10月26日(月)~11月4日(水)に開催される「第39回東京国際映画祭(TIFF)」の、黒澤明賞の受賞者とエシカル・フィルム賞の審査委員長が決定した。黒澤明賞には呉美保監督とモハマド・ラスロフ監督、エシカル・フィルム賞の審査委員長には俳優の磯村勇斗が選出された。

黒澤明賞は、日本が世界に誇る黒澤明監督の業績を後世に伝えるとともに、世界の映画界に貢献した映画人や、映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞。2022年に株式会社カプコンの協力を得て、14年ぶりに復活した。第38回では李相日監督とクロエ・ジャオ監督が受賞している。
第39回は、山田洋次監督、李相日監督、芦澤明子、市山尚三東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの4名が選考委員を務め、呉美保監督とモハマド・ラスロフ監督の受賞が決定した。
呉監督は大阪芸術大学卒業後、大林宣彦事務所を経てスクリプターとして映画制作に携わり、2006年の『酒井家のしあわせ』で長編映画監督デビュー。『そこのみにて光輝く』(14)ではモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞するなど、国内外で高い評価を獲得した。出産・育児を経て、2024年の『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で9年ぶりに長編映画監督として本格復帰。最新作『ふつうの子ども』(25)では、子どもたちのありのままの生命力をすくい取る演出が評価されている。

選考委員は授賞理由について、「2006年に『酒井家のしあわせ』で長編映画監督デビューした後、一貫して社会の片隅に生きる人々を善悪で判断せず、多面的に見つめる作品を作ってきました」と評価。「特に、近作の『きみはいい子』、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、『ふつうの子ども』では、子供たちをありのままに描く演出が高く評価されました」として、今後のさらなる活躍への期待を込めて授賞する。
一方のモハマド・ラスロフ監督はイラン出身。政府による検閲や禁固判決、製作禁止処分などに直面しながらも映画制作を続けてきた。2020年の『悪は存在せず』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。2024年の『聖なるイチジクの種』では第77回カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞し、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた。

選考委員は、『悪は存在せず』『聖なるイチジクの種』について、抑圧する側の人間も一人の市民であるというヒューマニズムの観点に立った作品と評価。また、さまざまな圧力に屈せず創作活動を続けてきたことも授賞理由として挙げている。
呉監督は受賞について、「初監督作から20年の節目に、この上ない賞を賜り、驚きとともに身に余る思いです。2010年にいただいた新藤兼人賞は、映画を作り続ける大きな支えとなりました。牛歩ではありましたが、図らずも黒澤明賞に辿り着け、なんと幸福な映画人生だろうと喜びを噛みしめています。この受賞は決して私一人のものではありません。これまで出会ったすべてのスタッフ、キャスト、映画館へ足を運んでくださった観客の皆さま、そして山田洋次監督をはじめ、私を見つけてくださった選考委員の皆さまに、深謝申し上げます。最後に、毎日とっ散らかっている私を見放さずにいてくれる息子たちと夫へ、心からのありがとうを」と感謝を寄せている。
また、ラスロフ監督は「黒澤明賞を授与いただき、大変光栄に存じます。黒澤監督の映画は、人間のあり方や、危機に直面したときに私たちが迫られる倫理的な選択についての深い考察となっています。人間、自然、そして世界に対する独自の視点を持ち、ダイナミックかつ探求心に富んだ映像の語り手であった黒澤監督の作品は、映画の世界において今なお尽きることのないインスピレーションの源であり続けています」と敬意を表した。
なお、黒澤明賞に関連して「黒澤明の愛した映画」と題した上映企画も実施。『サーカス』(1928)、『姿三四郎 4Kデジタルリマスター版』(1943)、『生きる 4Kデジタルリマスター版』(1952)、『友だちのうちはどこ?』(1987)の4作品が上映される。
エシカル・フィルム賞は、映画や映像作品を通して、環境、貧困、差別などの社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的に、2023年に住友商事株式会社の協力によって新設された。TIFFにエントリーされた新作から「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」というエシカルの理念に合致する3作品をノミネートし、審査委員会が受賞作を決定する。
本年度の審査委員長には、俳優の磯村勇斗の就任が決定。磯村は近年、地元・静岡で「しずおか映画祭」を主催するなど、映画を通じた地域活性や持続可能な文化活動にも取り組んでいる。また、若い世代にも関心を持ってもらうため、TIFFの現役大学生によるPRチーム「学生応援団」から選抜された3名も審査委員を務める。

本年度のエシカル・フィルム賞には、『アマデオともうひとつの新世界』『夢から醒めることはそうない』『時と潮』の3作品がノミネート。受賞作の授賞式と、磯村が登壇するトークセッションは11月2日(月)に開催予定で、詳細は後日公式サイトなどで発表される。
磯村は審査委員長就任にあたり、「今日、私たちは小さな画面の中で膨大な情報に触れ、短い時間で「知ったつもり」になり、答えだけを求めるようになっている気がします。しかし、社会課題への意識や理解を深める上では、その答えに至るまでの過程が大切だと感じています。映画には、その過程を誰かの人生や感情を通して体験させ、私たちを立ち止まらせてくれる力があります。それぞれの監督が込めた想いや願いを、私自身もしっかりと胸で受け止め、ともに考えていきたいと思います」と意気込みを語った。
まとめ(注目ポイント)
- 黒澤明賞に呉美保&モハマド・ラスロフ呉美保監督とモハマド・ラスロフ監督の2名が第39回の受賞者に決定。
- 磯村勇斗が審査委員長にエシカル・フィルム賞の本年度審査委員長に俳優の磯村勇斗が就任。
- エシカル賞ノミネートの3作品が決定『アマデオともうひとつの新世界』など3作品がノミネート。
- 黒澤明ゆかりの4作品を上映『サーカス』『姿三四郎』『生きる』『友だちのうちはどこ?』を上映。
- 第39回TIFFは10月26日開幕2026年10月26日から11月4日まで、10日間の日程で開催。
第39回東京国際映画祭/TIFFCOM 2026 開催概要
【第39回東京国際映画祭】
開催期間:2026年10月26日(月)~11月4日(水)【10日間】
■主催:公益財団法人ユニジャパン
公式サイト www.tiff-jp.net
【TIFFCOM 2026】
開催期間: 2026年10月28日(水)~10月30日(金)【3日間】
■主催:経済産業省、総務省、公益財団法人ユニジャパン
公式サイト tiffcom.jp



