パク・チャヌク監督最新作『別れる決心』(2⽉17⽇公開)のスペシャルトークイベント付き試写会が2月8日(水)に都内にて開催され、作家の桜庭一樹とコラムニストの山﨑まどかが登壇。本作へ絶賛のコメントを寄せる二人が、本作の魅力を語り尽くした。
『別れる決心』は今年5月のカンヌ国際映画祭コンペティション部門での監督賞受賞以来、世界の批評家・映画サイトから絶賛を浴び、本年度アカデミー賞®国際長編映画賞部門の韓国代表に選出されるなど社会現象ともいえるブームを巻き起こしている話題作。『オールド・ボーイ』『お嬢さん』などの巨匠パク・チャヌクの6年ぶりの最新作で、サスペンスとロマンスが溶け合う珠玉のドラマだ。物語は、刑事ヘジュン(パク・ヘイル)が、崖から転落死した男の妻ソレ(タン・ウェイ)の調査を開始することから始まる。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしか刑事ヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める…。
この日開催された本作のトークイベントに特別ゲストとして登壇したのは、作家・桜庭一樹と、コラムニストの山崎まどか。初めて作品を鑑賞した感想を桜庭は「ちょうど、人とのコミュニケーションは、話したこと以上に“言わないこと”で成り立っているよね、という話をしていた時に『別れる決心』を観たので、劇中の2人の間で言わないことがすごく多い映画だなという印象でした。映画では相手の言わなかったことを自分で補完しながら観るけれど、それはあくまでも自分の想像なので、観ている人によって違うだろうし、それぞれの解釈になっていくんだろうな、と。この映画は特に、観る人によって全然感想が違うので、それがまた面白いなと思いました」と本作ならではの楽しみ方を語る。
続いて、ソレとヘジュンの関係性について山崎から聞かれると、ヘジュンが髭を剃りながら車を運転してソレのところに向かうシーンを挙げ、「言葉では何も言わないが、髭を剃って彼女のところに向かうということで、彼女をかなり意識していることがわかる。そういう細かい部分で、未だにすごく気になるところがたくさんある映画」とまだまだ鑑賞し足りない様子。
それを聞いた山崎は、「劇中で“愛している”という言葉が全然出てこないのに、相手には伝わっているシーンがある。お互いの思惑や気持ちで、成り立っている関係性」と、言葉ではなく表現される二人の関係性を説明した。
桜庭は本作を観て強く感じたこととして、「この作品では、女性が外国から来た人で、経済的にも辛かったり、立場がすごく弱い側で、一方で男性はその国の人で、刑事で、立場の強い側にいますよね。その中で立場の弱い人が自分を守るために一生懸命やっている行動は、本人にとっては合理的なのに、立場の強い側の人からはすごく謎の行動に見える。“ファム・ファタール”(謎の女/宿命の女)みたいに見えるのだなと思った」と本作での気づきを明かす。
山崎は「昔のノワール映画に出てくる、一見謎めいた女の実像に、今の私たちは気づくことができる。男がルールを決めている社会で、苦しい立場にいる女がゲームをするとき、何をしたらいいのか。主導権を握って生きるにはどうしたらいいのか。今作にはそんな女のあり方が組み込まれているところも新しい」と語る。
桜庭は「それで思いだしたが、女性の歌人の方のエッセイで、昔の小説に出てくるようなファム・ファタールのことを昔は理解できないと思っていたと書いてあった。でも、自分が男性の求愛を断ったら、弄んでいると非難されて辛い思いをしたとき、あのファム・ファタールも断っていたのに小説の書き手の男性から理解されなかっただけではないかと思った、と」と大きく頷く。
そんな“ファム・ファタール”を演じたタン・ウェイについて桜庭は「女優さんが素晴らしくて、立場は弱いが人間が弱いわけではない。怯まない独特の存在感があり、目が強い」と大絶賛。
山崎も「タン・ウェイが演じる役は必ずしもいつも強者ではないが、その中にある女性の強さをものすごく表現できる人。そしてすごくパク・チャヌクの映画らしいヒロイン。パク・チャヌク監督が、未来のクラシックとして残る映画を意識したという通り、タン・ウェイが演じたソレという役は過去のファム・ファタールからの系譜を感じさせる」と大絶賛。若尾文子やヒッチコック映画のヒロインにも触れながら、「正統派のヒロインの感じがありながら、新しい」と改めて強調した。
話題はラブストーリーとしての感想に。山崎は「これは恋愛の不条理だと思う。この関係性のどちらか一方がすごく有利なゲームではない」と断言し、「みんな、想っている人に想われることは幸せなことだと思っているかもしれないが、それが恐ろしいことでもあると伝えているのが『別れる決心』。そこがすごくいい。両想いが必ずしもいいわけではなく、それが生んだ悲劇もある」と強調した。続けて「みんな恋愛に関しては、贅沢品みたいに考えたりするけれど、誰にでもこういう恐ろしさを経験する危険性があるということにおいて、恋は平等なのかなと思った瞬間がありました」と山崎が話すと「誰の身にいつこのようなことが起こるかわからない。今起こっているかもしれない」と二人で声を揃えた。
自身も作家としてサスペンスやミステリーを執筆する桜庭は、「容疑者が本当に犯人かわからないところから始まり、刑事の心がアップダウンしていく様子が面白く、レトロなノワール感もとても好きでした」と話し、山崎も「ミステリーとしても、生半可ではないものを見せてくれた」と、その面白さに太鼓判を押す。また「とても古風だが新しい器に入っている」(山崎)と本作を表現し、その理由として本作にスマートフォンが登場し、劇中で様々な機能が駆使されていることを挙げる。「サスペンスやロマンティックコメディは肝心なところでスマホが使えない・通じないなど封じ手になるところを、本作ではものすごく上手に使っている」と力説。その使い方が上手く映画に組み込まれていることについて触れ、「この使い方が新しい。ロマンティックに、サスペンスフルに使っており、脚本の妙ですよね」と話し、桜庭も「スマホをロマンティックに使えと言われても難しい」と共感した。
最後に「パク・チャヌク監督にしては直接的なシーンが無いにも関わらず、見せない、抑えることですごく官能的に感じた」と話す山崎に、桜庭も「抑えること、言わない、見せないことで伝わることってこんなにあるんだなと改めて思った」としみじみとアピールした。
『別れる決心』は2月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
別れる決心
2023年2月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
STORY
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)は捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしか刑事ヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたへジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった……。
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:헤어질 결심|2022 年|韓国映画|シネマスコープ|上映時間:138 分|映画の区分:G
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