身分を隠して高級娼館に潜入した作家エマ・ベッケルの2年間を描いた小説『La Maison』を映画化した『ラ・メゾン 小説家と娼婦』が12月29日(金)より公開されるのに先立ち、来日記者会見及びジャパンプレミアが11月22日(水)に開催され、主演アナ・ジラルドと監督アニッサ・ボンヌフォンが登壇した。
実際に娼館で働いた体験を小説にするという大胆すぎる取材方法が賛否両論を巻き起こした小説『La Maison』はアンダーグラウンドで生きる女性たちのリアルな姿が大きな共感を呼び、世界16ヵ国で大ベストセラーに。本作はこの小説を基に、『ワンダーボーイ』(19)で熱い注目を浴び、『マダムのおかしな晩餐会』(18)、『THE INFORMER 三秒間の死角』(19)など女優としても活躍する気鋭の女性監督アニッサ・ボンヌフォンが映画化した作品。
本作の今回の映画化に至った経緯について監督は「君だったらとっても興味深い映画が作れるよ」とプロデューサーから本を渡されたことがきっかけ」だったという。やがて、小説を読み進めるにつれ、この女性は『自分は誰なのか』『自分のセクシュアリティ』『自分の性的な欲望』―そういうものから目を背けないで、物申すことができる。その言動の自由、彼女の選択の自由について、心惹かれたんです」と、自身にとって初めてのフィクションドラマに挑戦することを決意した経緯を語る。
娼館に潜入する主人公エマに抜擢されたのは、小栗康平監督作『FOUJITA』(15)でのユキ役や、セドリック・クラピッシュ監督『パリのどこかで、あなたと』(19)等で日本でも知られ、ファッションモデルとしても人気急上昇中のアナ・ジラルド。本作への出演については「アニッサ(監督)がオーディションをパリでかなり大々的に行なっている、ということを噂で聞いていて。いつも私が受けているオーディションと比べると、かなりきつかったので…1週間くらいずっとセリフを覚えてチャレンジだと思って臨みました」と振り返り、身体的にも精神的にもハードな本作の主演だが「どうしても挑戦したかった」「オーディションで勝ち取ったんです」と熱く語る。
パリ中から才能が集まったオーディションを経て、アナ・ジラルドを主演に抜擢した監督。その理由について「大々的なキャスティングオーディションをやって、その時にもたくさんの女優たちとオーディションをしたんですけれども、なかなか本当に納得のいく人に出会っていなかった。そんな時に、この映画のエマの姿を具体的に思い描いた時に、思い浮かんだのがアナ・ジラルドの姿形だったんです。それはカンヌ国際映画祭でのレッドカーペットで、彼女の立ち振る舞いがとってもセクシーで、とても『女性性』というものをうまく見せている。そのポージングにとても惹かれました」と語り、フランスの女優はなかなかセクシーな振る舞いというのを解らないんです、と付け加えながら「でも彼女はそれをレッドカーペットで成し遂げていた。これはアナ・ジラルドで撮ることに価値があるな、と思ったわけです」と述懐する。
そして、実際にアナ・ジラルドがオーディションに来た際「エマの欲望を語るアナの姿を見て、本当にちょっと電気が走ったように、彼女だ、と確信しました」と語る。
娼婦という職業について監督は「(原作者の)エマ・ベッケルもそうですけど。劇中の娼館の女性たちは自分たちの意思で選んで働いているわけですよね。現実の大半の娼婦が仕方なく、あるいは強制的に、ということが多いにもかかわらず、自分が選んでやっている。そういう女性たちに出会うのはとても興味深いんだろうなあ、と思ったんです。おそらく、いろんな理由があってそこに集まってるんだ、と思いました」と持論を述べ、「大体こういう話がなされるときっていうのは、ジャッジするような視線が入りますけれども、私自身がそれをジャッジとするとか、そういう視点を持つことはしないようにしようと思いました」と見解を明かした。
娼婦という職業を選んだとしても「いろんな人がいるんだよ、必ずしも危険な場所ではない。絶対に危険ではない、というわけではないが、危険そのものではない、ということも知ってもらいたかった。見たくない、知りたくないという、そういうふうな視点をちょっと変えてほしいなと思って、この作品に挑みました」と想いを明かす。
