スイス映画界の巨匠アラン・タネールの幻の傑作『光年のかなた』(81)と『白い町で』(83)の4Kレストア版ブルーレイBOXが7月25日(金)に国内初リリースされることが決定した。また、その発売を記念して7月19日(土)より渋谷ユーロスペースにて2週間限定上映が決定した。あわせて、ポスタービジュアル・予告編が解禁された。
ダニエル・シュミット、フレディ・M・ムーラーと並びスイス映画界を代表する映画作家アラン・タネール。1960年代末から70年代にかけて、多言語が交錯し多様な文化を有するスイスに「ヌーヴォー・シネマ・スイス」と呼ばれる新たな映画の潮流をもたらし、ヨーロッパをはじめ世界の映画史の変革をもたらした。
ゴダールやトリュフォーなど仏ヌーヴェル・ヴァーグ作家と同世代のタネールは、ロンドンで「ブリティッシュ・ニューウェーブ」、そしてパリで「ヌーヴェル・ヴァーグ」など新時代の映画運動に強烈な刺激を受け、映画製作を開始。初長編作『どうなってもシャルル』(69)で世界的な注目を集めるようになる。反体制的な視点を盛り込みながら、現代を生きる人の心の空虚さや精神の揺らぎといった個の内面を表出させる彼の作品は、世界中で共感を持って受け入れられ、後に続くスイスの作家たちの先鞭となった。
1981年、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した『光年のかなた』(81)はタネールの代表作となり、日本では1985年に「アラン・タネール映画祭」が開催され、評論家の蓮實重彦、梅本洋一らの手によって積極的に紹介された。『白い町で』(83)はシネセゾン配給により1986年に全国劇場公開され、ミニシアター文化の草創期を担う作家として大きな人気を博した。
7月25日(金)、最新の高精細4Kリマスター版で二つの傑作『光年のかなた』『白い町で』がついに国内初ブルーレイが発売される。この発売を記念して劇場での2週間限定上映が決定。スクリーンに蘇るのは約40年ぶりとなる。2022年9月、奇しくもゴダールが亡くなる3日前にこの世を去ったタネールが遺した珠玉の2作品を堪能できる。

コメント
▼アルフォンソ・キュアロン(映画監督『ROMA/ローマ』『ゼロ・グラビティ』)コメント
タネールの映画からは大きな影響を受けた。
彼の作品に登場する人物の複雑さには計り知れないものがある。
彼は映画のキャラクターの内に秘めた矛盾が、いかに観客の心を揺り動かすかを信じていたのだ。
▼ウォルター・サレス(映画監督『アイム・スティル・ヒア』『セントラル・ステーション』)コメント
大好きな映画のひとつ!(『白い町で』)
作品情報
『光年のかなた 4Kレストア』
1981年カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞
主演:トレヴァー・ハワード、ミック・フォード
1981年|スイス=フランス|カラー|108分|ビスタ|DCP
©All rights reserved to The French Connection, 2025

「いざ大空へ」――銀河の果てまで飛翔する無垢な魂。
アイルランドの美しい大地を舞台に描かれる老人と青年の不思議な交流。
英国名優トレヴァー・ハワードを主演に迎えた傑作ファンタジー。
アイルランドの田舎を舞台に、青年ジョナスと大空を夢見る風変わりな老人の交流をファンタジックに描いたアラン・タネールの長編第7作。スイスの作家ダニエル・オディエの小説「野性の道」(78)を原作としたタネール初の英語作品。〈ここではないどこか〉を希求する老人と、彼に心惹かれ手助けをする青年。タネールはこれまでも社会から逸脱し、自身の主義のために世界に抗う人物たちを愛おしく、そして時に鋭い視線で描いてきた。この眼差しは小説の映画化の本作においても、作品内にしっかりと「タネール映画」の刻印が刻みこまれている。自身もインタビューで「この物語の登場人物は私のものだと自覚した」と語っている。一方でファンタジー要素を多く含んだ世界観は、ヌーヴェルヴァーグの遺伝子を受け継いだ以前の作品とは異質の感触を持ち、よりエンタメ性の高い作品となっている。時に「アメリカン・ニューシネマ的」とも評される。撮影を担当したのはジャン=ジャック・ベネックス監督の『ベディ・ブルー』(86)で知られる名キャメラマン、ジャン=フランソワ・ロバン。荒涼かつ湿潤なアイルランドの原風景を見事にフィルムに収め、観客を圧倒する。主演はデイヴィッド・リーン監督の『逢びき』(45)やキャロル・リード監督『第三の男』(49)などで知られる名優トレヴァー・ハワード。変わり者の老人ヨシュカをエキセントリックかつチャーミングに演じる。1981年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど高い評価を獲得した。2021年8月にリマスターされた4Kレストア版、日本初上映。
『白い町で 4Kレストア』
1984年セザール賞最優秀作品賞受賞/1983年ベルリン国際映画祭金熊賞ノミネート
出演:ブルーノ・ガンツ、テレーザ・マドルーガ
1983年|スイス=ポルトガル|カラー|109分|ビスタ|DCP
© Filmograph - Alain Tanner. Collection Cinémathèque suisse.

「僕は元気だ。何もしていない」 時が逆さに流れる町ポルトガル・リスボンで、
男は白くて自由な夢を見た。アラン・タネールがキャリアの円熟期に放った最も美しい傑作。
晩夏。陽の光を反射させ白く輝く迷路のような町をあてどなく放浪する一人の男。「自由とは何か?」。自己に深く潜り込み、日常と時の流れから離脱しようとする男の旅路を、柔らかな光線で詩情豊かに綴った紀行エッセイ的アラン・タネール長編第8作。タネールは詳細な脚本は執筆せず、頭に浮かんだ風景、言葉、感情、記憶を自由に連想させ、また併せて俳優たちも即興的な演技を披露して撮影されたという。これまでのキャリア上最も意欲的かつパーソナルな内容であり、同時に観るものの感性を揺さぶる美しい作品に仕上がっている。本作をタネールの最高傑作に挙げる人も多く、『エクソシスト』(73)などで知られるウィリアム・フリードキン監督をはじめ、2025年アカデミー国際長編映画賞を受賞した『アイム・スティル・ヒア』のウォルター・サレス監督も「お気に入りの映画」とコメントしている。ヴィム・ヴェンダースが心の迷宮として印象的に描いたリスボンを、タネールは社会システムからの逃避と抵抗、そして同時に個の脆さを露呈させる迷宮として描き出す。劇中に幾度となく挿入される8ミリフィルムで撮影されたリスボンの町並みが、観客の胸に郷愁の想いを呼び起こす。主演はヴィム・ヴェンダース、ヴェルナー・ヘルツォーク、テオ・アンゲロプロス、ラース・フォン・トリアーなど数々の世界的巨匠の作品に出演した名優ブルーノ・ガンツ。人生の倦怠から逃れようとする主人公ポールを、悲哀とユーモアの絶妙なバランスで演じている。2019年8月にリマスターされた4Kレストア版で上映。
『光年のかなた 4Kレストア』『白い町で 4Kレストア』
2025年7月19日(土)より渋谷ユーロスペースにて2週間限定上映
配給:アート・アンサンブル/宣伝協力:XHORA/後援:在日スイス大使館
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