本年度アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、受賞最有力との呼び声も高いパレスチナ人とイスラエル人の若手監督による衝撃と奇跡のドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』が2月21日(金)より全国公開。今回、各界のトップランナーたちから応援コメントが到着。また、パレスチナ人住民たちが見舞われる理不尽な収奪を記録した、緊迫の本編映像が解禁された。
本作は、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区「マサーフェル・ヤッタ」の住民たちが力を合わせ20年以上占領に抗い続けてきた歴史にも触れながら、イスラエル軍がパレスチナ人に対して長年行ってきた占領政策の本質と実態に肉薄。パレスチナが置かれた現状を知る上での必見作。
本作をいち早く鑑賞した各界トップランナーたち13名より、映画を鑑賞する人への問いかけや呼びかけともいえる応援コメントが寄せられた。仲野太賀(俳優)は「知識や情報だけで人の痛みなどわかるはずがない。この映画に少しでも興味を持った人がいるのなら、迷わずに見てほしい」などと呼びかけるコメントを寄せる。
奈良美智(美術作家)は「観る者の心に葛藤や希望が乱雑に入り込んできて息が苦しくなるだろう。しかし、それは彼らの「故郷」における現実に違いないのだ」などと、本作で“故郷”を奪われようとしている人達が置かれた現実に言及。有働由美子(アナウンサー)は、イスラエル兵に銃口を向けられた自身の経験を交えながら「この映像に映る全てをしっかり受け止めたい」などとコメント。岩井俊二は「観る側にも相当な苦痛を強いる。だからこそ観るべき映画だ」などと訴える。
空音央(映画監督)、森達也(映画監督)、奇妙礼太郎(ミュージシャン)、安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)、金平茂紀(ジャーナリスト)、ISO(ライター)は、目を向けることや知ることの大切さ、そしてその先についてそれぞれの言葉で語っている。想田和弘(映画作家)、増田ユリヤ(ジャーナリスト)、町山智浩(映画評論家)は、立場を超えた対話を重ねることで生まれる友情に希望を見出すコメントを寄せた。コメント一覧・全文は記事下にて。
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あわせて解禁となった本編映像が捉えるのは、2020年にマサーフェル・ヤッタで起こったある事件の一端だ。住民たちは、イスラエル軍と入植者による不条理な退去命令や破壊行為に抵抗しようと夜中のうちに家屋の建設を進めていたが、それが見つかってしまう。事態を聞きつけたバーセルが現場に向かうと、兵士たちが大工道具を没収しようとしていた。ユヴァルもカメラを手に「国の暴挙を見逃せない」などと抗議している。そうしているうちに、すぐそばで住民が所有する発電機を巡ってトラブルが発生。双方による激しいもみ合いが続く中で、イスラエル側による一発の銃声が鳴り響く…。この一部始終を記録していたカメラの不調も重なって、当事者だからこそ捉えることができた緊迫感みなぎる映像となっている。
本作がアカデミー賞にノミネートされた2日後の1月26日、監督のひとりであるバーセル・アドラーは「映画がアカデミー賞にノミネートされて2日後の今、入植者たちが私のコミュニティであるマサーフェル・ヤッタに侵入し、家々に火をつけて破壊しています。ノミネートされたことは光栄ですが、トランプ米大統領が入植者に対する制裁を解除したその一方で、私たちは抹殺されかけています。ハリウッドの人々は気にかけているでしょうか? どうか黙っていないでください」という訴えを、家々から煙が上がる様子を記録した動画とともにXに投稿。本作が暴き出すイスラエル軍や入植者による占領や破壊行為はかつての出来事では決してないのだ。
『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』に寄せられたコメント(順不同/敬称略)
知識や情報だけで人の痛みなどわかるはずがない。この映画に少しでも興味を持った人がいるのなら、迷わずに見てほしい。
パレスチナの現状を決死の覚悟で届けようとした、命懸けの記録をどうか心に留めてほしい。
