現代ドイツを代表する映画監督ヴィム・ヴェンダースの作品を収録した『ヴィム・ヴェンダース ニューマスターBlu-ray BOXⅠ』が2022年4月27日(水)にリリース。その前日に行われた収録Blu-rayの視聴&トークイベント「ヴィム・ヴェンダース ニューマスターBlu-ray BOX I Relase Party!!」の様子をお届けする。
2022年4月27日に発売された『ヴィム・ヴェンダース ニューマスターBlu-ray BOX I』は、ドイツ出身の世界的な映画作家ヴェンダース監督が、自身の財団によって4Kまたは2Kの解像度で修復した初期4作品を収録。その発売記念イベント「ヴィム・ヴェンダース ニューマスターBlu-ray BOX I Relase Party!!」が、発売前日の4月26日(火)に代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」にて開催された。
イベントに登壇したのは『BOX I』のみならず、6月、7月に順次発売される『BOX II』『BOX III』にも収録される全12作品の音声すべてを日本版Blu-rayのためにマスタリングしたサウンド・エンジニア、オノセイゲンと、映画評論家でレーベル「boid」「Voice Of Ghost」を主宰し、「爆音映画祭」の仕掛け人としても知られる樋口泰人。3BOXすべての封入ブックレットで、音楽好きのヴェンダースが各作品で使用した既成楽曲の解説も執筆している。
共に大のヴェンダース・ファンであり、またプロフェッショナルとして音響に対するこだわりを持つ2人だけに、マニアックかつ熱いトークが展開した。
過去に坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』などの録音エンジニアとしても活躍し、坂本の諸作やジャズ、ブラジル音楽ほか歴史的名盤のリマスターにも定評のあるオノは、クラシック名画のBlu-rayの音のマスタリングも手掛けている。イベントでは、今回のヴェンダース作品のマスタリングでは、元のサウンドの魅力を最大限に引き出すために、通常の映画作品ではあまり使うことのない真空管のアナログ機材なども駆使したと言い、仕上がった音はベルリンにいるヴェンダース本人と彼のサウンド・エンジニアのチェックを受け、「全体にとても良いバランスだ」とお墨付きをもらったと明かした。
一方の樋口氏は、BOX Iの4作品にすべてジュークボックスが登場することを指摘し、ヴェンダース映画にとって、いかに音楽が重要な役割を果たしているかを説く。彼が商業デビューする前に作った初長編『サマー・イン・ザ・シティ(都市の夏)』(1970)には「キンクスに捧ぐ」という副題がついており、その後の作品でもこの英国のロック・バンドの曲が何度も使われることに言及。「これを聴けば彼の全てがわかる」と、ヴェンダースを象徴する一曲として『夢の涯てまでも ディレクターズ・カット』(1994=BOX IIIに収録)で使われた「デイズ(Days)」をオリジナルのキンクスのバージョンと、同じ映画の中でエルヴィス・コステロがカバーしたバージョンを、持参したアナログ盤で「晴豆」自慢のMeyer Sound社のスピーカーで鳴らした。
また、BOX Iの冒頭を飾る商業的長編デビュー作『ゴールキーパーの不安』(1971)の初公開版では米国のバンド、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)の曲「光ある限り」が使われていたが、今回のBlu-rayバージョンでは、音楽著作権の関係で別の曲に差し替えられてしまっているからと、その元の曲も聴かせてくれた。
さらに、プロジェクターとスクリーンを使って、BOX I 収録作品の抜粋部分を上映。美しく修復された映像と、オノのマスタリングでさらに磨きのかかった極上のサウンドが会場を満たした。前述の『ゴールキーパーの不安』と『まわり道』(1975)はその後のヴェンダース作品でも活躍する音楽家ユルゲン・クニーパーのスリリングな曲が登場人物たちの危うい心理を代弁し、『都会のアリス』(1973)ではドイツのロックバンドCANのイルミン・シュミットが担当した物悲しいアコースティック・ギターの音が、男2人によるロードムービー『さすらい』(1976)ではドイツのバンド、インプルーヴド・サウンド・リミテッドのどこかノスタルジックなアンサンブルが、観る者を路上の旅にいざなう。中でも『さすらい』の音質の良さは、美しい白黒映像ともあいまって、来場者の心を酔わせたのだった。
オノセイゲン
録音エンジニア、音楽家。 2019年度ADCグランプリ受賞。Saidera Records Saidera Mastering Saidera Ai Global Content Development Division(Saidera Ai 展開戦略推進部)のSaidera Paradiso Ltd. CEOも務める最新CDは『CDG Fragmentation』、『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』
樋口泰人(ひぐちやすひと)
1957年山梨県生まれ。『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』の編集委員をへて、ビデオ、単行本、CDなどを製作・発売するレーベル「boid」を98年に設立。04年から、吉祥寺バウスシアターにて、音楽用音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。2020年、より小さな動きと声を伝える新レーベル「Voice Of Ghost」を立ち上げた。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)。
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