映画の王国・ジョージア(グルジア)の伝説的女性監督ラナ・ゴゴベリゼの到達点となる『金の糸』が今週末2月26日(土)より東京・岩波ホールほか全国順次公開。公開を前に、ゴゴベリゼ監督からの、今年で閉館となる岩波ホールと観客に向けたメッセージが公開された。また各界の著名人からの絶賛コメントも到着した。
本作の舞台はジョージアの古都・トビリシ。79 歳の誕生日を迎えた作家エレネを中心に、ジョージアの激動の時代を生きた人々の現在の姿を通して、“過去との和解”を描いた物語だ。題名の『金の糸』には、日本の「金継ぎ」から着想を得て、“未来を見るために過去を金で修復する”という意味がこめられている。
今回到着した監督からのメッセージは以下の通り。本作の上映館となる岩波ホールの思い出について語っている。
岩波ホールにはたくさんの思い出があります。80 年代に私の映画『インタビュアー』を上映してくださったこと、その後『転回』が東京国際映画祭に選ばれて来⽇した際(その時の審査委員⻑はグレゴリー・ペックでした!)、温かく歓迎してくださったこと、私はその時、監督賞をいただいたのですが、当時、岩波ホールの総⽀配⼈だった髙野悦⼦さんが、私以上に喜んで、⼆⼈で抱き合って喜んだことが今でも思い出されます。映画への情熱が⾝体中から溢れ出ているような、忘れられない⼥性でした。歳をとると、かつての知⼈たちが次々にいなくなっていくものです。けれど、何歳になっても新しい出会いはあります。『⾦の⽷』が⽇本で、若い世代の⽅たちとも出会えることを楽しみにしています。
また本作の映画的魅力、豊かな人生観に魅せられた、各界の著名人から絶賛コメントも続々と到着。『すばらしき世界』などの日本を代表する映画監督の西川美和、『人生フルーツ』の超ロングランヒットが話題となった東海テレビ放送の伏原健之監督、ジョージアの画家ピロスマニがモデルになっていると言われる名曲「百万本のバラ」などで知られる歌手の加藤登紀子、長年テレビや映画で存在感を放ち続ける女優の吉行和子をはじめ、SNS でのジョージア投稿で人気を博する駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバ、金継ぎ師の黒田雪子、堀 道広など、本作に魅せられた多彩な著名人がコメントを寄せている(コメント一覧・全文はページ下部にて)。
公開初日にはオンライン監督舞台挨拶の実施も決定。2月26日(土)13:00 の回&15:30の回上映後、岩波ホールにてラナ・ゴゴベリゼ監督のオンライン舞台挨拶が行われ、現在 93 歳の監督がジョージアの首都トビリシから日本の観客にメッセージを届ける。
そして岩波ホールでは上映期間中、毎週木曜日 13:00 の回上映後に豪華ゲストによる上映後トークも開催する(詳細はページ下部にて)。
『金の糸』への著名人コメント *順不同・敬称略
一組の夫婦の母親同士が高齢ゆえに同居することになるという展開はどこにでも起こりうるヒヤヒヤするような設定だが、その二人が芸術家と旧ソ連の残党、という桁違いの分断を大元にしているのがすごい。二人のすれ違いからは、美しい映画のセットの外の「失われた時」の重苦しさを想像させられる。年老いた人が「かつて」の話しかできない自分を止められないことに、自らうろたえる描写はすごい迫力だ。
西川美和(映画監督)
熟成された時間を、深々と味わうような美しい映画です。
幾重にも人々を引き裂いた歴史の破片を、今繋ぐもの。それは「生きることを愛する才能」という美酒でしょうか?
加藤登紀子(歌手)
暗黒の時代を経験し過酷な人生を送ったにも関わらず、ゴゴベリゼ監督の大らかな優しさが滲み出て登場人物の一人一人を慈しみながら描いてゆく。
映画というものの力を、その美しさを全身に感じ幸せな時間になった。
吉行和子(女優)
人間は“劣化”なんかしない。
老いるとは“経年美化”することである。
時をためると、果実が実り、過去は、やがて財産になる。
だんだん美しくなる人生を。
映画「金の糸」は人生の讃歌です。
伏原健之 (東海テレビ放送 『人生フルーツ』監督)
気づいたら作品に引き込まれており、気づいたら終わっていた。しかし、確実な何かが後に残される。まるで人生のようだ。
『金の糸』を通じてジョージアの人生観に是非触れていただきたい。
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
家の中から一歩も出られない主人公。だが、会話と思考によって、彼女の冒険は空間も時間も超えてどこまでも広がっていく。その無邪気な大胆さに何より魅了された。
月永理絵(エディター&ライター)
政治的立場、男女の思い、世代の隔絶。砕けたそれらをエレネは縫い直す。苦難の時代を生きた女性たちの頬に刻まれた皺は、金の糸だ。その皺がひどく羨ましくて、生きて、歳をとりたいと思った。
鈴木史(映画監督・美術家・文筆家)
心を澄ましてエレネの言葉を聞こう。
限りある時を如何に生きるべきか。
起きた出来事を憂うのか、
それとも解釈を変えて好転させるのか。
意識をどこにフォーカスするかで
私達は過去さえ変えられる。
黒田雪子(金継師)
過去と過去をつなぎ合わせ時間も空間も超えた物語。監督自身の過去やジョージアの歴史も紡ぎ、祈りも込められている。この映画との関わり方もまた、人と人をつなぐ“金継ぎ”じゃないかと思う。
堀 道広(うるし漫画家/金継ぎ部主宰)
激動のソ連時代を生き、人間と時代を見つめてきたゴゴベリゼ監督。
その彼女が到達した金字塔。人生を洞察し、過ぎ去った歳月を問い、今をよりよく生きる。
美しく、優しく、深い余韻をいつまでも心に残す。
はらだたけひで(画家・ジョージア映画祭主宰)
ラナ・ゴゴベリゼ監督オンライン舞台挨拶
日時:2/26(土)13:00 の回&15:30 の回上映後
会場:岩波ホール
『金の糸』上映後トーク
スケジュール:※すべて 13:00 の回上映後
3/3(木)加藤登紀子(歌手)
3/10(木)はらだたけひで(画家・ジョージア映画祭主宰)①
3/17(木)ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
3/24(木)はらだたけひで②
3/31(木)はらだたけひで③
4/7(木)五月女颯(ジョージア文学・批評理論研究)
4/14(木)廣瀬陽子(慶応大学教授・コーカサス地域研究)
会場:岩波ホール
※新型コロナウィルスの感染状況により、上映時間やイベントを変更・中止する場合がございます。劇場 HP やお電話で最新情報をご確認ください。
金の糸
2022年2月26日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開
【ストーリー】
トビリシの旧市街の片隅。作家のエレネは生まれた時からの古い家で娘夫婦と暮らしている。今日は彼女の 79 歳の誕生日だが、家族の誰もが忘れていた。娘は、姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、この家に引っ越しさせるという。ミランダはソヴィエト時代、政府の高官だった。そこへかつての恋人アルチルから数十年ぶりに電話がかかってきて…
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ|撮影:ゴガ・デヴダリアニ|音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ、ダト・クヴィルツハリア
原題:OKROS DZAPI|英語題:THE GOLDEN THREAD|2019 年|ジョージア=フランス|91 分
字幕:児島康宏
配給:ムヴィオラ
©️ 3003 film production, 2019
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