――仲野太賀(俳優)
当たり前だがリハーサルも撮り直しも無いドキュメンタリーだ。スクリーンに映し出されるのは、常に直面する余地の無い選択の数々と厳しい現実。観る者の心に葛藤や希望が乱雑に入り込んできて息が苦しくなるだろう。しかし、それは彼らの「故郷」における現実に違いないのだ。
――奈良美智(美術作家)
2018年夏私はイスラエル兵から銃口を向けられた。立ち退きを迫られたパレスチナ側で撮影していた。それだけの理由で。この映像に映る全てをしっかり受け止めたい。
――有働由美子(アナウンサー)
映画は教えてくれる。イスラエルの暴力の本質は占領だ。私達も無関係ではない。実際、私達の年金もイスラエルに投資されている。怒りを感じたら行動しよう。映画でバーセルが言う「水1滴ではダメでもしずくが続けば変わる」私達もしずくになろう。パレスチナが解放されるまで。
――空音央(映画監督)
住居を破壊し、井戸にセメントを流し込む入植者達の理不尽。
観る側にも相当な苦痛を強いる。だからこそ観るべき映画だ。
――岩井俊二
理不尽で無慈悲な虐殺や戦争はガザだけではない。パレスチナの民の受難と絶望。僕たちは目撃し続けている。それなのに状況はもう何十年も変わらない。この映画は告発であると同時に希望も示す。一人でも多くの人に観てもらいたい。そして声をあげてほしい。
――森達也(映画監督)
余計な装飾や解説を排した、無骨ともいえる生の映像。
そこに映し出された、パレスチナのあまりにも過酷な現実。
あの「10月7日」以前にして、このありさまだ。
何とかしなくてはいけない。
しかしいったい何ができるのか。
パレスチナ人とイスラエル人の映画作家の間に芽生えた友情と理解と信頼だけが、一筋の光のように思える。
――想田和弘(映画作家)
僕は彼らをあっという間に忘れて暮らす。
そういう残酷さがこの映画のすぐそばにある。
そこから先を委ねられている。
――奇妙礼太郎(ミュージシャン)
パレスチナの人々の土地を、尊厳を、そして命を、根こそぎ奪い去る、占領の不条理が、この映画に凝縮されている。
これを民族浄化と呼ばず、なんと呼べるだろう。そして、問われる。この悲鳴に、無視を決め込む世界でいいのか――。
――安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)
イスラエル軍のブルドーザーが人々の営みを容赦なく破壊していく。ここまで人間は非道になれるのか。と同時に、それに抗う彼我の友情がある。私たちはただの観客か? 黙っていていいはずはない。
――金平茂紀(ジャーナリスト)
パレスチナとイスラエルの和平は実現不可能なのか。幾度となく潰えた希望を、今だからこそバーセルとユヴァルの友情に託したい。
――増田ユリヤ(ジャーナリスト)
報道で見かける「占領」という言葉の向こうに存在する、生存権を剥奪される人々の姿を知る。その第一歩のための命懸けの襷。エンドロールの先で、更に悪化する占領と虐殺に世界はどのような態度を取るのか。監督たちの眼差しはこちら側に向けられている。どうか、知ってほしい。
――ISO(ライター)
ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナの人々の家を破壊するイスラエル軍。子どもが泣こうと容赦せず、抵抗する者を銃撃する。あまりに絶望的な状況を撮り続ける監督とユダヤ人ジャーナリストの友情に小さな希望が。
――町山智浩(映画評論家)
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
2025年2月21日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋 ほか全国公開
監督:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム、ハムダーン・バラール、ラヘル・ショール
2024年/ノルウェー、パレスチナ/アラビア語、ヘブライ語、英語/5.1ch/95分/原題:NO OTHER LAND/日本語字幕:額賀深雪/配給:トランスフォーマー
Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
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