1970年代はじめから現在に至るまで精力的に活動を続けるアメリカの実験映画作家ジェイムズ・ベニングによる最新作『アレンズワース』を含む8作品の特集上映が「ジェイムズ・ベニング2023 アメリカ/時間/風景」として、10月7日(土)より1週間、シアター・イメージフォーラムにて開催されることが決定した。あわせてメインビジュアルも解禁となった。
70年代初頭から今にいたるまで、50年以上にわたって精力的に活動を続ける実験映画作家、ジェイムズ・ベニング。カメラと録音機材を持ち現地に赴き、撮影、録音し、編集も一人で手掛けるという個人制作のスタイルで、現在に至るまで短編から長編映画作品、インスタレーションも含め60本以上の作品を世に送り出している。
主に固定されたカメラによって撮影され、計算し尽くされたショットが紡ぐ映像。中には、同じ分数のショットが続いていく構造映画的な側面も持ち合わせた作品もあり、その作風はまさに唯一無二だ。
スクリーン上で、ベニングにより切り取られた風景とそこに流れる時間を観る者は、彼の「実験映画作家」という呼称を忘れ、この作家が捉えたアメリカの歴史と精神的な風土を体感することになる。
『ソゴビ』『11×14』でのワンシーンによるメインビジュアルでは、「映画」だけが私たちに与えることができる不思議な時間体験を予感させる。
今回の特集では第73回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品された『アレンズワース』を含む彼の代表的作品、以下8作品の上映となる。
・『11×14』(原題:11×14/1976年/80分/)
・『ランドスケープ・スーサイド』(原題:Landscape Suicide/1986年/95分)
・『セントラル・ヴァレー』(原題:Valley Centro/1999年/90分)
・『ロス』(原題:Los/2000年/90分)
・『ソゴビ』(原題:Sogobi/2002年/90分)
・『RR』(原題RR/2007年/110分)
・『キャスティング・ア・グランス』(原題:casting a glance/2007年/80分)
・『アレンズワース』(原題:Allensworth/2022年/65分)
各作品概要
『11×14』
ベニング初の長編映画である『11×14』(印画紙の寸法)は、その前に撮られた短編映画『8 ½×11(タイプ用紙の寸法)の発展形で、生まれ育ったミルウォーキーやシカゴの町やその郊外、高架鉄道や高速道路といった、主にフィックスで撮られた66の風景(ショット間には黒味が挟まれる)からなる作品。風景だけではなく、人々が、それも同じ人物が何度か別の場面で登場することで、そこにある種の物語を読み取ることもできるかもしれない。二度流れる曲は、ボブ・ディランの「ブラック・ダイアモンド湾」。
『ランドスケープ・スーサイド』
ベニングが描いた“風景の犯罪”。二つのセンセーショナルな犯罪が描かれる。カリフォルニアで15歳の少女がクラスメートを刺殺した事件。もう一つは有名なウィスコンシン州で起きた農夫エド・ゲインが3年間で15人を殺害した連続殺人事件(トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』やアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』のモデルとなった)。『11×14』(1977)、『One Way Boogie Woogie』(1977)などで追求した映画の物語性と、風景を通してドキュメンタリー的に目撃される“アメリカの夢”の暗部が結びつく。
『セントラル・ヴァレー』
カリフォルニアの内陸部の大半を占めるグレート・セントラル・ヴァレー 。全長700キロ、幅100キロに及び、アメリカ全土の1/4に食料を供給している。その広大な土地を所有するのは石油会社や農業関連の大企業だ。ベニングはその風景を16ミリフィルムの1リール分(2分半)をフィックスの1ショットで撮影し、35ショットで構成したポートレートとした。そこに写される殺風景な荒地は、全て企業の所有物であることが最後に明かされ、注意深く見れば労働者の多くは移民であることが分かる。風景の中に込められた政治性が重要な要素となっているベニングの代表作の一本。
『ロス』
