毎年、世の映画好事家をうならせてきた「奇想天外映画祭」が今年も「奇想天外映画祭2025」として10月4日(土)より新宿K’s cinemaにて開催。7年目を迎える今年は、初登場の衝撃作に加えて、今までの映画祭で評判が高かった怪作群をアンコール上映する混合構成となる。
まずは17世紀フランスで起きた史上名高い“ルーダンの悪魔憑き事件”を鬼才ケン・ラッセル監督が正面から切り込んで作り上げた衝撃作『肉体の悪魔』。人間の真の本性に迫ったケン・ラッセルの頂点ともいえる本作が満を持して初登場。
そして、2020年の奇想天外映画祭で上映されるや、即完売となり緊急公開もされたロビン・ハーディー『ウィッカーマン final cut』。クリストファー・リーが自身の最高傑作と語り、アリ・アスターも『ミッドサマー』制作に大いに影響を受けたと話す問題作がスクリーンに再登場する。
アンコール上映はほかに、ハリー・クーメル『赤い唇』、コンラッド・ルークス『チャパクア』、マイケル・パウエル『血を吸うカメラ』、ポール・バーテル『プライベート・パーツ』、モハメッド・ラクダル=ハミナ『くすぶりの年代の記録』、ムシャ『デコーダー』、スラヴァ・ツッカーマン『リキッド・スカイ』、ルイス・ブニュエル『昇天峠』、ジョルジュ・フランジュ『赤い夜』がラインナップ。
また『肉体の悪魔』のほかに初登場となる作品としては、「人間の条件」などの小説で知られるフランスの文学者アンドレ・マルローが、1937年のスペインの激しい内戦を映画化した『希望/テルエルの山々』、トニー・ガトリフ監督が、ジプシーの流浪の歴史を、音楽を通して壮大に綴った映像叙事詩『ラッチョ・ドローム』が上映される。
そして、幕末土佐の天才絵師“絵金”を描いた中平康監督の幻の傑作『闇の中の魑魅魍魎』、麿赤兒と大駱駝艦の舞台をフィーチャーした異色のドキュメンタリー、林海象監督『ちんなねえ』も映画祭のなかで特別限定公開される。上映作品詳細は以下のとおり。

上映作品紹介
『肉体の悪魔』 The Devils
1971│イギリス│カラー│113 分│BD
監督・脚本:ケン・ラッセル 美術:デレク・ジャーマン
出演:オリバー・リード、ヴァネッサ・レッドグレーヴ
17世紀フランスで起きた史上名高い“ルーダンの悪魔憑き事件”を鬼才ケン・ラッセルが正面から切り込んで作り上げた衝撃作。宗教的抑圧がもたらす狂気、腐敗した国家と教会、そして人間の内に潜む悪魔をあぶり出していく。狂乱と淫行の中で発生する“悪魔憑き”…映画史に深く刻まれた狂乱のカルト映画。

『ウィッカーマン final cut』 The Wickerman the final cut
2013(1973)│イギリス│カラー│94 分│DCP
監督:ロビン・ハーディー
製作:ピーター・スネル 脚本:アンソニー・シェーファー 音楽:ポール・ジョヴァンニ
出演:エドワード・ウッドワード、クリストフアー・リー、ブリット・エクランド
スコットランドの禁断の孤島に行方不明の少女の捜索のために降り立ったハウイー警部が目にしたものは想像を超えた、天外魔境の世界だった。2013年、監督のロビン・ハーディーは自ら再編集して6分長いこのfinal cut ヴァージョンを完成させた。カルト映画の巨人の完成だ。

『赤い唇』 Les lèvres rouges
1971│ベルギー=フランス=ドイツ│カラー│100 分│DCP
監督:ハリー・クーメル 音楽:フランソワ・ド・ルーペ
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ダニエル・ウィメー、ジョン・カーレン
舞台はベルギーの港町オステンドのホテル。宿泊した新婚夫妻が、優雅でミステリアスな伯爵夫人に出会ったことから引き込まれていく禁断の世界を、奇想と恐怖、独特のエロティシズムをふんだんに盛り込んで描き、“『血とバラ』以来のアーティスティックなヴァンパイア映画”と賞賛された。怪奇幻想映画の巨匠ハリー・クーメルの代表作であり、主演のセイリグの銀色に輝くミステリアスな妖しさに酔いしれる奇想吸血鬼映画。

