『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』など、唯一無二の作品で世界中の観客と批評家を唸らせ続けてきたパク・チャヌク監督の最新作『別れる決心』が現在絶賛公開中。観るたびに新たな発見のある本作の7大注目ポイントを徹底解説!
※ネタバレを含む記事ですのでご注意ください。
『別れる決心』は今年5月のカンヌ国際映画祭コンペティション部門での監督賞受賞以来、世界の批評家・映画サイトから絶賛を浴び、本年度アカデミー賞®国際長編映画賞部門の韓国代表に選出されるなど社会現象ともいえるブームを巻き起こしている話題作。巨匠パク・チャヌクの6年ぶりの最新作で、サスペンスとロマンスが溶け合う珠玉のドラマだ。物語は、刑事ヘジュン(パク・ヘイル)が、崖から転落死した男の妻ソレ(タン・ウェイ)の調査を開始することから始まる。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしか刑事ヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める…。
ついに日本でも2月17日より公開された本作は、「先が読めなくて、目が離せない」「何気ないセリフや小道具に、見終わった後も余韻が残る」「もどかしくて、何度も観たいと思わせる」などと早くもSNSなどで話題沸騰中。一癖も二癖もあるセリフや舞台装置、衣裳、編集、小道具など細部への監督のこだわりが多くのリピーターを生み、BTSのRMも5回も鑑賞したという程大ハマりしたという。
今回巨匠パク・チャヌク監督がエロスもバイオレンスも封印して挑んだのは、大人のためのラブロマンス。刑事と容疑者という、惹かれあってはならないもの同士の禁断の愛を描いた本作は、過激なラブシーンは一切なく、言葉の壁がもどかしさを掻き立て、なんともロマンティックでエロティック。「愛してる」という言葉を使わないラブストーリーという監督ならではの美学があふれている。ここでは2回目以降の鑑賞ももっと楽しくなる、監督による「仕掛け」の数々を紹介。
① 全体を通して貫かれる対比構造
本作では、刑事と容疑者という禁断の愛が描かれているが、言葉の壁や“愛”という抽象的なものを描いているため、「曖昧さ」が物語のミステリアスな雰囲気やサスペンス要素を膨らませている一方で“対比”がふんだんに盛り込まれている。舞台となる“海の町”と最初の事件が起きる“山”。そしてへジュンの妻・ジョンアンは原子力発電所で働く理系人間なのに対し、ソレは孔子の言葉を引用するような文系人間。煙草を嫌うジョンアンに対し、煙草を好むソレ。など多くの対比構造が盛りだくさん。他にもないか探しながら観るのもオススメ。
② へジュンとソレの類似性
へジュンとソレが対面して最初の事情聴取のシーン。ソレが「夫はどんな姿ですか?」と尋ねると、へジュンが「言葉で説明しますか?それとも写真で?」と返す。ソレは「言葉」と言うが、すぐに「写真」と言い直す。この時に注目してほしいのがへジュンの表情だ。最初の「言葉」と言った時は少し落胆したような表情をする。「写真」と言い直すと少し嬉しそうに写真を見せる。そして「あなたは僕と同じく、言葉ではなく写真を選ぶタイプだと思った」と告げる。これはへジュンも写真派で、現実を直視するタイプだという事を表し、この時にへジュンの恋心はすでにスタートしていたともいえる。ほかにも、山より海派、同じスマホを使っている、同じ車に乗っているなどたくさんの共通点が二人には存在。
③ ソレの夫たちに浸食されていくへジュン
もはや仕事か趣味か分からないレベルでソレの張り込みを続けるへジュンだが、ソレにのめり込むあまり、張り込みや実際にソレの部屋へ訪れて目撃した、ソレの夫たちの癖や好んでいたものを嗜むようになっていた。最初の夫キ・ドスは台湾のウイスキー「KAVALAN」を愛飲していた。ソレの部屋でそれを見つけたへジュンはその後の刑事仲間との食事のシーンでKAVALANをキ・ドスと同じようにスキットルに注ぐシーンが描かれている。ほかにもソレの二人目の夫イム・ホシンは指をボキボキ鳴らすのが癖だが、へジュンは一度会っただけにも拘らずとあるシーンで、おそらく自分でも無意識的に指をボキボキ鳴らしている。品があり優しい刑事というキャラクターには全く似つかわしくない行為だが、ソレへのめり込むあまりソレの夫たちに自分を寄せていくのだった。
④ 本作の始まりである「マルティン・ベック」シリーズの登場
『別れる決心』は監督曰く「私が好きなスウェーデンの推理小説、警察官のマルティン・ベックシリーズのような、私好みの性格の刑事キャラクターを登場する映画を作りたいと思いました」と、本作のはじまりは「マルティン・ベック」シリーズであると公言。それがなんと本編にも登場している。へジュンがソレに手料理をふるまうべく、自宅にソレを招待したシーン。へジュンが腕を振るっている間、ソレは部屋を散策に。デスクの電気を点けると机の上に積まれていた本の表紙が映し出されるのだが、その本こそが「マルティン・ベック」シリーズなのだ。へジュン自身も愛読し、マルティン・ベックのような刑事になりたいと思っていたのだろうか?
⑤ 壁紙、衣装に込められた意味
ソレが劇中青色にも緑色にも見える衣装を身に着けているのだが、これはソレがファム・ファタールなのか、はたまた本当にへジュンを愛する女性なのか、という事を比喩的に表現する装置になっている。また、ソレの部屋の壁紙だが、これも海にも山にも見えるようなデザインになっている。それぞれ衣装デザイナー、美術監督のアイディアで監督がそれを採用し、それに合わせてセリフも変更したというチームパク・チャヌクならではのこだわりとなっている。
⑥ 波がソレの横顔に!
ラスト、ソレを追い海へとやって来たへジュン。車をソレの車の後ろに止めるシーンで真上からの俯瞰の映像になるのだが、そのシーンでの波の形がソレの横顔に! 初見でこれに気づいた方はすごい!
⑦ へジュンは結局ソレの手の中
ソレを追って海へ来たへジュン。ソレは自らの命を絶とうと砂浜に深い穴を掘り、その中に入る。徐々に潮が満ちて穴の中に水が入り始め、ソレは手のひらで水と砂の感触を味わう。そこでシーンが切り替わるのだが、その際にパっと切り替わるのではなくフェイドアウト。次のシーンでは砂浜を血眼になって走り回るヘジュンの姿。その瞬間、へジュンはソレの掌の上を走り回っているように見える!
…などなど、ほかにもパク・チャヌク監督やスタッフたちの細部までにわたるこだわりが満載の本作、一度目はへジュン目線で、二度目はソレ目線でという楽しみ方が韓国ではブームになっていたという。リピート鑑賞することで、新たな発見を楽しんでみるのはいかがだろうか?
『別れる決心』はTOHOシネマズ 日比谷ほか絶賛公開中。また、諏訪部順一=ヘジュン、沢城みゆき=ソレと超人気声優が主演2人を演じた日本語吹替版も絶賛上映中。
別れる決心
2023年2月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
STORY
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)は捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしか刑事ヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたへジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった……。
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:헤어질 결심|2022 年|韓国映画|シネマスコープ|上映時間:138 分|映画の区分:G
© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
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