明るく生き抜いた若者たちを描くドラマ。
【製作総指揮・脚本】ラッセル・T・デイヴィス 【監督】ピーター・ホアー
【出演】オリー・アレクサンダー、リディア・ウエスト、ナサニエル・カーティス、オマーリ・ダグラス、カラム・スコット・ハウエルズほか
© RED Production Company & all3media international
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