「香港映画祭2021」が11月27日(土)から12月30日(木)まで全国5都市にて初開催されることが決定した。香港を知る、香港を楽しむ、いま観るべき7作品が上映される。大阪シネ・ヌーヴォを皮切りに、出町座(京都)、元町映画館(兵庫)、名古屋シネマスコーレ(愛知)、ユーロライブ(東京)にて開催。
2020年に施行された「香港国家安全維持法」により、香港の映画への検閲、規制はますます厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まる事態が懸念されている。しかしそうした中でも、社会の変化を反映し、映画人たちの豊かな感性によって、多くの魅力ある作品が生み出されている。2021年6月より開催された、「2021年香港インディペンデント映画祭」は全国3都市において開催され、大きな話題を呼んだ。
今回、初開催となる「香港映画祭2021」は、より香港映画の面白さと、多様な魅力を味わえる、日本初公開となる7作品をラインナップ。5作品が新人監督の作品でありながら、ジャッキー・チュン、カリーナ・ラムなど、香港を代表するベテラン俳優が出演しており、香港映画ファン必見だ。
この機会に激動の香港、そして魅力あふれる香港映画の面白さを体感してみよう。
香港映画祭2021に寄せて
香港の言論と表現の自由が、中国により益々厳しくなっていると、最近懸念されている。もちろん映画業界への影響も計り知れない。特にクリエイターやスタッフ、俳優たちは香港映画の独自性とアイデンティティーについて、より深く考え始めている。また、従来の映画会社も娯楽だけのメジャー映画ではなく、もっと香港人の日常生活に寄り添うような映画を企画・製作するようになってきている。政治的な影響は、皮肉なことに香港映画の製作形態、内容、ジャンルをさらに豊かに、さらに強靭にした可能性がある。香港映画の魅力はエンターテインメントだけではなく、社会の変化、日常生活の問題などに真剣に取り組むという温かい眼差しであり、さらにその豊かな表現力の中にある。初開催となる「香港映画祭2021」は、最近の香港の変化を反映して作られた商業映画を紹介し、香港映画のアイデンティティーを強く意識した映画たちに焦点を当てる。上映される7作品の内、新人監督のデビュー作が5作品も含まれている。香港のベテラン、スター俳優の新たな魅力を引き出した、新人監督たちの力量には驚くべきものがある。本映画祭の開催により、ぜひ香港映画の底力を感じていただき、日本の観客にもっと香港映画の魅力を知ってもらい、香港と日本の文化交流がより深く、より豊かなものになればと期待している。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により、地方のミニシアターの経営と番組編成が大変厳しくなっているのも事実である。関西と名古屋のミニシアターと本映画祭を共催することにより、映画文化の多様化に貢献するだけでなく、少しでも映画館が活気を取り戻して、盛り上げることができれば、まさしく本望である。
リム・カーワイ(映画監督・香港映画祭2021キュレーター)
上映作品概要・7作品 ※全作品日本語字幕有
【A】酒徒
《酒徒》2016年/106min
【監督】フレディー・ウォン 【出演】チャン・グオチュー、アイリーン・ワン、ジョーマン・チャン (C)香港映画祭2021
◆釜山国際映画祭、バンクーバー国際映画祭、他
1960年代の香港、小説家のラウは生活のために、作家として認められないジャンルである武侠小説、官能小説を書く。引っ越す度に、彼は多くの個性的な女性と出会い、恋に落ちる。女と酒に溺れた彼は、徐々に人生の深淵に落ちていく…。香港文学の最高峰のひとつで、香港では意識の流れの手法を最初取り入れた小説として知られる、劉以鬯(ラウ・イーチョン)の「酒徒」の完全映画化。香港映画評論界の重鎮、フレディー・ウォンの長編デビュー作。ダメ男のラウを演じきったチャン・グオチュー(『牯嶺街少年殺人事件』)の演技から目が離せない。また1960年代の香港を見事に再現した、美術や衣裳なども映画の見所だ。
【B】幸福な私
《幸運是我 》2016年 /113min
【監督】 ロー・イウファイ 【出演】カラ・ワイ、カルロス・チャン (C)香港映画祭2021
◆バルセロナ国際映画祭最優秀女優賞
チャン・カイヨク(ヨク)は幼い頃に両親が離婚し、母と共に広州へ引っ越した。母を病気で亡くしたあと、父の住む香港に戻るヨク。社会の底辺をさすらう中、認知症を患うツェー・ユエンファン(ファニー)と出会い、彼女のアパートに転がり込むことに。年齢も人生経験も全く違う二人が不思議な同居生活を始め、反発し合いながらもやがて互いを受け入れていく。脚本家ロー・イウファイ の感動的な監督デビュー作。香港映画を代表する大女優のひとり、カラ・ワイは本作で3度目の香港アカデミー賞最優秀女優賞を受賞した。
【C】深秋の愛
《愛在深秋》2016年/98min
【監督】リム・カーワイ 【出演】アイリーン・ワン、パトリック・タム、シャーメイン・フォン (C)香港映画祭2021
◆マカオ国際映画祭最優秀女優賞
