旅する映画監督リム・カーワイ監督の特集上映『Cinema Drifter(映画流れ者) リム・カーワイの世界THE WORLD OF LKW』が5月6日(土)・7日(日)に福岡市美術館にて開催されることが決定した。
現在ウィーン・レッド・ロータスアジアン映画祭、ウディネ・ファーイースト映画祭、アイルランド日本映画祭にて、『あなたの微笑み』(22年公開)がノミネートされるなど、世界的に注目を集め大躍進中のリム・カーワイ監督。
このたび開催される『リム・カーワイの世界』では、処女長編から、大阪三部作、バルカン半島二部作、最新作『あなたの微笑み』までを一挙上映するほか、香港映画祭のキュレーターでもあるリム監督がオススメする1作として、九州初上映となる香港映画『少年たちの時代革命』が特別上映される。
期間中はリム監督が来館し、福岡在住の直木賞作家・東山彰良をはじめとする多彩なゲストとトークを開催。東山彰良はリム監督作品について「誰もが旅の途中なのだと気づかせてくれる」と絶賛コメントを寄せている。
またヨーロッパの映画祭の行脚中のリム・カーワイ監督よりコメントが到着。東山彰良(作家)、富田克也監督(映画監督)、樋口泰人(音楽・映画評論家)、鈴木暁子(朝日新聞GLOBE編集部記者)、田井肇(大分シネマ5支配人)、小柳帝(ライター・編集者)からもコメントが寄せられている。
特集上映の概要、コメントは以下の通り。
特集上映概要
名称:FAMシネマテークvol.8/Cinema Drifter(映画流れ者) リム・カーワイの世界 THE WORLD OF LKW
期間:2023年5月6日(土)・7日(日)
会場:福岡市美術館ミュージアムホール
料金:1作品1,500円(当日券のみ/税込) ※毎回完全入替制
上映作品:『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』、『新世界の夜明け』、『恋するミナミ』、『どこでもない、ここしかない』、『いつか、どこかで』、『カム・アンド・ゴー』、『あなたの微笑み』、『少年たちの時代革命』
主催:福岡アートミュージアムパートナーズ株式会社、株式会社利助オフィス
公式HP:https://www.risuke.co.jp/fam_cinema/
特集上映スケジュール ※開場は各回15分前
■5月6日(土)
10:00~11:33 新世界の夜明け
12:10~13:53 恋するミナミ
14:30~17:08 カム・アンド・ゴー
17:40~18:10 トーク:リム・カーワイ×東山彰良
MC:佐々木亮(ライター)
18:30~20:13 あなたの微笑み
■5月7日(日)
10:00~11:30 どこでもない、ここしかない
12:10~13:31 いつか、どこかで
14:10~14:40 トーク:リム・カーワイ×富田克
MC:木下竜(利助オフィス)
15:10~16:48 アフター・オール・ディーズ・イヤーズ
17:20~17:50 トーク:リム・カーワイ×樋口泰
MC:三好剛平(三声舎)
18:30~19:56 少年たちの時代革命
ヨーロッパの映画祭行脚中映画祭出品に寄せるコメント
■リム・カーワイ監督/映画監督
ただ今、ヨーロッパの映画祭を回っているところですが、コロナ禍が収まったあと、人々が映画館で映画を見、他の人と交流したい欲求が以前より増したことに気付きました。自分の映画ではずっと他者との触れ合いをテーマに描き続けてきました。このタイミングでアジアの十字路と言われる福岡で、最大規模の特集上映が開催されることを本当に嬉しく思います。ぜひこの特集を通じて国籍、文化、言葉などを超えるような交流とは何か皆と一緒に考えたらいいなと思います。
本特集上映に寄せられたコメント
■東山彰良(作家)
世界の片隅にうずもれた、どこにも居場所のない小さな物語をリム・カーワイはそっとすくい上げる。帰れる場所を心に持つ幸運と、それを探し求めて彷徨う人々の諦観がゆるやかに溶け合ってつむぎ出される彼の作品は、誰もが旅の途中なのだと気づかせてくれる。
■富田克也(映画監督)
リム・カーワイ。
この謎に満ちた映画作家は一体何者なのだろう?中華系マレーシア人だという噂だが、日本を始め、世界中を旅しながらその都度仲間を見つけては映画を作り歩いている。一体どうやって食っているのか?どこかにパトロンでもいるのか?
「俺、客家だよ。」
あるとき彼はそう答えて、謎が全て解けたような気がした。“客家"について知りたければ、宮崎学著「血族」があまりに衝撃的だ。本書を携え、全作品上映会へGO!リム・カーワイ來來!