『希望/テルエルの山々』 L'espoir
1939│フランス=スペイン│モノクロ│73 分│35mm
監督・原作:アンドレ・マルロー
出演:アンドレ・メヒュート、ニコラス・ロドリゲス
「革命における最も偉大な力は<希望>である」1937年のスペイン内戦を舞台に反乱軍と市民たちの激しい戦い。テルエルの山中にも反乱軍が建設中の飛行場が発見され麓の市民と共和国軍は飛行場爆破のため必死の作戦を展開していくが……。アンドレ・マルローが監督した唯一の映画であり、戦火の中で撮影を敢行したリアルなドキュメンタリーに近い映像は、ネオリアリズモの先駆的作品と評価された。

『ラッチョ・ドローム』 Latcho Drom
1993│フランス│カラー│103 分│35mm
監督・脚本:トニー・ガトリフ
音楽:アラン・ヴェベール
インド西部のラジャスタンを出発点に、アジア、アラブ、ヨーロッパと8カ国にまたがり長い流浪の旅についたロマ(ジプシー)。映画は彼らの奥底から湧き上がる音楽を通してジプシーの歴史と民俗を語りつくしていく。監督自らのルーツであるロマへの限りない讃歌、それはラストの“魂の叫び”ともいうべきジプシー音楽と踊りにこめられている。魂を揺さぶる快作、と言えようか。

『フリークス』 Freaks
1932│アメリカ│モノクロ│64 分│35mm
製作・監督:トッド・ブラウニング
出演:ハリー・アールズ、オルガ・パラクーノヴァ、ヘンリー・ヴィクター
「映画史上唯一無二の存在」と評されて久しい、この奇跡の怪作は90年を超えて、今なお燦然と輝き続けている。出演者フリークたちと同じ目線で作りあげた監督ブラウニングの洞察力とフリークに対する深い愛情が全編に満ち溢れている、これこそがこの作品輝ける存在意義だ。

『チャパクア』 Chappaqua
1966│アメリカ│カラー│82 分│BD
監督・製作・脚本・出演:コンラッド・ルークス
撮影:コンラッド・ルークス 音楽:ラビー・シャンカール
出演:オリバー・リード、ヴァネッサ・レッドグレーヴ
18歳でアルコールとドラッグ中毒を克服しようとスイスのサナトリウムに入院した男が体験する幻想の世界をシュールな凝った映像で描いた『チャパクア』はコンラッド・ルークスの実体験に基づいた処女作だ。生涯に2本の作品を残して(もう1作は『シッダールタ』)忽然と表舞台から姿を消し、後年はタイに居を構えていたというルークスの痛烈なアメリカ文明批判ビートニク映画だ。

『プライベート・パーツ』 Private Parts
1972│アメリカ/カラー│87 分│BD
監督:ポール・バーテル
出演:エイン・リュメイン、 ルシール・ベンソン
同居女性との喧嘩でアパートを飛び出した女性が叔母の経営するホテルに逃げ込んだことから巻き起こされるこの作品のプロットは、あたかもヒッチコックの『サイコ』を想起させる異様な展開だ。全編、奇想天外人間が次々登場、アッと言わせるラストまで目を離せない。『デス・レース 2000 年』で知られる異色の監督ポール・バーテルの処女怪作。

『血を吸うカメラ』 Peeping Tom
1960│イギリス│カラー│102 分│BD
監督:マイケル・パウエル
出演:カール・ベーム、アンナ・マッセイ
衝撃的なスナッフ・ムービーの撮影シーンからスタートするこの作品は”異常なシリアル・キラー”をテーマにしたことから、酷評され長きにわたって映画史の闇に葬り去られてきた。70年代に入り、スコセッシが賞賛したことから評価され始め、“サイコ・スリラー映画の原点”と刻まれている。

『くすぶりの年代の記録』 Ahdat sanawovach el-djamr
1975│アルジェリア│カラー│178 分│BD
監督・出演:モハメッド・ラクダル=ハミナ
出演:ヨルゴ・ボヤジス、レイラ・シェナ
1975 年カンヌ国際映画祭 パルムドール受賞
アルジェリア建国の苦難の歴史を「灰の都市」「荷車の年」「くすぶりの年」虐殺の年」という4つのテーマに分けて1954年の独立戦争までを描いた壮大な歴史ドラマ大作。随所に登場するストーリー・テラー“MadMan”はアルジェリアの歴史を突飛な言葉で語りかけていて興味深い。