結婚10周年の日に、香港のセレブ女優が上海へ美術商の夫に会いに行く。夫と秘書との不倫に気付いた彼女は、その裏切りを受け入れられない。落ち込んだ彼女は夜の上海・外灘で、タクシー運転手と出会う。傷心のセレブ女優と、偶然出会ったタクシー運転手の桂林への逃避行を描くロードムービー。全編に散りばめた文学的なナレーションと、桂林の美しい景色が相まって、彼女の心境の変化と共に切なさを誘う。名匠スタンリー・クワンのミューズとして知られたアイリーン・ワンが久々にスクリーンに戻ってきた、記念すべき主演復帰作。香港の大手映画会社エンペラーが製作し、日本でシネマ・ドリフターとして知られるマレーシア人映画監督リム・カーワイの幻の日本未公開作。
【D】暗色天堂
《暗色天堂》 2016年/101min
【監督】ユエン・キムワイ 【出演】ジャッキー・チュン、カリーナ・ラム、アンソニー・ウォン (C)香港映画祭2021
◆台湾ファンタジー映画祭、他
多くの尊敬を集め、社会的な名声が高い牧師が、女性の部下にセクハラで訴えられ、地位も名誉も瞬時に失った。5年後、二人はある集まりで偶然再会する…。過去を振り返ると二人は平行線をたどるように見えたが、ラストは我々の想像を超える真相が明らかになる。香港の人気劇作家、荘梅岩の舞台劇「フレンチキス」の映画化。スキャンダラスな内容はもちろん、スター俳優、ジャッキー・チュンとカリーナ・ラムが、巨匠アン・ホイ監督の『男人四十』以来、久しぶりに共演したことも話題をさらった。二人の全身全霊の演技合戦は必見!ユエン・キムワイ監督はカリーナ・ラムの夫でもある。
【E】最初の半歩
《點五步》2016年/95min
【監督】スティーブ・チャン 【出演】リウ・カイチー、ラム・イウシン、トニー・ウー (C)香港映画祭2021
◆香港国際映画祭、香港アカデミー賞、他
1984年、英中共同声明が発表されて、香港の中国返還が決まった。未来が不明瞭になった中、香港初のユース野球チームが発足した。10名の野球選手たちは、試合では次々と失敗を繰り返すが、香港の歴史、運命と共鳴するかのように、時代に翻弄されながらも、常に諦めるか続けるかという心の葛藤と戦っていく。やがて、最大のライバル、日本の野球チームとの対戦の日が来た…。新人監督スティーブ・チャンの長編デビュー作ながら、香港版『KANO ~1931 海の向こうの甲子園~』と言われる、スポーツ青春映画の傑作。瑞々しい新人俳優たちと香港最高の俳優の一人で、先日急死したリウ・カイチーの胸に迫る熱演は涙なしでは見られない。
【F】夢の向こうに
《幻愛》2020年/120分
【監督】キウィ・チョウ 【出演】テレンス・ラウ、セシリア・チョイ (C)香港映画祭2021
◆台北国際映画祭、香港アカデミー賞、他
統合失調症から回復したロックは小学校の先生になった。彼は美しいヤンヤンと出会い、彼女に一目惚れするが、自分の病気を打ち明けるか苦悩する。躊躇する中で、彼はまた病気になり、幻覚に取り憑かれるように。そして彼女の存在に疑いを持ち始め…。社会派と言われ、『十年』やカンヌ国際映画祭でサプライズ上映された『時代革命』のような政治的な話題作を作ってきたキウィ・チョウ監督が、本作で初めてラブストリーに挑戦した。2020年度香港映画として最高の興行収入を打ち出し、香港アカデミー賞にも数多くノミネートされ、コロナ禍が続いた香港において、輝かしい功績を残した。
【G】夜の香り
《夜香、 鴛鴦 、深水埗》2020年/78min (C)香港映画祭2021
【監督】ミンカイ・レオン、ケイト・ライリー
【出演】グレゴリー・ウォン、 ラム・イウシン
◆ロッテルダム国際映画祭、香港インディペンデント映画祭、他
四つの短編映画から構成されたオムニバス。
『禁断の都市』(原題:出城記)世代が異なる二人の女性移民が、田舎から都会へ出かけようとするが…
『玩具物語』(原題:玩具故事)性格が異なる二人の兄弟が、母が経営する玩具の店で宝探しを始める…。
『鴛鴦(ユンヨン)』(原題:鴛鴦)専門分野が異なる二人の中学校教師が、香港、九龍、新界でグルメ巡りをする。最後に辿り着く先は…。
『深水埗(サムソイポー』(原題:It’s not gonna be fun)深水埗の区選挙では民主派の女性が立候補して、親中派に真っ向から挑戦する。
タイの女性監督アノーチャ・スウィチャーゴーンポンとずっとタッグを組んできた、香港人撮影監督レオン・ミンカイ待望の初監督長編。
香港映画祭2021
■期間・会場
2021年11月27日より全国5都市にて順次開催
11月27日(土)~12月3日(金)シネ・ヌーヴォ(大阪)
12月3日(金)~12月9日(木)出町座(京都)
12月11日(土)~12月17日(金)元町映画館(兵庫)
12月18日(土)~12月24日(金)シネマスコーレ(愛知)
12月29日(水)、30日(木)ユーロライブ(東京)
■プログラム
香港を知る、香港を楽しむ、いま観るべき、日本初公開となる珠玉の7作品をラインナップ。上映スケジュール等詳細は、公式HPをご覧ください。
主催:香港映画祭実行委員会
助成:文化庁、ARTS for the future
協力:Golden Scene, Emperor Motion Pictures, Connoisseurs Production
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