■樋口泰人(音楽・映画評論家)/『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』
音と音楽が示す「いまここ」ではない時間と場所が映画の中の今ここへと流れ込み映画の空間をゆがませる。そこではいくつもの小さな出来事が泡立つように生まれそれらが混ざり合いまた別の時間を作り上げる。
「日陽はしづかに発酵し……」と、かつて観た映画のタイトルが思わず口をつくが、そう思えてしまうのはわれわれもまた彼らの部屋の中の金魚鉢の金魚のように閉ざされた場所で暮らしているからか。ああもっと自由になれる、まだ踏み出せる。そんなことを思わせてくれる映画だった。
■鈴木暁子(朝日新聞GLOBE編集部記者)
『カム・アンド・ゴー』という映画タイトルは、どこかさびしい。リムさんにわけを聞いたら、こんな話をしてくれた。「観光客にとって日本は楽しんで帰る場所。ある意味『中継地』という感じです」。アジアの人が来ては帰る、消費される日本という国。そんな現実を、おもしろやさしく突きつけてくる映画は、これまでほとんどなかった。
映画を携え、リムさんは「たこつぼの外を見てごらん」と、私たちのドアをどんどんたたく。見終えたとき心があたたかいのは、のこされた希望のありかまでおしえてくれるからだ。 マレーシアンでありチャイニーズで大阪人の世界人。
いまの世界には、リムさんみたいな人が必要だとつくづく思う。
■田井肇(大分シネマ5支配人)
貧乏ミニシアターを経営している私は、『トップガン マーヴェリック』や『RRR』といった勇猛果敢な映画がもてはやされる風潮に、(ヒガミまじりに)つい異を唱えたくなる天邪鬼だ。そんな私の映画館に、リム・カーワイは、勇猛果敢とは全く正反対の、私をさらに貧乏にするだろう映画をつくっては「やってくれませんか」と言ってくる。自主映画のサエない監督がツブレそうな映画館を訪ねて自分の映画を売り込む映画。アジアのあちこちから大阪にやってきたはぐれ者たちがごそごそと蠢く映画。どう見たって入らない映画を「入らないよね」と言って持ってくる。その映画の登場人物たちもまた、うらぶれているくせになぜか明るい。こんな人たちがいる、こんな映画があることに、救いに似たものを感じる。あてどない旅に出た者たちがミューズを幻視しつづけるリム・カーワイの映画は、「映画館の暗がりに潜り込む」原初の悦びを包含している気がする。
■小柳帝(ライター・編集者)
『あなたの微笑み』は、ドラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』のようなモキュメンタリーのような顔をしながら、主演を務めた渡辺紘文の大田原愚豚舎の作品世界にも寄せつつ、アレクサンダー・ロックウェルの『イン・ザ・スープ』やエリア・スレイマンの『天国にちがいない』のような映画史レベルの傑作ともどこかクロスする、リム・カーワイらしい映画愛に満ちた快作なのだ。
※署名の後に特定の作品名が記載しているコメントは、作品について寄せられたコメント
監督プロフィール
■リム・カーワイ(LIM KAH WAI / 林家威)
マレーシア出身の華僑。1993年に日本に留学、1998年に大阪大学を卒業後、東京の外資系通信会社で6年間勤務した後、北京電影学院の監督コースに入り、2009年に北京で『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』を自主制作し長編デビュー。その後大阪を拠点としながら、世界各地でインディペンデントな作品を撮り続ける一方、2016年にはメジャーな俳優たちが出演した商業映画『愛在深秋』も監督し、中国全土で公開された。
自らを"cinema drifter(映画流れ者)"と呼び、カメラ一つその肩に担いで、地元大阪はもちろん、香港やバルカン半島へと単身赴き、現地の人々と一緒にほぼ即興で演出するというスタイルを基本としている。最新作『あなたの微笑み』はウィーンRed Lotus Asian Film Festivalで唯一日本からの入選作に選ばれた。
トークゲスト
■東山彰良(作家)
台湾生まれ、福岡在住の作家。2015年『流』で直木賞を受賞。映画に関する評論やエッセイも多い。近作に『怪物』、エッセイ集『Turn! Turn! Turn!』など。
■富田克也(映画監督)
トラック運転手をしながら相澤虎之助ら「空族」の仲間と共に作った『サウダーヂ』が2011年にロカルノ等海外の映画祭を席巻。現在新作準備のため台湾をリサーチ中。