『デコーダー』 Decoder
1984│ドイツ│カラー│87 分│DCP
監督:ムシャ
出演:F・M・アインハイト、ビル・ライス、クリスティーヌ F、W・バロウズ
ドイツのハンバーガーショップでノイズ音楽を撒き散らして人々を洗脳化して暴徒化させていく事態を創作していた青年FMは、ノイズで神経に異変を起こした人々に、追い込まれていくのだが…。伝説のジャーマン・カルト珍奇作。

『リキッド・スカイ』 Liquid Sky
1982│アメリカ│カラー│112 分│DCP
監督・製作:スラヴァ・ツッカーマン 脚本:アン・カーライル
出演:アン・カーライル、ポーラ・E・シェパード
小さな宇宙線がニューヨークに着陸した。サイケデリックなネオンカラーに彩られた奇怪で気取った世界。エイリアンたちは麻薬の陶酔を求めて、ヘロインからさらには人間のオーガニズム絶頂期に脳内で分泌されるという快楽物質を追い求めている。輝きを失っていくニューヨーク、セクシュアリティの解放、性暴力への復讐、そしてセックスに取り憑かれた男たちは絶頂に達すると消滅する…。80年代が生んだ、カルトの枠を超えたぶっ飛び SF ミッドナイト・ムーヴィー。

『昇天峠』 Subida al cielo
1951│メキシコ│モノクロ│76 分│BD
監督:ルイス・ブニュエル
出演:リリア・プラド、カルメン・ゴンザレス
メキシコ、ゲレーロ州の海沿いの村、サン・ヘロミート。この村はヤシの実の栽培で成り立っている。主人公オリヴェリオは結婚式の当日、母の容態が突然悪くなったことから、彼はとある事情で隣町までバスで出向くことになる。危険な山道をひた走るバスにあっと驚く珍事が次々と降りかかってくる…。メキシコ時代のブニュエル・ワールド満載の珍快作。

『赤い夜』 Nuits rouges
1974│フランス=イギリス合作│カラー│100 分│BD
監督:ジョルジュ・フランジュ
出演:ゲイル・ハニカット、ジャック・シャンブルー、ジョセフィン・チャップリン
舞台は 1970 年代のパリ。テンプル騎士団の悲報を狙って”赤い仮面”の男が率いる仮面軍団とゾンビ軍団が共闘して挑むのだが…。フランジュの遺作となった本作は、自身の『ジュデックス』(1963)の流れをくむ荒唐無稽なアクション活劇の一編。

「奇想天外映画祭 2025」限定公開
『闇の中の魑魅魍魎』 Yami no naka no chimimoryo
1971│日本│カラー│110 分│DCP
製作・監督:中平康 脚本:新藤兼人 音楽:黛敏郎
出演:麿赤兒、扇ひろ子、岡田英次、加賀まりこ、稲野和子、土方巽
カンヌ国際映画祭正式出品
幕末土佐に活き、権力に抗しながら自己を貫いた異端の天才絵師金蔵(絵金)の半生を描いた問題“快作”。初公開から 54 年、デジタルリマスターで甦った圧巻の映像美と絵金役の麿赤兒の怪演がひときわ胸を打つ。

『ちんなねぇ』 Born To Be Baby
1997│日本│カラー│43 分│BD
製作:高知県、高知県立美術館、(財)高知県文化財団、映像探偵社 所蔵・高知県立美術館
監督:林海象 出演:麿赤兒、大駱駝艦、原田芳雄(友情出演)
高知県立美術館の開館 3 周年企画としてプロデュースされた舞踏公演「トナリは何をする人ぞ』をフィーチャーした異色のドキュメンタリー。林監督は約90分の舞台のエッセンスを30分に凝縮し、そこに探偵や謎の美女、絵金などが登場するフィクションを絡めて摩訶不思議な作品に仕上げた。

奇想天外映画祭2025
2025年10月4日(土)より新宿K’s cinemaにて開催
場所:新宿 K’s cinema 新宿区新宿 3 丁目 35−13 SHOWAKAN ビル3階
日時:2025 年 10 月 4 日(土)~10 月 24 日(金)
配給:アダンソニア 宣伝・配給協力:ブライトホース・フィルム 協力:メダリオンメディア、仙元浩平 デザイン:千葉健太郎
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