ベニングが『セントラル・ヴァレー』の完成間近になって、姉妹編として構想をはじめた作品。『セントラル・ヴァレー』の都市バージョンとしてロサンゼルスを描いている。セントラル・ヴァレーが水源となってロサンゼルスに水が流れていくことから、全体でこの地域の水利の状況を描く構造にもなっている。『セントラル・ヴァレー』のラストショットのホイーラー・リッジのショットは、この『ロス』のファーストショットのマルホランドの排水溝へと繋がっている。
『ソゴビ』
『セントラル・ヴァレー』『ロス』と、<郊外>から<都市>のポートレートを作り終えたベニングは、カリフォルニア全体を見渡すためその<自然>を捉えた本作を作り、同じ2分半×35ショットの構造を持つ『ソゴビ』を完成させ、この3本で「カリフォルニア・トリロジー」という3部作とした。カリフォルニアの自然を見つめ、そこに耳を傾けた本作のタイトル『ソゴビ』は、ネイティブ・アメリカン、ショショーニ族の言語で“大地”を意味する。最初のショットは『ロス』のラストショットと繋がっており、最後のショットは『セントラル・ヴァレー』の最初のショットと繋がり、3部作全体で相互のショットが関連するパズルのような構造をなしている。
『RR』
『RR』(Rail Roadの頭文字を並べたもの)とは、『キャスティング・ア・グランス』の撮影の行き帰りなど、ベニングが20州近くを旅して216本の列車を撮影し、その中から43本のショットを並べた作品だ。一つのショットの長さは、列車がフレームの片方から、もう片方まで走り抜けるまでとし、中には数両で終わるものもあれば、11分にも及ぶものもある。アメリカの開拓の歴史は、鉄道敷設の歴史でもあるが、今では列車が運ぶのは人ではなく物である。ここでも撮影された列車の大半は貨物列車だ。映画の後半、カリフォルニア州ネルソンの稲作地で流れる曲は、ウディ・ガスリーの「我が祖国(This Land Is Your Land)」。
『キャスティング・ア・グランス』
現代美術家のロバート・スミッソンが、1970年にユタ州のソルトレイクに作ったランドアート作品「スパイラル・ジェティ」を、ベニングが2005年から2年の間に16回この地を訪れて撮影した映画。この作品は、その後、湖の水位の変化により、水没したり現れたり、またその色も変化したが、ベニングは、35年間にその作品の辿った軌跡を16回の撮影でシミュレートした。ベニングには珍しく、ロングだけでなくクロース・ショットもある。カーラジオらしきものから流れる曲は、スミッソンが亡くなった73年に録音されたエミルー・ハリスとグラム・パーソンズによる「ラヴ・ハーツ」。
『アレンズワース』
ベニングの最新作。アレンズワースとは、1908年に作られた、カリフォルニア州初のアフリカ系アメリカ人によって統治された自治体だったが、第一次大戦後、多くの住民が離れ荒廃した。現在では、当時の歴史的建造物の復元・修復が行われているが、ベニングは一年にわたって毎月一棟、無人の建物に5分ずつカメラを向ける。唯一の例外は、ある女生徒が、公民権運動家だったエリザベス・エクフォードのワンピースのレプリカを身につけ、ルシール・クリフトンの詩を朗読するシーンだ。その演出によって、小さなコミュニティの物語が黒人の歴史全体と交差する。ニーナ・シモンとレッドベリーの歌が、吹きっさらしの土地に、幻のようにこだましている。
ジェイムズ・ベニング2023 アメリカ/時間/風景
2023年10月7日(土)~13日(金)シアター・イメージフォーラムにて1週間限定上映
上映作品
・『11×14』(原題:11×14/1976年/80分/)
・『ランドスケープ・スーサイド』(原題:Landscape Suicide/1986年/95分)
・『セントラル・ヴァレー』(原題:Valley Centro/1999年/90分)
・『ロス』(原題:Los/2000年/90分)
・『ソゴビ』(原題:Sogobi/2002年/90分)
・『RR』(原題RR/2007年/110分)
・『キャスティング・ア・グランス』(原題:casting a glance/2007年/80分)
・『アレンズワース』(原題:Allensworth/2022年/65分)
主催:コピアポア・フィルム+ダゲレオ出版
公式サイト jb2023.com
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