エマ役を演じたアナ・ジラルドは役柄へのアプローチについて「ハードルが高い部分は裸のシーンが多かった」と語る。「今回の作品は身体的なところから入っていく必要がありました。しかも、裸の男性パートナーと一緒のシーンもたくさんありますから、自分の身体と向き合わなければいけなかった。いつもだったら衣装にも助けてもらえるシーンが本作ではそうもいかなかった」と苦笑い。そして、本作のために、パリの有名キャバレー「クレイジーホース」のダンサーと「裸で高いハイヒールを履いて歩く練習、そして鏡の前で、裸で歩いている自分をしっかりと見つめる」というハードなレッスンを行なっていたことを告白。「それは確かに辛く、大変でしたけれども、私にとっては自分を見つめ直す、ちょっとした発見だった」と思い返した。
「娼館」について「人類が続く限り、続くのか?あるいは来世紀あたりは廃れてしまうと思いますか?」と記者から質問を受けた監督。「人間が地球に存在する限り、この職業も存在し続けると思います」と返答し、「ただ私がこの作品を通して言いたいのは、とりわけフランスでは、この売春という職業にまつわる偽善があります。今でも売春はもちろん禁止されているにもかかわらず、現実には存在しています。でも現実に存在していても見ないふりをする。見ないふりをすることで彼女たちをケアすることを怠っている。そういう偽善があるのです。つまり、社会保障もない危険な状況に彼女たちを放置している」と現実を述べた上で、「彼女たちの存在を受け入れて、そして社会的なプロテクションをきちんとしてくれたらと思っています」とメッセージを送った。
続いて、新宿バルト9で行われたジャパンプレミアにも二人揃って登壇。初めて日本の一般客の前にお披露目される本作について「『この映画を成功させて、いずれ来日したい』と、ずっと話していた」と念願の来日だったことを告白。
劇中に様々な形で登場するセックスシーンについて監督は「セックスを見せるとか、飾りのように」描いたのではない、と断言。「物語を進めていく上で意味をちゃんと持っている。エマという人物、そして物語を理解するためにセックスシーンが登場しています。セックスシーンでは彼女の感情が全開で表現されているので、お楽しみください」と観客に投げかけた。
また娼館の女性たちの関係性について「『彼女たち一人一人がどうしてそこにいるのか』必然性があって、違うんです。この職業を選んでいる。そしてその職業を選んだことを他の人たちには言ってないのかもしれないけれども、お互いの本業は知らなくてもすごくお互いを理解しあっている、というのがとても美しいなと思いながら描きましたので見てください」と思いを込めた。
そして、今後日本で共演したい監督やキャストについて問われたアナ・ジラルドは以前『FOUJITA』で共演したオダギリジョーを絶賛し、「また共演したい」と志願。「是枝裕和監督とも一緒に仕事をしてみたい。日本語をマスターしなければならないけど、それもチャレンジしてみたい」と笑顔を見せて締めくくった。
『ラ・メゾン 小説家と娼婦』は12月29日(金)より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
ラ・メゾン 小説家と娼婦
2023年12月29日(金)より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督:アニッサ・ボンヌフォン 原作:「La Maison」エマ・ベッケル著 出演:アナ・ジラルド、オーレ・アッティカ、ロッシ・デ・パルマ、ヤニック・レニエ、フィリップ・リボット、ジーナ・ヒメネス、ニキータ・ベルッチ
2022年/フランス、ベルギー/フランス語、英語、ドイツ語/89分/カラー/1:2.35/5.1ch/原題:La Maison/字幕翻訳:安本熙生 /R-18/配給:シンカ
© RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES
本作は“French Cinema Season in Japan”の一環として、ユニフランスの支援を受けて公開されます。
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