■樋口泰人(音楽・映画評論家)
boidレーベル主宰。単行本、音楽と映画のソフトの製作、映画の配給などを手がける。「爆音映画祭」プロデューサーとして、さまざまなジャンルの映画を爆音上映している。
上映作品概要・8作品
【1】アフター・オール・ディーズ・イヤーズ
黒沢清監督をして「エドワード・ヤンの更に先を提示した」といわしめた衝撃の長編デビュー作。10年ぶりに帰郷した男を待っていたのは、過去と現在が複雑に錯綜したパラレルワールド。北京郊外で撮影された。
監督:リム・カーワイ 出演:大塚匡将、狗子 2010年/マレーシア・中国・日本/98分
原題:After All These Years 配給:Cinema Drifters
【2】新世界の夜明け
日本の洗練された都会のクリスマスに憧れて北京からやって来たココは、想像していた日本と遠くかけ離れた大阪・新世界でてんやわんやの騒動に巻き込まれていく。笑いを交えて描いた無国籍ドラマ。
監督:リム・カーワイ 出演:シー・カー、小川尊、宮脇ヤン 2011年/日本・中国/93分
原題:The New World 配給:Cinema Drifters
【3】恋するミナミ ※九州初上映
言葉、国籍を超えた二つの異なる恋の物語は運命の悪戯で大阪・ミナミで集結し、すれ違い、そして交差する。香港、韓国、日本と舞台を移しながら国際色豊かなキャストと多彩なスタッフで描くこれぞアジアン・ニューウェーブ・ラブ・ストーリー。
監督:リム・カーワイ 出演:シェリーン・ウォン、小橋賢児、ペク・ソルア
2013年/日本・シンガポール/103分 原題:Fly Me To Minami 配給:Cinema Drifters
【4】どこでもない、ここしかない ※九州初上映
バルカン半島で暮らすトルコ人夫婦の物語。妻に逃げられたダメ男の物語を軸に、東ヨーロッパで現地の人々と即興で撮り上げた異色ドラマ。見たことのない東ヨーロッパ風景の発見に魅了される。
監督:リム・カーワイ 出演:フェルディ・ルッビシ、ヌーダン・ルッビシ
2018年/スロベニア・マケドニア・マレーシア・日本/90分 原題:Nowhere, Now Here
配給:Cinema Drifters
【5】いつか、どこかで ※九州初上映
一人のアジア人女性が、クロアチア・セルビア・モンテネグロを旅する中で、ささやかな冒険を通じて未知の世界と新たな自分を発見していく。バルカン半島の複雑な歴史に翻弄されながらも前向きに暮らす人々の生活と、世界の置かれた現状が浮かび上がる。
監督:リム・カーワイ 出演:アデラ・ソー(蘇嘉慧)、カタリナ・ニンコヴ
2019年/セルビア・クロアチア・モンテネグロ・マカオ・日本・マレーシア/81分
原題:Somewhen,Somewhere 配給:Cinema Drifters
【6】カム・アンド・ゴー
台湾、ベトナム、マレーシアなどアジア9か国から集まった豪華俳優陣と日本の実力俳優たちが、大阪の中心《キタ》と呼ばれる地域に集結し、希望と絶望のはざまで繰り広げる圧巻のオフビート群像劇。
監督:リム・カーワイ 出演:リー・カンション(李康生)、千原せいじ、渡辺真起子
2020年/日本・マレーシア/158分 原題:Come & Go
配給:リアリーライクフィルムズ、Cinema Drifters
【7】あなたの微笑み
“世界のワタナベ”こと映画監督の渡辺は、自分の映画を上映してくれる劇場を探して、沖縄から北海道まで、日本全国のミニシアターを行脚する。彼は行く先々で不思議な女性に出会い続ける。遅れてやってきた傑作青春ロードムービー。
監督:リム・カーワイ 出演:渡辺紘文、平山ひかる、尚玄
2022年/日本/103分 原題:Your Lovely Smile 配給:Cinema Drifters
【8】少年たちの時代革命 ※九州初上映
2019年の香港民主化デモを背景に、自殺しようとする少女を救うため民間捜索隊を結成した若者たちが香港の街を駆け巡る姿を描いた、疾走感あふれる青春群像劇。カンヌをはじめ数々の国際映画祭で上映され話題を呼んだ新時代の香港映画。
監督:レックス・レン(任侠)、ラム・サム(林森)
2021年/香港/86分 原題:May You Stay Forever Young 配給:Cinema Drifters、大福
※本作はリム監督オススメの映画として上映。
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