タイの鬼才アピチャッポン・ウィーラセタクン監督がインタビューに応じ、3月4日(金)に日本公開される監督最新作『MEMORIA メモリア』について語った。唯一無二の物語と映像体験は、どのように制作されたのか?
『ブリスフリー・ユアーズ』(ある視点部門最優秀作品賞)、『トロピカル・マラディ』(審査員賞)、タイ史上初のパルムドール受賞作『ブンミおじさんの森』に続き、本作でカンヌ国際映画祭4度目の受賞となったアピチャッポン・ウィーラセタクンの監督・脚本による最新作『MEMORIA メモリア』。南米コロンビアが舞台の本作は、監督が初めてタイ国外で制作した作品。監督自身が経験した「頭内爆発音症候群」から着想を経た記憶の旅路が描かれる。主演には『フィクサー』のオスカー女優ティルダ・スウィントンを迎えた。
――あなたは自分の映画について語るとき、しばしば環境や場所との結びつきについて話しています。本作をコロンビアで撮影したのも、同じように地理的、精神的に結びつけられる感覚があってのことだったのでしょうか。コロンビアの風景や神話、歴史や記憶など、何が創作の刺激になりましたか。
70年代に、失われた文明の宝探しをするハンターを描いた小説を読んで育ちました。私の過去の作品である『トロピカル・マラディ』『ブンミおじさんの森』も、影響を受けています。過去10年の間に、様々な国を訪ね、コロンビアでいちばん長い時間を過ごしました。これらの旅のおかげでかつて魅了された物語を思い出し、本作が形になり始めたのです。しかし今に至るまで、私はアマゾンを訪れたことはなく、都市の建築を愛しています。2つの都市を挙げましょう――映画の舞台になったボゴタとピハオです。
ピハオはボゴタと違い、小さく繊細な場所です。ピハオから1時間の場所には、エル・マシソ・コロンビアノの名と呼ばれる山があり、その一部を貫くトンネル建設工事がなされています。工事が終われば、ラテンアメリカで2番目に長いトンネルになりますが、これは地形と技術に対する挑戦で、何年も困難な状況にあります。山を爆破したり掘削したりする作業は、ジェシカが聞く音と、誰かの頭の中の封印された記憶に入り込もうとする考えにつながり、私にも反響します。
――ジェシカが頭の中の「音」を聞く体験は、あなたが実際に体験したことで、この企画の誕生に重要な役を果たしたのですね。
はい、それが企画の誕生のきっかけで、まるでビッグバンのようでした。私が何か月か、夜明けにその「バン」という爆発音を聞いたことに始まります。内側からやってきて、タイでも、外国でも聞こえました。この症状――頭内爆発音症候群と診断されています――は、主人公のジェシカという人物の根本であり、この体験が彼女の旅のガイドになるのです。ジェシカという名は、私の好きな映画の一つであるジャック・ターナー監督の『私はゾンビと歩いた!』へのオマージュです。この映画で、ジェシカ・ホランドという砂糖園主の妻は意識もうろうとした状態にあり、夜に聞こえるブードゥーの太鼓の音にどうしようもなくひかれているのです。
――ティルダ・スウィントンを主演に、ジャンヌ・バリバールを共演に選んだことは、企画やスクリプト、登場人物を作り上げる際にどんな役を果たしましたか。また、出演者すべてがプロフェッショナルの俳優というのは今回が初めてですが、彼らの役作りなどは、あなたがタイで撮ったプロではない出演者と大きく違うと思いますか。
この映画はティルダとジャンヌを念頭において書きました。一緒に仕事をしたいという強い望みがあり、それは長い間私が――私たちが――もっていたものです。人生をもっと挑戦的なものにするために、私たちにとっての見知らぬ土地を心に描きました。それならラテンアメリカでは?と。ありがたいことにティルダとジャンヌが、彼女らなりの方法でジェシカとアニエスを探索する様子を目の当たりにしました。私はプロかアマチュアかではなく、俳優たちが私や映画にどのくらい時間を提供できるかを気にしています。この映画では、リハーサルと調整に長い時間をかけました。すべての俳優たちの内なる憂鬱にひかれ、それはタイで撮った映画の俳優たちに魅了されたのと同じ道をたどりました。ティルダとジャンヌの場合、外国での仕事ということで、どうしても故郷との比較を避けられず、内なる憂鬱が強くなっていったようです。私はと言えば、俳優たちのリズムを私にとって身近なものであるタイのそれに変えようとしている自分に気付きました。最後には、この映画はどこにも属さない雑種の動物なのだと考えました。
このたび、監督最新作『MEMORIA メモリア』の公開を記念して、『A.W.アピチャッポンの素顔』がアンコール上映されることも決定した。同作は『MEMORIA メモリア』の制作準備に勤しむアピチャッポンに密着したドキュメンタリー。監督のコロンビア国内の旅に同行した俳優のコナー・ジェサップが監督を務めた。
また、4月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督のタイ時代の代表作4本を上映する『アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022』開催も決定している。この春は最新作と密着ドキュメンタリー、また名作揃いの過去作を堪能できる貴重な機会となる。
『A.W.アピチャッポンの素顔』
3月15日(火)〜3月21日(月・祝)*3/19(土)は終日休映 東京都写真美術館にて上映
原題:A.W. A Portrait of Apichatpong Weerasethakul
2018年/カナダ/カラー/DCP/47分/英語・日本語字幕
監督:コナー・ジェサップ 出演:アピチャッポン・ウィーラセタクン、コナー・ジェサップ
https://www.awportrait.net/
『アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022』
2022.4/9(土)〜4/22(金)2週間限定上映
シアター・イメージフォーラム(全国順次上映予定)
http://www.moviola.jp/api/
MEMORIA メモリア
2022年3月4日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他にてロードショー
ストーリー
地球の核が震えるような、不穏な【音】が頭の中で轟く―。とある明け方、その【音】に襲われて以来、ジェシカは不眠症を患うようになる。妹を見舞った病院で知り合った考古学者アグネスを訪ね、人骨の発掘現場を訪れたジェシカは、やがて小さな村に行きつく。川沿いで魚の鱗取りをしているエルナンという男に出会い、彼と記憶について語り合ううちに、ジェシカは今までにない感覚に襲われる。
監督・脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール
2021/コロンビア、タイ、フランス、ドイツ、メキシコ、カタール/カラー/英語、スペイン語/136分 原題 MEMORIA
配給:ファインフィルムズ
©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.
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